エレナという王女12
そんなこんなで一義とジャスミンは決闘をすることになったのだった。
訓練場には一義とジャスミンは当然として、兵士たちとアイオンを除く一義のハーレムとエレナとがいた。
アイオンは興味無さ気に自身の研究室に戻っている。
さして興味もないのだろう。
それは一義にも同じことだった。
「わざと負ければしがらみから解放されるのかな?」
などと不埒なことさえ考えている。
とまれ、
「ルールは?」
と一義が問うと、
「どちらかが死ぬまでだ」
ジャスミンは物騒なことを口にした。
「死んだらどうするのさ?」
当然と言えば当然の疑問に、
「反魂がいるだろう」
当然と言えば当然の返答。
「あー……」
反論する気力もなく、
「さいですか」
受諾する一義であった。
「こんなことなら負けりゃよかった」
と表情が語っていた。
「そもそもだけどさ。痛い目みて気分悪くしない?」
「戦士とはそういうモノだ」
「僕は戦士じゃないんだけど……」
「霧の国の軍属だろう? ならば女王陛下をお守りし、その威光を他国に轟かせるための機能構造の一人たれ」
「軍閥化の第一歩だね」
苦笑する一義。
「では……」
スラリと腰の鞘に収めていた剣を抜くジャスミン。
紺色の髪が闘気で揺らぎ、紺色の瞳が戦意で揺らぐ。
生粋の戦士であった。
「姫々」
と一義は姫々に語りかける。
「何でしょうご主人様……?」
「刃引きされた和刀を」
「はいな……」
ハンマースペースから和刀を取り出して一義に渡す姫々。
そしてとてとてと観客にまわる。
ジャスミンは不快感を露わにした。
「なめてんのか……」
「何ゆえ?」
「刃引きした和刀で俺が斬れるか……!」
「まぁ斬れないだろうね」
「殺す気で来い!」
「嫌だね」
いっそさっぱりと一義は言った。
「俺は貴様を殺す気だぞ?」
「だからといって僕が君を殺す理由にはならない」
「善人ぶってるつもりか……!」
「まさか」
一義は抵抗の手段としての殺人を否定したりはしない。
ただ、
「負けを認めさせるだけなら殺すに値しない」
というだけの事だった。
そしてシャランと鞘から和刀を抜く。
「ただ……可愛い君を傷つけるのは気が引けるってだけさ」
「か、かわ……!」
動揺および紅潮するジャスミン。
「おや?」
と一義は思う。
「それが君の弱みかな?」
挑発する一義に、
「そんなわけなかろう!」
頬が赤いまま激昂するジャスミン。
「ま、別にいいけどね」
一義は和刀を無構えで構える。
ジャスミンは両刃の剣を片手で正眼に構える。
次の瞬間、ジャスミンの緊張が一義と花々以外の全員に感染する。
「死闘になる」
そもそも反魂のアイリーンを頼った殺し合いだ。
そう皆々が思うのも仕方なかった。
そして審判代わりの兵士が、掲げた手を振り下ろして、
「始めっ!」
と叫んだ。
次の瞬間、ジャスミンは開いた片手を一義に向けて、
「ファイヤーボール!」
と呪文を唱えた。
意識が世界に投影されて、生まれ出でた炎弾が超音速で一義に襲い掛かる。
それあるを意識した一義は袖に隠していた暗器……クナイを素早く取り出してファイヤーボールにぶつける。
接触。
後に爆発。
そして一義が動く。
前回同様爆発を目くらましに高く跳躍してジャスミンの隙をつこうとする。
が、そんな三文奇術が何度も通用する相手ではない。
少なくとも相手は王属騎士。
その実力は折り紙つきだ。
さらに蛇炎の魔術師でもあり、
「……っ」
自身を捉えている紺色の瞳に一義はゾクリと寒気を覚えた。
「空中でこれは避けられまい!」
高らかに勝ち誇って、
「ファイヤースネーク!」
とジャスミンは呪文を唱える。
魔術が起こった。
ジャスミンの剣に纏わりつくように螺旋の炎が生まれると、それはアギトを持って蛇のように空中の一義に襲い掛かる。