エレナという王女17
その日の夜。
女王の客分ということで豪勢な夕食を堪能した一義たちは王族専用の風呂に入ることになった。
一義についてきたのは姫々、音々、花々、アイリーン、ディアナ、アイオン、エレナ、ジャスミンである。
ついでに風呂には入らないが褐色の美少女侍女キザイアもディアナのフォローとして後に続く。
「俺が女王陛下と一緒に入浴するなど……!」
とジャスミンは渋ったが結局女王命令ということで一緒に入浴することになる。
「ジャスミンもハーレムなんだから一義様へのアピールの場には同席しないとね」
というのがディアナの論旨だ。
無論、
「裸の付き合いに権威は存在しえない」
という言葉で包んではいたが。
ちなみに一義のルールで検閲に引っかかる行為は禁止されている。
故に全員が水着である。
着替えはハーレムが先に、そしてハーレムが脱衣して浴場に入ったら一義が脱衣所で水着に着替えるという段取りだ。
「花々とアイオンとエレナは胸が大きいですねぇ。羨ましいです……」
そんなディアナの言葉が聞こえてくる。
「陛下はモデル体型じゃないか。姫々といいアイリーンといい、そちらのほうがわたくしには羨ましいけどなぁ」
これはアイオン。
「ふっふっふ。お兄ちゃんは幼女好きなんだよ!」
これは音々。
「一人幼児体型というだけで希少性があるね」
これは花々。
「モデル体型と言ってもわたくしはアイリーン様より胸が小さいんですよね……」
悲しそうに姫々。
「でも私より姫々の方が腰細いじゃないですか」
これはアイリーン。
「一義は筋肉のついた俺の体など……」
これはジャスミン。
「……大丈夫。……一義はそんなことを勘定する人じゃない。……それにジャスミンは綺麗な体」
これはエレナ。
そしてキャッキャウフフと女子たちの会話や悪ふざけが超感覚として一義に届く。
「何だかなぁ」
そう言う他ない一義だった。
ギシリと脱衣所の扉に体重を預ける。
「君たちもご愁傷様だね」
一義は脱衣所の扉の警護をする女性騎士二人にそう言った。
「「…………」」
跳ね返ってきたのは沈黙。
皮肉に対して答える術を持たなかったのか。
それとも故意に無視したのか。
それは一義にもわからなかったけれど。
ともあれ城内は厳戒態勢だ。
浴場という無防備な空間に刺客が現れないとも限らない。
無論入浴に際してかしまし娘が……重火の姫々と絶防の音々と金剛の花々がいるので大概のことでは賊におくれはとらないが、それでも用心をしくに越したことはない。
エレナを狙う暗殺者が内にいようと外にいようと、城内の警戒網を潜り抜けてエレナを襲撃したのは事実なのだ。
故に護衛がつくのも仕方ないことだった。
「なんだかなぁ……」
うんざりと吐息をつく一義。
そもそも何故エレナが狙われるのか。
霧の国と波の国との戦争を望んでいる人間がいるのか。
そんなことを考えてしまう。
確かにエレナが霧の国で殺されれば国際問題だ。
ということは、
「鉄の国……か?」
ある意味で自然な一義の結論だった。
霧の国と波の国の同盟和議を損なって得するのはまず真っ先に鉄の国だ。
しかしてソレが仮に事実として暗殺が失敗した後に暗殺者が確保されて痛い目を見るのも鉄の国なのである。
そんなリスクを犯すだろうか?
そう一義は思わざるを得ない。
「でもなぁ」
他にも幾つか仮説はあったが証拠不十分で却下する。
と、
「…………」
ガラリと脱衣所の扉が開けられた。
現れたのはキザイア。
「…………」
無言で脱衣所を示す。
「ありがと」
クシャクシャとキザイアの頭を撫でて一義は脱衣所に入る。
既にハーレムとエレナは浴場へと身を移しているらしい。
一義は素早く水着に着替えて浴場に踏み入る。
ハーレムとエレナは入浴していた。
当然全員がツーピースの水着を着用している。
一義は速やかに髪と体を洗って自身もザブンと広い浴場の一角に浸る。
「一義……」
とこれはジャスミン。
「俺の体はどうだろう?」
拒絶されることを恐れる飼い犬のような眼だった。
紺色の瞳は憂いに満たされている。
「十分魅力的だけどね。少なくとも十把一絡げとは一線を画す美の集大成だ」
一義は本音を躊躇なく言った。
「そうか……」
嬉しそうに安堵するジャスミン。
「なんなら頂くか?」
「勘弁」
一義はホールドアップする。
「ご主人様……いったいどれだけの女子を籠絡すれば……」
「お兄ちゃん?」
「旦那様も罪な人だね」
「一義、ズルい」
「一義様はジゴロですね」
「一義ときたら本当に……」
そんなハーレムたちの心情であり言葉だった。