いざ鉄の国03
「だーかーらー」
一義は高速で繰り出されるルイズの拳を受け流して掌底を打つ。
練られた勁が波紋のようにルイズの肉体に浸透する。
「がはっ!」
息を嘔吐するルイズ。
「体を緊張させすぎ」
それが今のルイズの課題だった。
「リラックスリラックス」
「とは云われても~」
訓練場を一つ借りてルイズと相対する一義。
元々西方の剣には理が無い。
大鑑魔法主義が蔓延っているせいもあって剣を極めるという発想がないのだ。
仮に剣で一流になろうとしても、
「筋肉をブーストして、より重い剣を振り回せるようになる」
程度の認識でしか無い。
型を覚え、一定の術理を肉体に刻み込む……というのは和の国の発想だ。
当然ルイズが知るはずもない。
その悪癖を正すところから始める必要があった。
「ていうか師匠の身体能力はどうなってるの?」
「まぁ亜人だから人間よりは丈夫だね」
「ミュータントよりも?」
「さすがにそこまでじゃ……」
「でも勝てない」
「体の動かし方に問題があるんだよ」
一義は倒れているルイズに手を差し伸べる。
握るルイズ。
次の瞬間、
「うあいたっ!」
急激に関節に痛覚を覚えて立ち上がるルイズ。
「人体の構造を知ればこういうことも出来るわけ」
「魔術かな?」
「うんにゃ?」
軽く否定。
「あえて云うなら柔術」
「柔術……」
「合気とも云うかな?」
「合気……」
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。こと対人戦闘に置いて人体に考察を加えることが敵と己を知る方法だよ」
「云いたいことは分かっているつもりなんだけど……」
「じゃあ座禅を組もうか」
「座禅を……」
肉体の練度そのものはルイズが一歩勝る。
であるため座禅くらいはルイズにも出来る。
一義とルイズは互いに見つめ合える距離で相対して座禅を組んだ。
「じゃあ始めるよ」
「はいっす」
「右手の拳に力を」
「うっす」
グッと握りしめる。
「その力を腕へ」
「うっす」
ググッと力の伝達。
マッスルコントロール。
「二の腕へ」
「うっす」
ムキッと筋肉が膨張した。
「うなじへ」
「うっす」
ボコッと二人のうなじが筋肉で膨張する。
「左腕へ」
「うっす」
「腹筋へ」
「うっす」
「膝……足……戻って腰……」
マッスルコントロールが続く。
自在に筋肉を操る。
肉体制御の基本だ。
同時に奥義でもあるのだが。
「出来るじゃん」
「いっぱい練習したからね」
ニカッと笑うルイズ。
一応師匠の云うことは飲み込んで糧にしているらしい。
「偉い偉い」
クシャクシャと銅色の髪を撫でる。
「えへへぇ」
と嬉しそうに微笑むルイズだった。
「さて」
一義は座禅を崩した。
「あぐらをかこう」
「? ……はあ」
座禅を取りやめるルイズ。
「脱力」
「と云われても」
「筋肉の状態は感知できるようになったはずだよ?」
「それはそうだけど……」
「リラックス。硬直した筋肉を和らげて、こりは呼吸に変えて体外に吐き出す。筋肉を液体にするイメージかな?」
「筋肉を液体に?」
「そう。マッスルコントロールで筋肉の全容を掴むコツは得たでしょ?」
「だね」
「次は習慣的に筋肉のこりをほぐす修行。あぐらをかいてリラックス」
「むむ」
ピクピクとルイズの筋肉が痙攣する。
「まぁ云われてすぐに出来るなら訓練は要らないし。ゆっくり習得すれば良いよ」
「もしかして先の組み手は……」
「今ルイズに足りない物を把握させるための下ごしらえ」
「は~……」
ルイズは感嘆とした。