第1話(前編)森で拾った青年は、どうやら魔王様だったらしい
私が森で拾った青年は、どうやら魔王様だったらしい。
しかも、その魔王様を討伐しに来た勇者は、私の目の前で聖剣を抜いてしまった。
その結果、聖剣は折れ、勇者は地下牢へ送られることになった。
ちなみに、聖剣を折ったのは私である。
どうやら私は、その勇者より強かったらしい。
◇ ◇ ◇
私の名前はアデリーナ・ルーヴェル。
ルーヴェル王国の女王で、今年二十二歳になる。
三年前に父から王位を継いで以来、毎日のように政務に追われているけれど、国民の暮らしが少しずつ良くなっていくのを見るのは嬉しい。
ただ、最近は少々困ったことがあった。
「陛下。そろそろ、ご結婚について真剣にお考えいただけませんか?」
今日も執務室で、宰相のベルナールが私に結婚を勧めてくる。
「考えていないわけではないのよ?」
「では、先日お越しになった第二王子殿下はいかがでしょう?」
「あの方は駄目よ。私との結婚を条件に、北部鉱山の採掘権を要求してきたもの」
「……それで、陛下は三時間も契約条件について問い詰められたのですね」
「当然でしょう? 国の財産を簡単に渡すわけにはいかないわ」
ベルナールが深いため息をついた。
「陛下のお考えは正しいのですが、もう少し穏便にお断りする方法もあったのでは?」
「あら。私は最後まで丁寧にお話ししたわよ?」
「先方の王子殿下は、帰国する馬車の中で泣いておられたそうです」
「……そんなに採掘権が欲しかったのかしら?」
ベルナールが額を押さえた。
私だって、いつかは結婚したいと思っている。
ただ、女王という立場や王国の財産ではなく、私自身を好きになってくれる人がいいのだ。
そんな相手が簡単に見つからないことくらい、分かっているけれど。
◇ ◇ ◇
それから数日後、私は国境近くにある砦を視察していた。
国境警備の状況を確認するためだったのだけれど、そこで思いがけない報告を受けることになった。
「陛下! 森の中で負傷した男を発見いたしました!」
報告に来た騎士の後ろには、二人の騎士に支えられた青年がいた。
黒い髪に整った顔立ちをしていて、年齢は私と同じくらいだろうか。
身につけているのは、上質な生地に精巧な刺繍が施された、どこか高貴な身分を思わせる衣服だった。
ただ、その衣服はあちこち破れ、身体には深い傷がいくつもあった。
青年の顔を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。
……あら。
なんて綺麗な人なのかしら。
今まで何人もの王子や貴族の男性と会ってきたけれど、こんなふうに目を奪われたことは一度もなかった。
けれど、その綺麗な顔は血の気を失い、騎士たちに支えられた身体には、ほとんど力が入っていないようだった。
私は気づけば、彼の方へ歩き出していた。
「すぐに治療を。こちらへ運んでちょうだい」
「お待ちください、陛下!」
護衛騎士団長のグスタフが、私の前へ進み出た。
「身元の分からぬ男です。何者かも分からない以上、陛下が直接お近づきになるのは危険です」
「分かっているわ。でも、このまま放っておいたら死んでしまうでしょう?」
「それは……」
「警備はあなたたちに任せるわ。私は、この方を助けたいの」
グスタフはしばらく私を見つめていたけれど、やがて諦めたように頭を下げた。
「承知いたしました。ただし、護衛を離すことはできません」
「ええ。それで構わないわ」
私は青年のそばに膝をつき、傷の状態を確かめた。
かなりの出血があったものの、まだ息はある。
……よかった。
まだ間に合うわ。
この人が何者なのかは分からない。
それでも、もう一度その瞳を開いて、私を見てほしいと思った。
両手をかざして治癒魔法を使うと、傷口が少しずつ塞がっていった。
「……これで大丈夫ね」
青年のまぶたがわずかに動いた。
「……ここは……?」
