いけない魔術の使い方12
「暗殺者が私だと?」
キザイアが綴る。
「うん。まぁ」
ポヤッと肯定して一義はさらに言葉を紡ぐ。
「正確には暗殺者を魔術で創りだしてエレナを襲わせたんでしょ?」
「…………」
キザイアは文字を綴らなかった。
沈黙が場を支配する。
一義はアイスコーヒーを飲んだ。
キザイアも。
「人間の投影。僕にもその技術はあるからわかるよ。自身は手を下さず魔術で創りだした暗殺者によって害をなす」
「…………」
「これなら犯人は見つけようもないよね」
肩をすくめる一義。
「何故私だと?」
「状況証拠だけで云うのならば過去に僕たちがお風呂に入っていた時に暗殺者が襲ってきたでしょ? 護衛は殺されたけど脱衣所にいたキザイアは無事だった。それが致命的な証拠だったかな?」
「ですか」
とキザイアは綴る。
「この前の夜中にディアナの寝室に暗殺者が襲ってきたのでソレは確信に変わった」
「というと?」
「暗殺者は花々が殺したけど遺体はまったく残らなかった。まるで幻のように消え去ったんだよ。つまり暗殺者は魔術で生み出された人形ということさ」
「…………」
「だから」
と一義は言う。
「誰かが魔術によって暗殺者を創りだしてエレナを襲っているのは事実で、その犯人がいるとするのならキザイアが一番怪しいんだ」
「ですか……」
キザイアは諦めたように綴った。
「そこまでわかっていて何故私にそれを話すのですか? 女王陛下に私を罰するように進言すれば万事丸く収まると思うのですが」
「冗談が上手いねぇ」
一義は微かに笑った。
「恐縮です」
キザイアは綴った。
そんなキザイアの謙遜をものともせず一義は言う。
「そもそもにして前提がおかしいんだよ」
「何のでしょう?」
「キザイアの魔術は好きな時に好きな場所に暗殺者を具現化することが出来る。これは間違いないよね?」
「然りです」
「ならエレナはとうに殺されているはずじゃないかな?」
「絶防の音々様と金剛の花々様がいらっしゃる現状でそれは難しいかと存じます……」
「だから前提がおかしいんだって」
一義は確認するようにキザイアに語りかける。
「ディアナが僕とかしまし娘とアイリーンを王城に呼んだのは何のため?」
「暗殺者からエレナ様を護衛するためでしょう」
「うん。そうだね」
一義はコーヒーを飲む。
そして言葉を続ける。
「だとしたら僕たちのような超のつく護衛が必要となる前にキザイアの投影した暗殺者がエレナを襲い失敗したことになる。そも……そうでなければエレナは生きていないし僕たちが呼ばれることはなかった」
「…………」
「つまり護衛としての僕たちがいない状況から既にキザイアはエレナを殺すつもりがなかったってことにならないかな?」
「…………」
「キザイアがファンダメンタリストなのは知っているし、エレナの暗殺を教会に頼まれているのも知っている。実際教会に乗り込んで事実を確認したしね。だからわかることがある。キザイアはエレナを殺すつもりはなかった」
「誤解です」
「いいや。事実さ。キザイアが本当にエレナを殺そうとするなら僕たちの出番はなかった。僕たちが招聘される前にキザイアはエレナを何度も殺せたんだから」
「…………」
「つまりキザイアはファンダメンタリストの命令を受け入れて、その実エレナを殺さない程度に脅しをかけることにした。違うかい?」
「敵いませんね」
キザイアはそう綴る。
「僕たちが護衛につくまではジャスミンが護衛についている時を狙って暗殺者を具現化させた。そして『暗殺者を放ったが失敗した』という言い訳を作りだした。その気になればエレナの寝室にいきなり暗殺者を具現化できたものをそうせずジャスミンと丁々発止を行なった。つまり……一言で言うのなら茶番だ」
「言いにくいことを平然と一義様は言うのですね」
「大丈夫。王都のファンダメンタリストは壊滅させたから。つまりキザイアがファンダメンタリストの命令と心にある善意との間に苦悩することはなくなったよ?」
「もう私はエレナ様を害さなくともいいのですか?」
「うん」
コクリと一義は頷く。
そしてコーヒーを一口。
「キザイアは優しいね。ファンダメンタリストということは神を盲目的に信じているにしても人の命の尊さを知っている」
「そんな大層なものではないですよ」
「ううん。大層なものだよ」
そう言って一義はキザイアの褐色の髪を撫ぜた。
「…………」
それだけのことにキザイアはカーッと紅潮するのだった。
「一義様は優しいですね」
「惚れた?」
「はい。私の罪を許し笑い飛ばす一義様は懐が深いと思います」
「じゃあキザイアも僕のハーレムに入らない?」
「私なんかでいいのですか?」
「まったく構わないよ? 可愛い女の子に慕われるのは望外の極みだしね。居もしない神を信じるより僕に傾いた方が有意義だと思うな」
「一義様は残酷な言葉を吐くのですね」
「まぁ宗教観の問題だよ、君」
さっぱりと一義は言いきった。
こうしてキザイアまでもがハーレムに入るのだった。