剣劇武闘会05
「…………! …………!」
無言で歓喜を表しながら水着姿のハーモニーが一義の背中をこすっていた。
タオルで。
石鹸まみれになりながら。
発端は一義の一言だった。
食後の……ハーモニーにとっては大量に食べた和食をもってして腹八分といったところだったが……茶を飲んでいたハーモニーに、
「ハーモニー」
と一義は話しかけて、
「一緒にお風呂に入ろうか」
そんな提案をしたのだった。
ハーモニーが茶を吹きだしたのもしょうがないことだったろう。
「…………! …………!」
狼狽えるハーモニーに、
「たまには裸の付き合いもしないとね」
一義は至極あっさりと突拍子も無いことを口にする。
姫々とビアンカとジンジャーとが異論反論を提言したが、
「また後日」
という一義の言葉に封殺された。
そして、
「駄目かな?」
とハーモニーに問うと、
「…………! …………!」
ハーモニーはブンブンと首を横に振った。
そんなわけで一義とハーモニーは一緒に風呂に入ることになった。
もちろん一義ルール故に水着着用だが。
先にハーモニーが体を洗って水着を着て入浴。
後に一義が水着を着て浴場に入り体を洗う。
そんな流れだった。
一義がいざ体を洗おうとすると、
「…………」
ハーモニーがピトッと一義にくっついた。
「何?」
問う一義に、
「…………!」
ハーモニーは無言で雄弁に語った。
桃色の瞳を愉悦に揺らめかせて。
「もしかして僕の背中を流したいの?」
確認するような一義の言に、
「…………!」
コクコクとハーモニーは頷く。
それでこの状況である。
頭髪用の石鹸で髪をワシャワシャと洗う一義と並行してハーモニーが一義の上半身を洗うのだった。
ハーモニーは不器用なりにエイショエイショと一義の体を洗う。
無論下半身は洗わせない一義ではあったが。
一義は自分のイチモツを、
「可愛い」
と思っているが、かしまし娘に言わせれば、
「凶悪」
ということになるらしい。
情操教育は大切なのだと一義は認識しているので幼いハーモニーにソレを見せることだけは頑として避けるのだった。
そしてシャワーで石鹸の泡を洗い流し一義とハーモニーは湯につかる。
「はふ。極楽極楽」
「…………」
風呂に浸る時特有の安堵の吐息を一義とハーモニーはつくのだった。
一義とハーモニーは重なる様に湯船に身を浸している。
一義の胸板に後頭部を預けて、一義の腰に腰を預けて、ハーモニーは一義と重なり合っていた。
「ハーモニーは可愛いなぁ」
一義はクシャクシャとハーモニーの髪を撫ぜる。
ハーモニーはのぼせるのとは別の要因で顔を赤くする。
「…………! …………!」
手振り身振りを交えて自己主張するがハーモニーリンガル……花々がいないため意志は伝わらない。
「ハーモニーの言葉が伝わらない以上こっちから一方的にコミュニケーションをとる形になるけどいいかな?」
問う一義に首肯するハーモニー。
「僕がいなくて寂しかった?」
「…………」
コクコクとハーモニーは頷く。
「ハーモニーは僕のこと好き?」
「…………」
コクコクと以下略。
「一緒に王都に行きたかった?」
「…………」
コクコクと以下略。
「でもハーモニーは立派な戦力だしなぁ」
「…………」
憮然とするハーモニー。
「矛盾の魔術師が鉄血砦を消滅させちゃったから霧の国と鉄の国の国境線の定義に際してハーモニーは霧の国の事情を優先させうるカードになるからね」
「…………」
この沈黙は一義にも理解できた。
つまり、
「知ったこっちゃない」
とハーモニーは言いたいのだ。
無論一義も同様の思いがある。
「ハーモニーは可愛いね」
そう言って自身に身を預けているハーモニーを一義はギュッと抱きしめる。
狼狽えるハーモニー。
それすら一義には愛おしい。
一義はハーモニーの平らな胸に腕をまわして、華奢な肩に手を置いて、それから強く抱きしめる。
「ハーモニーとの出会いをロマンスの神様に感謝だね」
「…………! …………!」
ハーモニーは言葉を発しないまま言葉を失った。
ピチョンと天上から落ちた水滴が湯船に跳ねて鳴り響く。