「ルーヴェル王国よ。あなた、森で倒れていたの」
「……ルーヴェル……?」
青年は困惑したように周囲を見回した。
「あなたのお名前は?」
「……ゼフィール」
それだけ答えると、彼は再び目を閉じてしまった。
「グスタフ。この方の身元を調べてちょうだい。衣服を見る限り、どこかの貴族かもしれないわ」
「承知いたしました。所持品の確認と、周辺での聞き込みを進めます」
「お願いね。それから、記憶が戻るまでは無理に問い詰めないであげて」
「はっ。警護についても、引き続き万全を期します」
私はもう一度、眠っている青年の顔を見つめた。
この人が何者なのか、今はまだ分からない。
けれど、目を覚ましたときに安心して過ごせる場所を用意してあげたいと思った。
◇ ◇ ◇
ゼフィールは、王宮の離宮で療養することになった。
もちろん、身元が分からない以上、グスタフの判断で護衛騎士が配置されている。
数日後、彼はようやく一人で歩けるまでに回復した。
その日の朝、グスタフから身元調査の報告があった。
「陛下。ゼフィール殿の身元についてですが、国交のある国々にも照会を進めております。しかし、現時点で身元を特定できる情報は得られておりません」
「そう……。あれほど立派な衣服を着ていたのに?」
「はい。国交のない国の貴族か、あるいは別大陸の出身者という可能性もございます」
「それなら、すぐに身元が分からなくても不思議ではないわね」
「引き続き調査いたしますが、確認には時間を要するかと」
「分かったわ。よろしくお願いね」
グスタフが一礼して退室したあと、私はゼフィールの様子を見に行くことにした。
「身体の具合はいかが?」
「ああ。もうほとんど問題ない。君のおかげだ」
「それならよかったわ。ところで、何か思い出せた?」
「……いや。名前以外は、まだ何も」
ゼフィールは申し訳なさそうに目を伏せた。
「すまない。世話になっているのに、自分が何者なのかも説明できない」
「謝る必要はないわ。思い出せないものは仕方ないでしょう?」
「だが、君に迷惑をかけている」
「迷惑だなんて思っていないわよ」
私がそう答えると、ゼフィールは少し驚いた顔をした。
「……君は、不思議な人だな」
「あら。よく言われるわ」
「そうなのか?」
「ええ。主にベルナールからだけれど」
ゼフィールが初めて笑った。
その笑顔を見て、私は彼が無事に回復してくれたことを、改めて嬉しく思った。
◇ ◇ ◇
ゼフィールが王宮で暮らし始めてから、私の日常には少しずつ変化が生まれた。
身元調査が続いているため、彼が自由に出入りできる場所は限られていたけれど、グスタフの監督のもとで少しずつ行動範囲が広がっていった。
王宮の者たちとも打ち解け、今では厨房や庭園で過ごすこともあるらしい。
ある日の昼過ぎ、執務室で書類を確認していると、扉が控えめに叩かれた。
「アデリーナ。少しいいか?」
「あら、ゼフィール。どうしたの?」
扉を開けた彼は、温かそうな料理を載せた盆を持っていた。
「昼食を取っていないと聞いた。厨房を借りて、簡単なものを作ってきたんだ」
「……私のために?」
「ああ。仕事が忙しくても、食事くらいは取った方がいい」
ゼフィールには、料理人の立ち会いを条件に、厨房を使うことを許可していた。
今日も侍女が料理を確認し、執務室まで付き添ってくれたらしい。
盆には野菜の入ったスープと、焼きたてのパンが並んでいた。
「ありがとう! とても美味しそうね!」
「口に合うといいんだが」
さっそくスープを一口飲んでみると、野菜の甘みが口いっぱいに広がった。
「美味しい! ゼフィール、お料理が上手なのね!」
「そう言ってもらえると嬉しい」
そのとき、書類を抱えたベルナールが入ってきた。
「陛下! また昼食を抜かれたのですか!」
「……今、食べているところよ?」
「ゼフィール殿が持ってきてくださらなければ、召し上がらなかったのでしょう!」
「そ、それは……」
