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いけない魔術の使い方01


「ご主人様……お起き下さい……」


 スースーと気持ちよく寝ている一義を姫々が揺り起こす。


 姫々が着ている服はメイド服。


 銀色の瞳は呆れと焦りをもっていた。


「むに……姫々……?」


「はい……姫々です……」


「まだ寝る……ぅ」


「駄目ですよ……。もうお昼です……」


「寝る……ぅ」


「今日はエレナ様とデートです……。このままでは淑女を待たせてしまいますよ……」


「エレナ……デート……」


 くぅと呻いた後、


「デート!?」


 ガバッと一義は起き上がった。


 一気に一義の思考がクリアになる。


 事象を認識し偽り無しと答えを得る。


 さて、


「デートは今日だっけ?」


「何を今更……」


 とは姫々は言わず、


「はい……ご主人様……」


 と首肯するのみだ。


 ちなみに日にちは剣劇武闘会の行われたソレの次。


 デート日和の快晴だ。


「あー、すっかり忘れてた」


 一義はガシガシと後頭部を掻く。


 それから、


「くあ……」


 と欠伸。


「軽めの昼食を作っております……」


 姫々は一義にそう言った。


「何も胃に入れずにお出かけなさるのも酷かと思いまして……」


「ん。ありがとう姫々」


 クシャクシャと姫々の銀髪を撫ぜて、


「姫々」


 と白い瞳に銀の瞳を映す一義。


「何でしょう……?」


 問う姫々のおとがいを持って一義はキスをした。


 一秒、二秒、三秒。


 そしてキスは終わった。


「ん。元気出た」


 難なく言って、


「んーっ!」


 と一義は伸びをする。


「な……」


「な?」


「ななななな……!」


 姫々は面白いように狼狽えた。


「何をなさるんです……っ」


「何って……キス?」


 それこそ、


「何を今更」


 だ。


「別に今のがファーストキスじゃないんだから有難味もないでしょ?」


「あります……!」


 姫々は断言した。


「ご主人様との接吻には黄金にも勝る価値があります……」


「姫々は大げさだなぁ」


 ケラケラと一義は笑う。


「うぅ……」


 と姫々が呻くと、


「さっきも言ったけどおかげで元気が出たよ。起きるとしよう」


 そう言って一義はベッドから立ち上がった。


 姫々の先導に従って一義はダイニングに顔を出す。


「今日の昼食は?」


「お茶漬けです」


「妥当だね」


 至極あっさりと一義は言った。


「では準備しますのでしばし時間を下さい」


 そう言ってダイニングテーブルの席についた一義の目の前に緑茶の入った湯呑みを置くと姫々はキッチンへと消える。


 一義が緑茶をすすること五分間。


 お茶碗一杯分のお茶漬けが出てきた。


 カツオ出汁とお茶を融合させた姫々ブレンドのお茶漬けである。


「簡素にして究極」


 そう言ってはばからない一義の評価だった。


 出汁を含めば香り高い風味が口内を凌辱し、米を噛みしめればその甘みが一義をそそり立たせる。


 総じて美味なお茶漬けであった。


 うまうまとお茶漬けをすすりながら一義は姫々に問う。


「他の子たちは?」


「ビアンカ様は研究室に……ジンジャー様は一義の独占インタビューを記事にするべく新聞部に……ハーモニー様はおそらくディアナ様一行に合流したかと……」


「ジンジャーも良くやるよ」


 そこにだけ一義は反応した。


 ズズとお茶漬けをすする。


「そういえばジンジャーの魔術の件はどうなってるの?」


「わたくしは存じ上げませんが……アイリーン様とビアンカ様が時折指導しているみたいですね……」


「雷帝がいればもうちょっと話は簡単だったろうに」


「しかして宮廷魔術師は王と城とを守る者……ですから……」


「ま~ね~」


 お茶漬けを全て嚥下して一義は合掌し、食事を終えた。


 姫々が言う。


「では御髪をお梳きいたします……。着替えも準備してあります……」


「至れり尽くせりだね」


 苦笑する一義に、


「それがかしまし娘のレゾンデートルです故」


 姫々は当然とばかりに言った。


 音々と花々の歯ぎしりが一義には聞こえるようだった。


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