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剣劇武闘会11


「んー……っ……!」


 と一義は背伸びをした。


 まるで無理矢理叩き起こされて、


「まだ眠いんです」


 とでも言うかのように。


 それはある意味で相対する人間にとっての侮辱ともとれたが、そんな意識は一義には……当然ない。


 そもそもにして、


「何で僕はこんな場に立っているんだろうなぁ」


 という憂いを含んだ自問が意識を占領し、敵を認識していないのだ。


 場所は王立魔法学院の第五アリーナ。


 観客席はいっぱい。


 VIP席にはディアナとエレナがいてディアナがはしゃぎエレナを翻弄していた。


 剣劇武闘会の出場者に選ばれた六十四人の戦士がトーナメント形式で覇を競うという催し物だ。


 魔術は禁止され、支給される木製の武器をもって戦う穏便な試合だ。


 ちなみに一義は開会式には出ておらず、自身が六十四番目……というのもディアナの権限で無理矢理参加が決まったことに原因がある……だということで一回戦の三十二試合目、つまり最後の試合にあてがわれることも手伝って出番が来るまで寝ていたのである。


 完全に眠気がとれていない状態で木刀を握り戦士と相対する。


「くあ……」


 と大きく欠伸なぞをしてみる。


 敵する戦士は、


「やる気あるのかコイツは」


 と云った様子で眉をひそめていたが、それが事実と捉えてはいなかった。


 事実なのだが。


 結局戦士が油断を誘うためのパフォーマンスだろうと結論付けたことを一義は知りもしないし知ったことでもなかったが、とりあえず木刀を無構えに構えた。


 一義の木刀に対して敵対者が持っているのは木製の両手剣。


 いわゆるツーハンデッドソードだ。


 とはいえ木製であるため鋼で出来た剣よりは軽く、スピードだけを競うなら本来のツーハンデッドソードより速く振るうことが可能だろう。


 威力は当然減じることとなるが、それでも骨の一本や二本は持っていかれそうな膂力の気配を戦士は全身から発している。


 その覇気に一義は気付いていたが、


「くあ……あふ……」


 気負いは全くなかった。


 そもそもにして一義が敵対するということは基本的に暗殺であって、よーいドンを合図に正面から正々堂々ではないのだ。


 言っても不毛であるから一義は言わないが。


「選手一義……」


 これは審判の声。


「なんでっしゃろ?」


「剣を構えてください」


「構えてるんだけど……」


 一義はガシガシと開いている方の手で後頭部を掻く。


「構えてるんですか?」


 なお丹念に確認をする審判に、


「大丈夫」


 と一義は言う。


「そうですか……」


 納得しきれてはいないものの納得せざるをえないと審判は表情で語り、一義とそれから相対する戦士とで紡がれる二等辺三角形の鈍角の頂点に位置し、


「では……」


 と手を掲げ、振り下ろす。


「始め!」


 審判が叫ぶと同時にアリーナの観客がワッと沸いた。


「こんなものを見て何が楽しいんだか」


 と一義は嘆息する。


 そして無構え……つまり木刀を構えずに握るだけで、しかも自分から動こうとはしなかった。


 木製のツーハンデッドソードを持った戦士は最初こそ剣を構えて神経を張り巡らせていたが、一義が一向に動こうとしないことを悟るとイライラを瞳に映して間合いを潰そうと駆け出した。


 広いアリーナであるから数秒の時があって、そして二人の間合いがゼロになる。


 木刀に比べてツーハンデッドソードはリーチが長い。


 そして敵する戦士もその利点と利点を生かす技術とを認識していた。


 先制攻撃は敵する戦士だ。


 木刀の間合いの届かぬ距離から上段唐竹割りを放った。


 強力な一撃と言ってよかっただろう。


 運動能力、精神能力、ともに充実していた。


 一義はその一撃を受け止めず、ヒョイと真横に身を移して躱す。


 ツーハンデッドソードは一義の残像を切り裂いて、地面に衝撃を伝える。


 ちなみに軽装ながら鎧と兜を装備している戦士と違って、一義は一般的な衣服しか身につけていない。


 当然戦士の剣を体で受ければ致命傷とまでは行かなくとも痛い思いをするのは必至だ。


 敵する戦士にやる気の有無を悩ませる原因の一端でもある。


 驕りととられるのも仕方ないが一義にしてみれば、


「むしろ運動能力を阻害する鎧を身につけることこそ不合理だ」


 ということになる。


 戦士は地面に叩きつけた剣に力を伝え、足元から一義の胴を狙う逆袈裟を放つ。


 一義は後ろに飛びのいてソレを躱す。


 だが戦士の一撃はフェイントだった。


 裂帛の気合が刺突という形をもって放たれる。


 斬撃が線の攻撃なら刺突は点の攻撃だ。


 躱しやすくはあるが一撃の鋭さと速さは斬撃に勝り防御もしにくい。


 一義はここにきてようやく持っていた木刀を振るった。


 繰り出されるツーハンデッドソードの刺突に木刀を絡ませる。


 木刀はまるで蛇のように螺旋を描きながらツーハンデッドソードに襲い掛かる。


 次の瞬間、


「……っ」


 戦士は驚愕した。


 一義の木刀が戦士の首元に添えられたからだ。


 そして戦士の持っていたツーハンデッドソードは、宙を舞っていた。


 戦士の手を離れたツーハンデッドソードはクルクルと回転して飛び上がり、それから重力に引かれて地に落ちる。


 カランと軽妙な音をたてて地面とぶつかるツーハンデッドソード。


 何が起こったのか……理解したのは少数だろう。


 勝負ありだった。


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