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いけない魔術の使い方26


「とまれ」


 城門前。


 二人の兵士がハルバートを交錯させてバツの字を作ると一義の進行を止めた。


 一義はピタリと止まる。


「何者だ」


 命令口調で問うてくる兵士に、


「一義って言います」


 名を明かす一義。


 ちなみに矛盾の魔術師は有名だが「矛盾の」という名前だけが独り歩きをしており矛盾の魔術師の本名を知る者は少ない。


 兵士もそのクチらしかった。


「仮面とローブをとれ」


 またしても命令口調。


 一義は仮面を外すと顔を露わにする。


 それからバサァッとまるで翼でも広げるかのようにローブを翻して一気に脱いだ。


 現れたのは白い髪と白い眼と浅黒い肌を持つ美少年だ。


 纏っていたローブの下には喪服のスーツを着ている。


「東夷……!」


 二人の兵士の片方が驚愕したように一義を定義した。


「何用だ?」


 もう片方の兵士が問う。


「あー……」


 と悩んだ後、


「このでっかいお城……ウェイブさんの御宅ですよね?」


 爆弾を投下する。


 しばし意味がわからず思案していた兵士たちだったが、波の国のウェイブ王を……並びにその城を「ウェイブさんの御宅」と侮辱したのだと間隔を開けて理解した。


 同時に兵士の頭に血が上る。


「この無礼者!」


 重そうなハルバートが二つ……一義に向かって振るわれる。


 それは風を切り裂き一義に襲い掛かったが、


「ま、常識的な反応……か」


 一義に触れた瞬間ハルバートはフツリと消失した。


「……?」


 握っていた獲物が消えたことに驚きではなく当惑する兵士たち。


 一義としてはいちいち説明してやる義理は無い。


 武器を失った兵士たちを横切って城門の前に立つ。


 そびえ立つ……という言葉がしっくりくる大きな鉄の門だ。


 もっとも一義の能力の前には薄紙一枚も同然だが。


 一義は城門に手を触れさせると矛盾の魔術を適応させる。


 超光速で弾き飛ばされた城門は空気の壁にぶつかって燃焼……結果として先のハルバート同様フツリと消えた。


「お邪魔しまーす」


 と一義は消えた城門を越えて城内に入る。


 見事な庭園が出迎えてくれたが、観光しにきたわけではないので一義は庭をゆっくりと歩いて本城へと歩を進める。


 それを阻止する者がいた。


 門番の兵士二人だ。


 一人が緊急用の笛だろう……緊張感を否応なく高める甲高い音を響かせた。


 もう一人は一義に殴り掛かってきた。


 徒労に終わったが。


 殺してはいない。


 ただ弾いて無力化するのだった。


 一義に殺意はなかった。


 鉄血砦の時とは事情が違うのだ。


 少なくとも敵対関係とは必ずしも言えない。


 故に一義は笛の音によってわらわらと蟻のように現れた城の兵士たち数百名に対しても害意を持つことはなかった。


 一義はゆっくりと……それこそ兵士などいないかのようにゆったりと歩く。


 兵士たちは武器を手に一義に襲い掛かるが、その武器が一義に触れた瞬間フツリと消えてしまうので対応に困った様子だった。


 剣や槍や矢や魔術が一義を襲ったが痛痒を与えることは出来なかった。


 一義は体を張って道を塞ぐ兵士たちを弾き飛ばして城の中に侵入した。


 最初に出迎えたのは広いフロア。


 赤いカーペットが敷かれた玄関口だった。


「さて……」


 一義はガシガシと後頭部を掻く。


 その間にも一義目掛けて刃や矢や魔術が一義を襲っていたが矛盾の前に沈黙している。


 一義は剣を振るって襲い掛かる兵士の一人に目をつける。


 振るわれた剣をフツリと消して、それから、


「ウェイブ陛下はどこにいるの?」


 そう問うた。


「誰が教えるか……!」


 そんな兵士の覚悟は立派だったが一義にしてみれば交渉材料には事欠かない。


「僕はね……矛盾の魔術師だよ?」


 あっさりと言った一義に取り巻く兵士たちが絶句する。


 さらに言う。


「ウェイブ陛下の居場所がわからないならこの城丸ごと吹っ飛ばしてもいいんだよ? 鉄の国の鉄血砦のようにね」


 結局ウェイブ王の居場所を吐こうが吐くまいが状況に変わりは無いと一義は言ったのだ。


 心を折るには十分な強迫。


 故に兵士は語った。


「陛下なら中庭でバラの世話をしていらっしゃる……」


「ありがと」


 にっこり笑って一義は謝辞を述べた。


 そして歩みを再開する。


 兵士たちは一義をどう扱っていいのかわからず……散発的に襲い掛かった。


 無論一義の矛盾の前には無駄な努力だったが。


「中庭……ということは一階だよね。とすれば話は早いか。要するに歩いて虱潰しに探せばいいんだから」


 そう言って一義は真っ直ぐ歩き出す。


 襲い掛かる兵士も阻む壁も何事もなく弾き飛ばして直進した。


 そして吹き抜け構造になっている場所に出た。


 中庭だ。


 一義のソレとは違う意味で白い髪を持っている老齢の男が中庭でバラの世話をしていた。


 着ている服は高級品。


 波の国のウェイブ王と判断するに躊躇はなかった。


 ウェイブ王は一義を見て驚いていたが付き合う義理は無い。


 一義は簡単に挨拶してウェイブ王の謁見の権利を得るのだった。


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