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剣劇武闘会02


 そしてランナー車に乗ること十日。


 一義とかしまし娘とアイリーンとディアナとエレナとジャスミンは二百の軍勢を率いてシダラを間近に迎えるのだった。


 一義たちはランナー車に乗っていた。


 二台のランナー車だ。


 一台には一義と姫々とアイリーンとジャスミン。


 もう一台には音々と花々とディアナとエレナである。


 アイオンは今回ばかりは出番無しだ。


 もっとも二百の兵士を引き連れての大名行列であるが故にランナー車は馬車と等速で進み、その結果王都ミストから大都市シダラまで十日の時間がかかったのだが。


 少なくともその間は暗殺者に襲われることはなかった。


 一応音々が斥力結界を張り、花々が超感覚で警戒していたが、不埒な思想の持ち主が現れることはなかった。


 山賊も然りである。


 二百の軍勢を相手に喧嘩を売る山賊なぞ存在しないだろう。


 彼らの凶暴性は弱者に対して発揮される類のものだ。


 正々堂々と弱者を苦しめる。


 そんな輩に後れをとる王の護衛たちではなく、それを十二分に察しているから山賊も手出しはしない。


 そんなわけで大名行列は大した障害もなく進んだ。


 都市から都市へと。


「マジで僕が剣劇武闘会に出なきゃいけないのかな?」


 ランナー車の中で一義は嘆息した。


 そしてステップのカードをきる。


「ディアナ様が決めたことですから……」


 姫々はおずおずと言を紡ぐ。


「一義は嫌ですか?」


 アイリーンが八のカードをきる。


「陛下にそれだけ信頼されているということだぞ? 誇らしく思え。何、俺を圧倒したお前だ。優勝など決定事項だろう?」


 七のカードをきるジャスミン。


「さぁね」


 ふてくされた様に一義は言う。


「何事もそう簡単じゃないからね」


 五のカードをきる。


「ご主人様は本当に力がお嫌いですね……」


 ワイズマンのカードをきりながら姫々。


「ああ、嫌いだね。力ってのは何かを狂わせるために存在するんだ。そんなものは僕には不要だ」


 ふんす、と鼻息荒く一義は断言する。


「歪みを生む……あるいは歪みを正すのが力だ。正すならいいけど歪みが無ければ正すことも出来ない。そんな意味では業の深い能力だよ……力っていうのは」


「でもおかげで私はこうしていられます」


 捨て札から四枚カードを抜き取るアイリーン。


「それは前提条件が間違ってる」


「間違いだと?」


 ジャスミンの問いに、


「然り」


 一義は首肯する。


「そもそもアイリーンが反魂じゃなければあんなことは起きなかった」


「それは……」


「確かに……」


「そうではあるが……」


 姫々とアイリーンとジャスミンが呻く。


「しかして」


 これはジャスミン。


 四のカードをきりながら。


「そうでなければアイリーンはファンダメンタリストの刺客に成り果てていただろう?」


「それはそれで力でしょ」


 バックのカードをきる一義。


「結局のところヤーウェ教に反する者を力をもって排除する。それがファンダメンタリストでしょ?」


「むう……」


 ジャスミンは三のカードをきる。


「ある意味で暗殺者ギルドになってるけど……力が無ければそんな事態にもならずに済んだのに」


 一義の白い瞳に映るのは疲労。


 あるいは徒労。


 虚無感が一義の瞳を塗りつぶしていた。


「強者が弱者を無視して横柄に振る舞う。それが力の本質だよ。つまり歪み……だね」


 一義は言う。


「つまり僕は僕でさえなければ平穏だったはずなんだ」


「でもそれでは一義は……」


「ご主人様は……」


「黙れ」


 何かを言おうとしたアイリーンと姫々の言葉を封じる一義。


 その先に待つ言葉を一義は正確に理解していた。


「?」


 一人眉を疑問に歪めるジャスミン。


 姫々とアイリーンはこう言いたいのだ。


「一義が力を持ったからこそ月子と出会えたのではないか」


 と。


 ある意味で事実だ。


 だがそのせいで一義が月子を死に追いやったのも事実だ。


 一義は月子を想う。


 いつまでだって想う。


 あの灰かぶりの姫を想う。


 それが一義の現在のレゾンデートルだった。


「あ、シダラが見えてきたぞ」


 ジャスミンがランナー車から風景を覗いてそう言った。


 カードゲームを一旦止めて一義たちは風景を見やる。


 霧の国と鉄の国の国境を決めるための専属機関。


 そして今の一義の基盤。


 大都市シダラ。


 懐かしい風景が一義を襲った。


 ビアンカとジンジャーとハーモニーが待っているはずだった。


 そんな大都市シダラを懐かしく思う。


「ただいま」


 それは心から生まれいずる声だった。


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