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エレナという王女03


 一義とハーモニーは兵士に連れられて学院へと足を運んだ。


 時間は午後三時といった具合だ。


 ちなみにハーモニーは一義が買い与えた黒パンをもふもふと食べている。


 食欲魔神ハーモニーはあれだけケーキを食べていながら腹六分である。


 当然、黒パンもペロリと食べつくすのだった。


 そんなわけで予備に買っていた黒パンを一つ取り出してハーモニーに与える一義。


 気分はペットのネズミに餌を与えているソレだ。


 またもふもふ。


 そして一義とハーモニーは学院の入り口につく。


「げ……」


 と呻いたのは一義。


 大きなトカゲを見て驚いたからだが、この際大きさは関係ない。


 問題はその大きなトカゲ……ロードランナーに車両がくっついていることだ。


 ランナー車。


 それはそう呼ばれる乗り物だ。


 馬の三倍の速度で走るロードランナーを用いた王侯貴族御用達の超高級セレブリティな乗り物である。


 それが学院の入り口に止まっていたのだ。


「シェイクランス曰く……安心、それが人間の最も近くにいる敵である……か」


 全てを察して一義はそう呟いた。


 ハーモニーはもふもふ。


 そして一義は兵士に護衛および誘導されて特別棟の学院長室に顔を出すのだった。


 学院長は一義を認識すると、


「よく来てくださいました」


 と微笑んだ。


「緑茶と紅茶……どちらがよろしいでしょう?」


「緑茶」


「はい。了解しました」


 そう言って学院長は秘書に緑茶を淹れるよう命じる。


 一も二もなく秘書は頷いて茶の準備をした。


 ハーモニーは黒パンを食べ切る。


 一義はまた買い貯めていた黒パンをハーモニーに渡す。


 もふもふとハーモニー。


 その桃色の瞳に映るのは純粋な食欲。


 一義に与えられた黒パンを消化すること以外は埒外ということらしい。


 そして誰も気にしなかった。


 学院長室には一義とハーモニーと学院長と学院長の秘書と……それから姫々、音々、花々のかしまし娘とアイリーンがいた。


「ご主人様……」


「お兄ちゃん……」


「旦那様……」


「一義……」


 そう呼ぶかしまし娘とアイリーンに、


「…………」


 一義は答えずガシガシと後頭部を掻いた。


 秘書が緑茶を湯呑みに入れてソファに座った一義の前のテーブルに置き、退室する。


「で……?」


 と一義が口火を切った。


 緑茶をすすりながら。


「何の用でしょう?」


 これは学院長に向けてだ。


「一義様……それからアイリーン様……」


「何?」


「何でしょう?」


「お二方には王都に向かってもらいます」


「…………」


「…………」


 当然わかっていることであり、事実確認以上の意味を持たない言葉だった。


「女王陛下が僕たちに何か用が?」


「然りです」


 ピシャリと答えられた。


「何で、かしまし娘まで呼ばれてるのさ?」


 そんな一義の問いに答えたのは学院長ではなかった。


「ご主人様が行くところがわたくしの行くところです……」


「お兄ちゃんと一緒にいたいよ!」


「旦那様はあたしたちの太陽だからね」


 かしまし娘はそう主張してきた。


「まぁ確かに僕の行くところにかしまし娘はいるけどさ……」


 困ってしまってそう言う一義。


「…………! …………!」


 ハーモニーが黒パンをもふもふしながら片手をぶんぶんと振る。


「何て言ってるの?」


 通訳を頼む一義に、


「私も一緒に行く……と言ってるよ」


 花々が答える。


 一義がポンとハーモニーの頭に手を置いてクシャクシャと桃色の髪を撫ぜる。


「面倒事にハーモニーを巻き込むつもりはないよ。適当に御留守番していて」


「…………」


 頭を撫でられて紅潮したハーモニーはそれ以上主張しなかった。


 一義は黙ったハーモニーに微笑んで、それから学院長に問う。


「で? 女王陛下が一介の学院生徒に何の用?」


「詳しくは聞かされていません」


「ですか」


 まぁそんなところだろう。


 一義はそんな風に納得する。


「ただ一義様とアイリーン様……それから花々様を必要としていると聞きました」


「あたしかい?」


 花々がハトに豆鉄砲のような表情をする。


「超感覚か……」


 呟いたのは一義。


「なるほど」


 とこれは一義以外の全員。


「そういうわけで一義様とかしまし娘とアイリーン様には王都へと行ってもらいます。異論は?」


「あるけど呑み込みますよ」


 一義はやれやれと言った。


「ビアンカとジンジャーには上手く話しておいてくださいね」


 それが一義の精一杯の抵抗だった。


 そして次の場面ではランナー車の車上の人となっているのだった。


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