ベルナールの視線から逃れるように、私はスープをもう一口飲んだ。
「アデリーナ。どうやら、いつものことらしいな」
「……たまによ?」
「昨日も昼食が遅かったと聞いたぞ」
「ゼフィールまで!」
二人に揃って注意され、私は少しだけ肩を落とした。
けれど、ゼフィールが私のために料理を作ってくれたことは、素直に嬉しかった。
◇ ◇ ◇
別の日には、ゼフィールが王宮の庭園で花の世話をしているところを見つけた。
「あら、ゼフィール。何をしているの?」
「この花壇が少し荒れていたから、手入れをしていたんだ。勝手に触ってしまって、すまない」
「謝らなくていいわ。むしろ、ありがとう」
花壇には、小さな白い花が咲いていた。
「この花、お母様が大好きだったの」
「……そうだったのか」
「ええ。私が幼い頃、よく一緒に眺めていたわ」
ゼフィールは花壇に視線を落とした。
「それなら、大切にしないとな」
「……ありがとう」
私は彼の隣にしゃがみ込み、白い花を眺めた。
母が亡くなってから、もう何年も経っている。
けれど、こうして花壇を手入れしてくれる人がいることが、私には嬉しかった。
しばらくして、ゼフィールが立ち上がった。
「アデリーナ。少し休んだ方がいいんじゃないか?」
「あら。どうして?」
「最近、仕事ばかりしているだろう。顔色も少し疲れている」
「……そんなに分かりやすいかしら?」
「ああ。俺には分かる」
私は思わず彼を見上げた。
「ねえ、ゼフィール。あなたは私のことをどう思っている?」
「優しい人だと思う」
「……それだけ?」
「ああ。それに、無理をしすぎる。もう少し自分のことも大切にしてほしい」
ゼフィールは真剣な顔で私を見つめていた。
「……女王だから、そう思うの?」
「違う。君がアデリーナだからだ」
私はすぐには返事ができなかった。
「それに、俺は君と過ごす時間が好きだ」
「……ゼフィール」
「記憶が戻らなくても、君と一緒にいられるなら、それだけでいいと思ってしまう」
彼は少し照れたように笑った。
私は頬が熱くなるのを感じながら、もう一度、白い花へ目を向けた。
……困ったわ。
そんなことを言われたら、もっと好きになってしまうじゃない。
◇ ◇ ◇
ゼフィールが王宮で暮らし始めてから、一か月が過ぎた。
彼はすっかり王宮での生活に馴染み、私も仕事の合間に彼と過ごす時間を楽しみにするようになっていた。
そんなある日、勇者一行が来訪することになった。
魔王討伐の旅を続けている勇者ガルディオと、その仲間たちだという。
魔王との戦闘後、その行方が分からなくなったため、周辺諸国に捜索への協力を求めているらしい。
勇者一行が魔王の行方について直接説明したいというので、私は謁見を認めることにした。
「陛下。勇者一行が謁見を求めております」
「分かったわ。謁見の間へ案内してちょうだい」
私は少し考えてから、ゼフィールにも声をかけることにした。
魔王討伐の旅について聞けば、彼の記憶が戻るきっかけになるかもしれない。
もちろん、無理に同席させるつもりはなかったけれど、本人も話を聞きたいと言ってくれた。
謁見に先立ち、グスタフから勇者一行の武装について報告を受けた。
通常、謁見の間へ武器を持ち込むことは認められていない。
ただし、勇者の聖剣はその身分と使命を示す特別な武器とされており、今回に限って儀礼上の帯剣を認めてほしいとの申し入れがあったという。
「陛下。聖剣の帯剣を認めるのであれば、近衛騎士を増員し、勇者の動向を常に監視いたします」
「そうね。聖剣を持つことと、ここで抜くことは別のお話だもの。帯剣だけは認めましょう」
「承知いたしました。許可なく聖剣を抜いた場合は、直ちに陛下と宮廷職員の安全を確保し、制圧に移るよう近衛騎士に命じておきます。ほかの三名については、通常どおり武器を預からせます」
「ええ。お願いね」
グスタフは一礼し、謁見の準備へ戻っていった。
