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いけない魔術の使い方17


 洋の国と禅の国と和の国に伝わる思想がある。


 人には四つの苦しみがあると。


 曰く、生。


 曰く、老。


 曰く、病。


 曰く、死。


 この四つは人間道にいる限り避け得ることかなわず。


 人は生き、老い、病め、死ぬ。


 人が生まれ落ちた時から決定づけられたテーゼ。


 業だ。


 では何をもってソレを克服するのか。


 一つは解脱。


 輪廻転生という時間のウロボロスから魂を解放させること。


 ちなみに魂の概念はアイリーンが否定しているが、アイリーンは自ら、


「魂という概念は存在しえない」


 と吹聴しているわけでもないので大陸の大多数……というよりほぼ全ての人間は魂という概念を信仰している。


 その魂を昇華させることが即ち幸福を約束させると信ずる者が大陸の東方には多くいる。


 解脱を目指して祈り自傷する者たちだ。


 一つは魔術。


 生きることを否定する魔術。


 老いることを否定する魔術。


 病むことを否定する魔術。


 死ぬことを否定する魔術。


 後者になるほど高難度の魔術となる。


 そして死を否定する魔術は魂の概念を信仰している人間には不可能な代物だ。


 故にアイリーン以外の人間には為し得ない。


 対して生きることを否定する魔術は安易かつ多用される。


 攻性魔術という名を借りて。


 シダラの王立魔法学院でも奨励されているほどだ。


 まったく逆説的なのだが人を傷つけ殺す魔術が即ち一側面的には救いのソレですらあるのだった。


 一つは錬丹術。


 あるいは錬金術とも呼ぶ。


 仙丹の開発を主とする学問である。


 死者には復活を。


 生者には祝福を。


 人として生まれ落ちて免れ得ぬ業……四苦に縛られた人間からその内の三苦を取り除く奇跡の結晶。


 大陸東方ではこれを仙丹と呼び、大陸西方ではこれを賢者の石と呼ぶ。


 服用すれば老いず、病まず、死なずの肉体を手に入れる。


 一口で言うのなら不老不病不死。


 いかな害性も通用せず、心身健やかに永遠を過ごす者。


 こうなった人間を仙人あるいは金人と呼ぶ。


「つまり」


 アイリーンが言った。


「フェイちゃんは……きんひと……っていうのになっちゃったんですか?」


「じゃなきゃ頭部に弾丸を受けて無傷ではいられないでしょ?」


「きんひと……」


 金人きんひと……即ち不老不病不死。


「誰かがフェイちゃんの遺体を掘り起こして賢者の石で復活させ……そして金人にした……と……」


「そゆことだね」


 一義が頷く。


 ちなみに一義にしろハーレムにしろエレナにしろほかほかと体から湯気を昇らせている。


 フェイが襲撃してきてから退散させ風呂をあがってディアナの寝室に向かって歩いている途中だ。


 風呂上りなのである。


「じゃあフェイちゃん……またファンダメンタリストで酷い目にあってるんじゃ……」


「さぁね」


 と心の中で一義は疑問を呈す。


 錬金術はヤーウェ教にとっては禁忌とも言える。


 なにせ不死者を創ろうというのだ。


 死を絶対視するヤーウェ教信者にとっては反魂も不死も等しく罪悪なのであろうことは一義とて理解している。


 であるからフェイが攻めてきたからと云って、それがファンダメンタリストの刺客だとは一義には思えなかった。


「むしろ……」


 と呟く。


 そうでない可能性の方が高いのだ。


 仮にアイリーンの妹……フェイがヤーウェ教を今もまだ信仰しているとしてもそれを許すファンダメンタリストとは思えない。


 何せ金人は死なず……傷つかない。


 殺す方法が無いのである。


 つまり今やフェイは神の祝福である死を否定されながらも制裁を加えることの出来ない存在と言えるのだ。


 死ぬことが出来ない。


 それは自殺も出来ないということだ。


 ならばいくら絶望しようとフェイはこの世に生きていなければならず……それを認識した上でファンダメンタリストに尽くしているとは思い難いのだった。


 ファンダメンタリストにとってももはやフェイは異端だろう。


 では?


 誰が?


 何のために?


 結局疑問はそこに行きつく。


 フェイの死は一義とかしまし娘とアイリーン……あとは例外しか知らない。


 しかしてその五人ともにフェイを生き返らせたりはしていない。


 少なくとも一義とかしまし娘には不可能であるし、アイリーンもフェイの死に納得している。


「とすれば……」


 一義は嘆息した。


 せざるをえなかった。


 一部の例外が今回の件に噛んでいると見て間違いない。


 しかもフェイを使ってアイリーンの前に引き出す人間だ。


 底意地が悪いとしか言い様が無い。


 そんな人間を一義は知っていた。


 ディアナの寝室へと歩く途中、


「ごめん。僕は夜歩きをしてくるよ。先に寝てて」


 そう言ってハーレムから離れる一義だった。


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