いけない魔術の使い方27
謁見の間。
それは縦に長い部屋だった。
赤いカーペットが敷かれている。
老齢のウェイブ王が玉座につく。
一義は敬意も表さず、礼をすることもなかった。
「それで? 我に何用か?」
ウェイブ王は玉座についたまま一義に問うた。
当然である。
先に喧嘩を売ったのは一義である。
巻き込まれたウェイブ王こそ、はた迷惑この上ないだろう。
一義は堂々としていた。
謁見の間には一義とウェイブ王の他に王属騎士たちが壁のように居並んでいながら……である。
「ウェイブ王に不敬があれば即座に斬る」
そんな意志が窺えた。
無論そんなことは一義にとっては些事であったが。
「何の用か?」
と問うウェイブ王に、一義はエレナとそれを取り巻く陰謀を伝えた。
即ちエリサがエリスの用意した毒によって徐々に衰退していること。
即ちエリスがそんなことを仕出かしていながらエリサの味方を偽っていること。
即ちウェイブ王のエレナに向けた参集の手紙はエリスの勢力によって握りつぶされていること。
即ちエリサは優しく接するフリをしたエリスを味方だと勘違いしてエレナを王位につけないために……もっと言うのならエリスを王位につけるためにファンダメンタリストにエレナの暗殺を依頼したこと。
即ち全てはエリスの陰謀であること。
即ちエリサの意志だけでは足りないと思いエリス自身も完全存在である東夷にエレナ暗殺の依頼を出したこと。
全てを語り終ると、
「正気か?」
とウェイブ王は問うた。
「まぁ信じられないのも無理はない」
と一義は思う。
一義とて冗談と思いたいくらいだ。
しかして夜々が嘘をつく必要性は無い。
そして冗談だとするなら、
「僕がここにいる理由にならないでしょ?」
そういうことなのだった。
「エリスがエリサとエレナを害していると……?」
困惑するウェイブ王に、
「ええ」
さっぱりと頷く一義。
「エレナを暗殺しようとして……それから第一王女エリサを少しずつ遅延性の毒で弱らせて王位につこうとしているんですよ」
事実を述べる。
「それを信じろと?」
苦虫を噛み潰したような表情をするウェイブ王に、
「先にも言いましたが根拠もなく波の国に喧嘩売ったりはしませんよ」
一義は何処までも遠慮なく言うのだった。
「で?」
これはウェイブ王。
「我にどうしろと?」
それは本質。
要するに、
「何をすればいいのか」
という問いだ。
一義はハツラツと言った。
「第一王女エリサ……は弱ってるから無理としても……第三王女エリスをこの場に呼び出してもらいたいですね」
「ふむ……」
思案するようなウェイブ王。
「嫌ならいいんですよ?」
一義は皮肉気だ。
「城の全員を纏めて消去するだけですから」
強迫以外の何物でもなかった。
「それは困る」
ウェイブ王は正直だった。
そして使用人にエリスを呼び出すように言った。
しばしの時間が流れる。
桜色のドレスを着た桜色の美少女が現れた。
エレナと同じく桜色の髪に桜色の瞳を持った少女だ。
「何ですか……いきなり?」
おそらく第三王女エリスなのだろうと一義は悟る。
エリスは言う。
「エリサお姉様を看病しなければならないのですけど」
桜色の瞳には困惑とは違う……、
「面倒だ」
という感情が透けて見えた。
「ああ、実はな……」
ウェイブ王は一義の語った内容をエリスに伝えた。
エリスは表情を固くして、
「そんな突拍子もないことをお父様は信じているんですか?」
そう言った。
「まぁ信じるに足る根拠は無いだろう」
と一義も思う。
しかして夜々の言葉に嘘があるとも思えない。
故に一義は、
「失礼」
と言って、斥力場を発生させてエリスを自身に引き寄せアイアンクローをかますと矛盾の魔術を適応させた。
エリスという存在はまるで夢のようにフツリと消え去るのだった。
「これでエリサ王女を害する人間はいなくなりました。エリス派の兵士や使用人も鞍替えするでしょう。長い間エリサ王女は毒を盛られていますから容易に正すことは出来ないでしょうけどソレも時間が解決してくれるはずです」
全ての元凶であるエリスを消し去った一義はいけしゃあしゃあとウェイブ王にそう言うのだった。
こうしてエレナを取り巻く厄介事には決着がついた。