表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/315

剣劇武闘会13


「雲はいいなぁ……」


 晴れの空に断片的に描かれている白を見上げて一義はそう呟いた。


 準決勝。


 今の一義の置かれている状況を端的に説明するならばソレである。


 場所は第一アリーナ。


「負ければ解放されるよね」


 と思いながらも一義は剣劇武闘会の準決勝まで駒を進めてしまっていた。


 別にディアナの思惑に乗ったわけではない。


 ただ痛い思いをしたくなかっただけだ。


 一義のこれまでの対戦相手は例外なく全力で剣を振るってきていた。


 木製の武器とはいえ当たりどころが悪ければ打ち身や骨折は招くだろう。


 故に穏便に試合を終わらせるため一義は巻き技を多用した。


 というかソレしか使わなかった。


 相手の武器を奪って首元に剣先……木刀の、である……を突きつけて、


「まいった」


 と言わせる。


 それが一義の戦い方であった。


 幸いにして巻き技が通用しない相手は今までいなかった。


 能力的にはビアンカと同等か多少秀でている程度のレベルだ。


 本気で相手をするのも馬鹿馬鹿しく手加減の連続だった。


 それでも一義は勝ってこれた。


 それだけで一義がどれだけ出鱈目かを証明するものだったが、当然反論も出た。


 曰く、


「東夷は魔術を使っているのではないか」


 と。


 気持ちはわからないでもなかった。


 しかして学院はその意見を一義にとっては不本意ながら否定した。


 一義は身体能力強化の魔術……フィジカルブーストを使えない。


 なにせ一義のマジックキャパシティは学院の一般的な劣等生の数千分の一だ。


 基礎であるライティングですら五秒ともたないのにフィジカルブーストが一秒たりとももつはずがないのである。


「反則負けになるならそれが一番いいんだけど」


 などと不埒なことを考えていた一義であったが結局疑惑は晴らされてこうして準決勝にいるのだった。


 準決勝の相手は木製の棍を持っていた。


「棍使い……じゃないね。あの構えは槍か」


 一瞬で相手の能力と思惑とを把握する。


 裂帛の気合を感じさせる槍兵だった。


 ちなみに何故槍ではなく棍を支給されているかと言えば安全のためである。


 槍の本質は刺突だ。


 そして弧を描く斬撃と違って刺突は力が一点に集中する。


 例え刃を潰していても鋭く尖っているというだけで槍は人体を貫く可能性があるのだ。


 故に穂先の無い棍が槍兵に支給されたのである。


 そんな裏事情を知らない一義ではあったが気負いはなかった。


「これじゃ巻き技は通用しないなぁ……正攻法かぁ……」


 などと安楽に危機に意識的対処をしている。


 グッと槍兵は力強く棍を握った。


 一義は木刀を無構えに構える。


 そしてアリーナの観客席に緊張が奔り、


「始め!」


 と審判が宣言し、掲げていた手を振り下ろす。


 試合開始と同時に槍兵が動いた。


 中々の速度でもって一義へと間合いを詰める。


 槍……この場合は棍だが……は右手と左手の握りが剣より離れている。


 一点に力を集中しておらず拡散しているのだ。


 故に相手の手から武器を奪う巻き技にとって相性の悪い武器とも言える。


 だが一義は驚異など覚えようもなかった。


 一義の射程距離外から鋭い突きが襲ってくる。


 打ち払う一義。


 しかして槍兵は瞬時に体勢を整えて新たな突きを繰り出してくる。


 またしても一義は打ち払う。


 それから一義はバックステップした。


 一旦槍兵から間合いを取る。


 そして片手で木刀を正眼の構えにとる。


 槍兵は瞬時に間合いを潰す。


 繰り出されるのは連続的な刺突。


 一般的には驚嘆に値する速度である。


「……っ!」


 実際に観客は驚嘆した。


 槍兵の技術……にではなく一義の技術にである。


 一義の木刀……その切っ先が繰り出される槍兵の棍の突きを同様の突きで封じたからだ。


 どれほどの判断能力がそれを可能にするのか観客はわかっていない。


 おそらく正確にわかっているのは花々とルイズくらいのものだろうと一義は苦笑する。


 槍兵は一義の木刀の間合いには入らず棍の間合いから突きを繰り出すばかりだ。


 そしてそれらの刺突は全て徒労に終わった。


 一義が正確に突きに突きで返したからだ。


 試合が始まってからまだ一回も一義は攻撃に出ていない。


 無論のこと槍兵が木刀の間合いに入ってこないのだから攻撃しようもないのも事実ではあるのだが。


「そろそろ反撃に転じるよ」


 余裕をもって一義は宣言した。


 同時に槍兵へと歩いて間合いを潰す。


 槍兵の刺突は木刀でことごとく切り払う。


「……っ!」


 焦りながらも槍兵は必要な対処をとった。


 要するに自身の間合いを確保するための後退。


 後ろに下がりながら刺突を繰り返す。


 だがやはり徒労に終わった。


 結局アリーナの戦闘場の端まで追いやられる。


 間合いは木刀のソレ。


 槍兵は棍を振るって打撃を繰り出したが一義の木刀によって弾かれる。


 そして、


「ごめん」


 と謝ると、一義は槍兵の鳩尾を木刀で突いた。


 一義としては手加減したが、それでも槍兵は悶絶するのだった。


 それが決着だ。


 こうして一義は決勝戦に駒を進めるのだった。


「やれやれ」


 他に言うべき言葉を一義は持ち合わせていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