謁見の間では、ゼフィールにも侍女や侍従たちと一緒に、壁際で控えてもらうことにした。
彼は正式な謁見の参加者ではないため、勇者一行の話を聞くだけにしてもらうつもりだった。
宰相のベルナールも、外交上の対応に備えて玉座の脇に控えている。
謁見の間へ入ってきたのは、四人の男女だった。
先頭に立つ金髪の青年が勇者ガルディオ。
その後ろには神官のセリス、魔導士のリュカ、重装騎士のダリオが続いている。
ガルディオの腰には聖剣が収められていたが、ほかの三人は武器を預けていた。
謁見の間の左右には近衛騎士が配置され、グスタフも玉座の近くで警戒している。
「遠路はるばる、ようこそルーヴェル王国へ。私が女王のアデリーナです」
私が挨拶すると、三人は丁寧に頭を下げた。
ところが、ガルディオだけは顔を上げた途端、壁際に控えていたゼフィールを見つけ、表情を変えた。
「……魔王!?」
その声に、謁見の間が静まり返った。
「……俺が、魔王?」
ゼフィールが驚いたように呟く。
「間違いない! 貴様、こんなところに隠れていたのか!」
ガルディオは腰の聖剣に手をかけた。
その動きを見たグスタフが、すぐに近衛騎士たちへ目配せした。
「お待ちなさい。ここはルーヴェル王国の王宮ですよ?」
私は立ち上がり、彼を見据えた。
「その方は私が保護している客人です。たとえ魔王だったとしても、事情を確認せずに攻撃することは認めません」
「魔王を庇うつもりか!?」
「庇うも何も、まだ何も分かっていないでしょう?」
ガルディオは私の言葉を聞こうとしなかった。
「法律など関係ない! 魔王討伐は天啓にして神の意思! その意思は、たとえ女王であっても覆すことはできない! 邪魔をするなら神敵とみなします!」
「……私を、神敵にするというの?」
「神の意思に逆らう者は、誰であろうと許されん!」
「そう。では、私もはっきり申し上げるわ」
私は玉座の前から一歩進み出た。
「ここは私の国です。あなたの神様が何をお望みでも、私の許可なく誰かを殺すことは認めません」
「なっ……!」
「それに、私が大切にしている人を殺そうとするなら、相手が勇者でも容赦しないわ」
ガルディオが聖剣を抜いた。
「魔王を守るというなら、貴様も敵だ!」
近衛騎士たちが一斉に剣を抜き、玉座の前に防衛線を作った。
同時に、壁際に配置されていた騎士たちが侍女や侍従を出入口へ誘導し、ゼフィールの前にも数名が立って警戒を強めた。
「ガルディオ! やめてください!」
セリスが慌てて叫ぶ。
「ここは他国の王宮よ! 剣を収めなさい!」
リュカも必死に制止していた。
「おい、ガルディオ! 女王陛下に剣を向けるな!」
ダリオが腕をつかもうとしたけれど、ガルディオはそれを振り払った。
「邪魔をするな! 魔王を討つのが俺の使命だ!」
聖剣が白い光を放ち、ガルディオの全身を魔力が包んだ。
「陛下をお守りしろ!」
グスタフの号令で、近衛騎士たちが私の前に陣形を組み直した。
私はその間を進み、グスタフの肩に手を置いた。
「グスタフ。あなたたちはゼフィールと宮廷職員を守って。勇者様の相手は私がするわ」
「しかし、陛下!」
「大丈夫よ。私が相手をするわ」
グスタフは一瞬だけ迷ったものの、私の顔を見て頷いた。
騎士団の訓練で何度も私の実力を見ている彼だからこそ、最後には任せてくれるのだろう。
「……承知いたしました。陛下の正面を空けろ! ほかの者はゼフィール殿と宮廷職員の護衛に回れ!」
近衛騎士たちは私の正面を空けながらも、左右と後方の警戒を維持した。
私はガルディオと向き合った。
「女王自ら戦うつもりか!」
「ええ。あなたが剣を収めてくださらないのなら、仕方ないでしょう?」
ガルディオが床を蹴った。
白い光をまとった身体が一瞬で距離を詰め、聖剣が私の肩を狙って振り下ろされる。
けれど、彼の右肩が下がった時点で、剣の軌道は分かっていた。
私は半歩だけ身体をずらし、聖剣を避けた。
