いけない魔術の使い方13
「と、いうわけで」
一義はぬけぬけと言い放った。
「今日からキザイアも僕のハーレムだから」
ディアナに向けて。
「…………」
ディアナはこめかみを押さえて沈思黙考。
脳内で何を考えているかはさすがの一義も悟ることはできないが、表情からある程度の感情の推移と落ち着きは確認できた。
「キザイアがエレナ暗殺の実行犯?」
「正確には未遂犯」
「最初から殺す気はなかった……と?」
「そういうことだね」
ちなみに場所はキザイアの待機部屋。
時間はおやつのソレ。
「女王陛下にだけは真相を伝えたい」
というキザイアの意見によって、こうやって人目を忍んでディアナに状況を説明する一義だった。
一義にしてみれば、
「別に黙ってれば角が立たなくていいんじゃない?」
というところだったが、罪悪感に背中を押されたキザイアは全てをディアナに話すことを決意し揺るがなかった。
「まぁいいけどさ」
ぽやっとした一義の肯定によってディアナに事の顛末を話すことになったのだった。
主に一義の口から。
ディアナは押さえたこめかみを解放すると、
「ですか」
とこれまたぽやっと肯定した。
キザイアがメモ帳に綴る。
「全てを受け入れます。極刑でも何でも」
「まさか! そんなことはしませんよ。キザイアは私の大事な侍女ですから。それにエレナを殺す気はなかったのでしょう?」
「護衛の兵士は殺しましたが?」
「ファンダメンタリストに対する言い訳……必要経費でしょう。被害者は昇進させましたし遺族には相応の金銭を渡していますから問題はありません」
さらりと命を軽んずるディアナに、
「うんうん」
と一義も同調して首を縦に振る。
「それよりも一義様?」
「なぁに?」
「ハーレム増やし過ぎです」
「うーん。どんな現象なんだろねコレは?」
あははと笑う。
「こちらとしては笑いごとじゃないのですけど……」
ディアナの紫色の瞳には嫉妬の残滓の様なものがあった。
激しい嫉妬ではなく、
「一義様ならまぁしょうがない……かな?」
と諦めの混じった感情である。
今更一人くらいハーレムが増えようと支障も無いという諦観の境地だ。
中略。
太陽が西に沈むほどに時間も経って夕食を食べ終わると一義とハーレムは風呂に入った。
当然キザイアも含まれる。
キザイアは侍女……使用人ということもあって他人に奉仕するのが仕事だ。
そんなわけでディアナと……それから一義の体を洗うのだった。
無論、他のハーレムが面白かろうはずがない。
「ご主人様はまた……」
「お兄ちゃんはまた!」
「旦那様はまた……」
「一義はまた……」
「一義はまた……」
姫々と音々と花々とアイリーンとアイオンが嫉妬にかられてジト目になる。
「毎度こんな感じなのか?」
ジャスミンはハーレムになって日が浅いため戸惑う様に言った。
「ええ、まぁ、だいたいは……」
アイリーンが嘆息する。
「ま、付き合いきれなくなったら見限ってくれていいから」
体を流された後、湯につかりながら一義が言う。
「少なくとも私は諦めません!」
ディアナが一義のすぐ隣に入浴しながら快活に言う。
「…………」
一義を挟んでディアナの反対側にキザイアが陣取る。
肩まで湯につかった後、一義の腕を抱いて一義の肩に頭を乗せる。
その表情にあるのは幸せだ。
一義の愛の一片に輝きを見出したのである。
「キザイアは私を狙わなくていいんですか? ファンダメンタリストなんでしょう?」
これはアイリーン。
キザイアは首を振ることで否定した。
少なくともキザイアがアイリーンを狙わないことは確認できた。
「そもそもキザイアじゃアイリーンには敵わないしね」
とは一義の言。
アイリーンは、今は亡き妹フェイとともに生粋のファンダメンタリストの刺客として育てられている。
一義のハーレムの中でも対一戦闘では一義と花々に順ずる。
「おそらくジャスミンより一枚上手だろう」
と一義は予想していた。
事実その通りではあるのだが。
「それではこれでエレナの安全は保障されたのでしょうか?」
一義の腕にムニュウと女の武器を押し付けながらディアナが問う。
「あー……」
一義は呻った後、
「それなんだけど……」
気にかかることを言う。
「剣劇武闘会で一時シダラに行ったでしょ?」
「行きましたね」
「その時、僕が暗殺者に狙われてね」
「……っ!」
この戦慄はハーレムの総意だ。
「一義様が暗殺されかかったのですか?」
「うん。まぁ。だね」
ぽやっと一義。
「何故?」
「それがわかれば苦労はしない」
「ですね」
「ただまぁ僕を襲って得することなんて無いから多分……将を射んと欲すれば、って奴なんじゃないかな、と」
「それがお兄ちゃんの暗殺に関係あるの?」
音々が首を傾げる。
「僕を殺せばかしまし娘を無力化できるでしょ」
「あ……」
「つまり僕を殺すのは目標を暗殺する間接的な殺人だってことになる」
「エレナを殺すためにかい?」
花々が微笑しながら口にする。
「あるいはアイリーンかもしれないけどね」
「どちらにせよ不可解だね」
「うん」
一義と花々は意識を共有した。
そもそもにしてかしまし娘のシステムを知っている人間が少ないのだ。
ハーレム以外ならシャルロットくらいだろう。
「シャルロットが吹聴してまわっているわけもないだろうし」
お湯につかって、
「ふい~」
と安堵の吐息をつきながら一義。
「何かしらの事情があって旦那様を殺そうとしているとか」
くつくつと花々が笑う。
「僕を殺して形而下の利益が得られるとも思えないけど……」
「形而上の利益は?」
「そこまでいくと何でも有りになっちゃうしねぇ?」
「然りだね」
シニカルな笑みを浮かべてみせる花々。
「もし僕を殺すことでかしまし娘を無力化しエレナを狙うのだとしたら、もうちょっとこの城に滞在しなきゃいけないね。単純に僕を狙っているのならその限りではないけど」
「まぁ邪魔な奴は皆殺し……で、いいんじゃないかな? 旦那様?」
「結局そうなるのかなぁ?」
一義はガシガシと後頭部を掻いた。