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いけない魔術の使い方02


 一義と姫々が学院の特別棟に顔を出すとエレナは準備万端で待っていた。


 美しい桜色の髪は黒色のウィッグで隠されている。


 目にはレンズのはめ込まれていない伊達眼鏡。


 服装は学院の制服。


「まぁこんなところか」


 一義はそう思った。


 黒い髪を弄りながら、


「……ど……どうでしょう?」


 とエレナが聞いてくる。


「似合ってるよ。とても可愛い」


 いとも自然体で一義は微笑んだ。


「……ですか」


 顔を赤らめて委縮するエレナ。


「本当にデートするの!?」


 音々が今更抗議する。


「波の国の第二王女たってのお願いだ。聞かなきゃ男がすたるよ」


 一義は肩をすくめてみせる。


「なら今度俺ともデートしてくれるな?」


 これはジャスミン。


「気が向いたらね~」


「むぅ」


 曖昧な一義の応答にジャスミンは不満げだった。


 元よりジャスミンの機嫌をとりたい一義ではなかったから、


「正味な話わかったもんじゃない」


 とさえ思っているのだが。


「エレナ、頑張ってね。一義様を籠絡しちゃえ」


 エレナに激励したのはディアナ。


 ディアナは嫉妬をまるで含まない紫の瞳でエレナを見やりニコニコとしていた。


「……あ……う」


 エレナはますます委縮する。


「このままでは埒が明かない」


 と判断した一義は、


「ほら、行くよ」


 と言ってエレナの手を取り微笑して、


「ほんじゃま……いってきまーす」


 ハーレムたちに背中を見せたままヒラヒラと手を振った。


 遠慮がちに隣を歩くエレナの歩幅に合わせながら一義はエレナの手を握った手の都合を変える。


 おざなりな繋ぎ方から恋人繋ぎへと。


 指と指とを絡めあわせてしっかりとエレナの手を握るのだった。


 今のエレナは王女様ではなく学院の一生徒に扮していた。


 学院の制服を着て、伊達眼鏡をかけ、黒い髪を持つ。


 カラーコンタクトが無いから瞳の色は桜色だが、注視せねばまずばれることはないと思われた。


 というわけで学院を横切って一義とエレナは正門へと向かう。


 その途中、


「銃力がまた……」


「魂を穢された女の子が……」


「アイツのハーレム今どうなってんの?」


「新聞部に聞くしかねえ……」


「眼鏡っ子属性まで……」


 そんなヒソヒソ話が一義の耳に届いていた。


 一義のハーレムの増え方は右肩上がりだ。


 妬みややっかみの視線は今更。


 別に一義が望んだわけではないが、それを言葉にするのはハーレムにとって失礼だから黙っている。


 少なくともハーレムの女の子たちは一義のことが好きで、一義も月子には途方もなく及ばないものの好意に近い感情は持っている。


 姫々は気が利いて慎ましやか……なおかつ真剣に尽くしてくれる。


 音々は元気で快活。


 花々は会話の中に洞察力と皮肉を交え話していて飽きない。


 アイリーンは純情で姫々と同様に尽くしてくれる。


 ビアンカは見栄っ張りだがそこが可愛い。


 ディアナは何事にも正直で好感が持てる。


 ジンジャーは努力家で嘘のつけない性格が好意的だ。


 ハーモニーは小動物的な愛らしさを持っている。


 アイオンはお姉さん系で逆に可愛がられるという立場を提供してくれる。


 ジャスミンは多少ひねてはいるが俺様口調の男慣れしていない辺りに苦笑できた。


 さて、ではエレナは?


 それを知るためのデートである。


 そんなわけで学院生の嫉妬の剣山を無視して一義とエレナは学院の門前市へと足を踏み込んだ。


 ガヤガヤと賑やかな声が一義とエレナの耳にも届く。


 シダラは霧の国において王都ミストに次ぐ活気のある都市だ。


 市場の流動性も見事なもの。


 そこかしこで売買交渉が行われていた。


「……ふわ……すごい人」


 市場を埋め尽くす人の波を見ながらエレナが驚愕する。


「これくらい普通じゃない?」


 一義は冷めている。


「……市場にはこんなに人がいるんですねぇ」


「市場に来ることが初めて……とか言わないよね?」


「……初めてではもちろんありませんが、それでも毎回驚かされてしまいます」


「王都では市場に行かないの?」


「……外出を禁止されていまして。……欲しい物は使用人が用意してくださいますし」


「なるほどね」


 苦笑する一義。


 箱入りということだ。


「……一義、一義……あの黄色い大きな円は何ですか?」


「チーズ」


「……溶けてませんよ?」


「そりゃ料理する前から溶けてたら持ち運びできないでしょ」


「……なるほど……ではあの赤い果実は?」


「リンゴ」


「……白くありませんね」


「皮が赤いだけだから」


「……はぁ」


 ポカンとするエレナだった。


 どうやらエレナはリンゴを実のままで見たことが無かったらしい。


「エレナ、昼食はとった?」


「……いえ、一義とのデートでとろうかと思いまして」


「じゃあ市場でてきとうに食べ歩こうか」


 そう言って握ったエレナの手を引っ張って一義は市場を縦断するのだった。


 焼いたベーコンや魚の干物、果実丸ごとや蜂蜜漬け。


 ちょこちょこと食べ歩いて一義とエレナは空腹を満たすと近場の喫茶店に入った。


「近くにケーキバイキングの店があるけど行く? ハーモニーとデートする時は間違いない選択なんだけど……」


「……もう満腹です」


 エレナは口元を押さえながらそう言った。


 入った喫茶店でコーヒーを二人分頼み、一義とエレナはブラックのソレを飲む。


「…………」


「…………」


 しばし沈黙して二人はコーヒーを飲む。


 先に口を開いたのはエレナだった。


「……一義」


「なに?」


「……一義はハーレムの中で誰に惚れているんですか?」


「誰にも惚れてないよ?」


「……え?」


 よほど一義の言葉が不可解だったのだろう。


 エレナはポカンとした。


「……誰にも惚れていない?」


「うん」


 容赦なく肯定する一義。


「……ではハーレムは……」


「一方通行だね」


 やはり一義は容赦なかった。


「……ハーレムの女の子たちはそれでいいんですか?」


「嫌だと思ったらいつでも抜けていいって言ってるし」


 一義はあっさりと言ってコーヒーを一口飲む。


「……じゃあ一義に好きな人はいないのですか?」


「いるよ」


「……ハーレム以外で?」


「ハーレム以外で」


「……ハーレムにいないってことは片想いですか?」


「まぁ間違っちゃいないね」


 苦笑してしまう。


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