「なっ!?」
ガルディオが振り返り、今度は横薙ぎに剣を振るった。
左足を軸にした回転も、剣を振る前の重心移動も、私には見えている。
私はその場で上体を引き、続く突きも身体をひねって避けた。
「なぜだ! なぜ当たらん!」
「動きが分かりやすいのよ。もう少し落ち着いて戦った方がいいわ」
ガルディオの顔が真っ赤になった。
「馬鹿にするなぁぁぁ!」
彼は聖剣を頭上に掲げ、さらに強い魔力を集め始めた。
「まずい! あれは魔王との戦いで使った奥義よ!」
リュカが叫ぶ。
「ガルディオ! こんな場所で使わないで!」
セリスも悲鳴を上げた。
けれど、ガルディオは止まらなかった。
「聖なる一撃を受けろぉぉぉ!」
白い光が膨れ上がり、聖剣が私へ振り下ろされた。
私は剣の軌道を見極め、右手を握りしめた。
そして、聖剣の側面へ拳を叩き込んだ。
甲高い音が謁見の間に響いた。
次の瞬間、聖剣が真ん中から砕け、白い破片が床へ散らばった。
私は右手を開いてみたけれど、傷一つついていなかった。
「…………」
ガルディオが動きを止めた。
私も、折れた剣を見つめた。
「……あら。折れてしまったわね」
床に落ちた破片は、まだ淡い光を放っていた。
「せ、聖剣が……?」
ガルディオの手には、柄と短くなった刀身だけが残っている。
「数百年もの間、魔王討伐のために受け継がれてきた聖剣が……」
リュカが震える声で呟いた。
「……素手で?」
「ええ。素手よ?」
私が答えると、三人が揃ってガルディオを見た。
「「「ガルディオの馬鹿ぁぁぁ!」」」
……あら。
ずいぶん息の合った方たちね。
「聖剣が折れようとも、俺の信念は決して折れん!」
ガルディオが叫んだ。
私は右手をゆっくりと握りしめ、彼へ微笑みかけた。
「勇者の心も折ろうかしら?」
ガルディオが私の顔を見た途端、口を開けたまま固まった。
どうやら、少し怖い顔になっていたらしい。
だって、次は聖剣ではなく勇者本人を殴れると思ったら、つい嬉しくなってしまったのだ。
「ひっ!?」
ガルディオは悲鳴を上げて後ずさり、そのまま床に尻餅をついた。
……勇者様なのに、ずいぶん情けない姿になってしまったわね。
「グスタフ。勇者様の聖剣の残りを回収して、四人の身柄を確保してちょうだい」
「はっ!」
近衛騎士たちが動き、ガルディオの手から折れた聖剣を回収すると、四人を取り囲んで退路を塞いだ。
「女王陛下! 私たちは止めようとしたんです!」
セリスが必死に訴えた。
「分かっているわ。皆さんの行動は見ていたもの。事情を確認したうえで、それぞれ適切に対応します」
「……ありがとうございます」
近衛騎士たちが四人の身柄を確保し、警戒を続けていることを確認してから、私はゼフィールのもとへ戻った。
「怖い思いをさせてしまったわね」
「いや……君を敵に回さなくて、本当によかった」
ゼフィールは、まだ少し驚いた顔をしていた。
「ふふっ。私がゼフィールを傷つけるわけないでしょう?」
私は彼に抱きついた。
ゼフィールは一瞬だけ身体を固くしたけれど、すぐに私の背中へ腕を回してくれた。
その後ろで、ガルディオが小さく呟いた。
「……魔王より、怖い……」
……聞こえているわよ、勇者様。
「陛下……聖剣を、本当に折ってしまわれたのですね……」
いつの間にか近づいてきたベルナールが、床に散らばった聖剣の破片を見つめていた。
「ええ。でも、私が折らなかったら、誰かが怪我をしていたかもしれないでしょう?」
「それは、おっしゃるとおりですが……」
ベルナールは何かを言いかけ、結局、両手で頭を抱えてしまった。
……あら。
勇者様の剣を折っただけなのに、どうしてそんなに困っているのかしら?
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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