剣劇武闘会14
決勝戦。
一義とルイズのカードだ。
ハーレムたちは当然のように、
「一義が優勝する」
と信じ疑ってもいないが、ルイズを間近で見た一義にしてみれば、
「さてどうだか」
という気分だ。
天気は憎らしいほど晴れ晴れと。
青空に浮いてる雲に羨望と嫉妬を覚えながら一義は脱力する。
決勝戦の相手……ルイズは銅色の瞳を愉快そうに細めて、吹く風に銅色の髪をなびかせて、一義に近づくと握手を求めてきた。
応じる一義。
「やっぱり君が来てくれると信じてた」
ニコニコと笑いながらルイズ。
「霧の国にしてみれば不本意だろうね」
一義は苦笑する。
「何で?」
「残ったのが鉄の国の騎士と東夷だからさ。どっちが勝っても観客は素直に喜べないんじゃないかな?」
「それは僕たちの問題じゃないよ?」
「でも原因だ」
「そんなことまで考えて行動しているのかい君は? それじゃあ何もしないことが最良の世界じゃないか」
「極論としては真理だろう」
「そうかな?」
「そうさ」
「でも僕は力が欲しいよ?」
「そこまでは言っていない。ただ僕は力を誇示するのが嫌いなんだ」
「何で?」
「力は歪みを生むか正すか……それだけしか無いからさ」
「歪み……」
「面倒事と言ってもいいかもね」
「力が面倒事を生むの?」
「そして正す」
「…………」
「その面倒事が良かれ悪しかれね」
「わかんないにゃ」
「僕は出来るだけ歪みを正す方に使いたいと思ってるんだけど……」
「そうすればいいじゃないか」
「これが中々」
「難しいことかな?」
「まぁ力が無くても出来るよなぁ……なんてね」
「でも君は反魂を守った」
「それについての後悔は無いよ」
「ならそれでいいじゃん」
「とてもそうは思えないから頭が痛いんだよ」
「じゃあさ」
勘ぐる様にルイズは一義の白い瞳を覗きこんだ。
「僕との立会いでも力は振るわないの?」
「そうしたいところだけどそれは君にとって不義理でしょ?」
「うん」
そしてニコッと笑うルイズ。
「全力で来てね」
「善処する」
そして一義は握っていたルイズの手を離す。
一義とルイズは第一アリーナの中心を挟むように対称的な位置に着いた。
両者ともに剣を握る手に力を込める。
一義は木刀。
ルイズは木剣……片手剣だ。
一義は無構えでルイズは片手の正眼。
そして審判がかざしていた手を振り下ろして、
「始めっ!」
と叫んだ。
動いたのはルイズのみ。
一義は待ち受けた。
「じゃあ」
とルイズは笑う。
「小手調べからいくね」
言うとルイズは疾風になった。
高速。
そう呼んでいい速度だ。
一義にしてみればビアンカが用いる速度に見えた。
あっという間に一義とルイズの間合いは踏み潰される。
ルイズが繰り出したのは突き。
一義は同じ突きで対抗した。
拮抗は一瞬。
力比べを諦めてルイズは木剣を揺らす。
それだけで突きと突きは……木刀と木剣はすれ違う。
反応が速かったのは均衡を崩したルイズではなく一義であった。
一義の木刀が蛇のようにルイズの木剣に絡みつく。
巻き技。
とっさにルイズは悟る。
力に逆らわず。
しかして木剣は離さず。
結果としてルイズは跳躍を選んだ。
巻き技によって上方へと力を加えられた木剣に追いつくように直上へ跳躍したのだ。
「へえ……」
とこれは一義。
素直に感心したのだ。
少なくともそんな形で巻き技を封じた人間を一義は知らなかった。
そしてとっさの判断でありながら大人二人分の高度までその場で跳躍する人間もだ。
当然ながら剣劇武闘会は魔術禁止であるため、跳躍した後は重力に従って落下せざるをえない。
ルイズは空中で器用に身を捻って体勢を整える。
一義は手に持った木刀を落下して近づいてくるルイズ目掛けて振った。
それは木剣で受け止められる。
着地……同時にルイズは低く伏せた。
刀と剣を拮抗させたまま、器用に足払いを放つ。
一義は引き下がって距離をとる。
瞬時に立ちあがったルイズが間合いを詰める。
試合開始のそれより数段速い。
超高速。
そう呼んでいい速度だった。
ジャスミンの最高速に値する。
一義もまた一つギアを上げる。
剣速も相応だ。
一閃、二閃、三閃。
超高速でルイズの剣が振るわれる。
一義の刀はその全てを弾いた。
常軌を逸した剣速の後に待っていたのは刺突だった。
それを木刀では対処せずギリギリを見切って身体をずらすことで避ける一義。
木刀は下から跳ね上がる。
それは正確にルイズを捉えたが、ルイズの剣によって受け止められた。
しかして無理な体勢からであったためルイズは後退を余儀なくされた。
一義はここで初めて自ら動く。