6.嫌がらせ
3日後。館を閉めて、サンルームにあるガーデンチェアに並んで2人で腰掛けていた。
「……なんでこの短期間であんなに嫌がらせされるんだ……?」
「……すみません。私も少々予想外でした」
先日、サンルームにいた時にした音は人の頭ほどのインクが入った壺をぶつけられた音だった。真っ黒に汚れた壁を見てふたりして唖然とした。すぐに魔法で洗い流したのだけれど、その1時間後に館の前に土をばら撒かれた。そのさらに2時間後には再びインク壺が。
「1日平均5〜6回……この3日で17回……どんだけねちっこいんだ……」
彼はげんなりとした顔で嘆くが、私も同意だ。
魔法によって直ぐに片付けが出来るからまだマシであるものの、これほど多いと流石に嫌になってくる。
そして嫌がらせの種類も豊富。
インクぶっ掛け、土ばら撒き、生ゴミばら撒き、館の周りで大声で叫ぶ、悪評を流す、器物損壊etc...
よくある嫌がらせに子供のイタズラまがいのものから、犯罪になるものまで……レパートリーがあり過ぎだ。
「おそらく、私を疎んでいる同業者の方たちが、各々嫌がらせをしているのだと思いますが……」
「バラバラにしているせいで、こんな入れ替り立ち替りに嫌がらせが発生していると……ちなみに、恨んでるであろう同業者の方は何人くらいいるんです?」
「それは、…………?」
言われて気づいたけれど、他の占い師(?)の数など数えたことがなかった。思い出せる限りを指折り数えていく。
「……、…………12?」
「多っ」
街が大きいのもあるのだろうけれど、この街には沢山の自称占い師が沢山いた。数人は共謀して詐欺を図ったり分け前を分けたりしているだろうけれど、それを差し引いても多い。
「……意外といるようですね、占い師」
「そんなしみじみと他人事みたいに言うことじゃないと思いますけどね」
これまでは恨まれようがどうでもよかったのだけれど、襲われかけたあとでそうはいっていられない。今後も嫌がらせが続くようならば営業妨害になる。それに、お客に被害が及ばないとも限らない。
「やはり、早急に対策を講じるべきですよね……」
「そうですね。具体的にどうするかって言われると困りますけど」
幸いにも、私は様々な魔法を扱える。いくらでも手の打ちようはある。
「ひとまず、館に結界を張りインク壺と器物損壊に備えましょう。あとは、魔法生物で周辺の監視でしょうか」
「え、この蝶で?」
きょとんとした彼が頭上を舞う蝶に目を向けた。キラキラと光る鱗粉が綺麗だ。つまり、とても目立つ。
「いえ、この蝶は監視に不向きです。見ての通り、目を引きますから。蝶ではなくて、こちらを」
イメージを思い浮かべ、膝上にそれを創り出した。しなやかな体躯に機動性、俊敏性を兼ね備えた黒猫が私を見上げ一声鳴いた。そしてもう一つ、これまた真っ黒な羽根の鴉が肩上に飛び乗った。
「猫には地上で音と匂いに警戒を。鴉には上空から視認によって警戒をしてもらいます。異常があればすぐさま私に伝わりますので」
「……えっ、何今の。凄っ」
魔法生物の創造を初めて見たのか、彼の視線が私と猫と鴉を行ったり来たりする。すると金目の黒猫が彼の膝に飛び乗り頭を擦り付けた。
「かわ……っ」
「?」
何やら悶絶していた彼がガバッと猫を抱き上げ腹に頬擦りしだした。猫もまんざらではなさそうだ。……何をしているのかこの魔法生物は。
一方鴉は私のフードを嘴で突いていた。主を気にせず自由に振る舞うそれらに、自然と口の端が上がる。
「え、今……」
「それでは……ええと、何か?」
「……いや、何でも」
何か言いかけたような気がして、問い返すと彼は慌てて首を振った。大したことじゃなかったのだろうと言葉を続ける。
「この2体は外に放ちます。私は結界展開の準備をしますので、その間何かあればお願いします」
「わかりました」
彼は名残惜しそうに猫を撫でてから窓から外に出した。鴉もそれに続く。あっという間に2体は見えなくなった。
私は3階に上がり、倉庫の中から結界の核に良さそうな魔石を探していた。魔石は沢山保管してあるものの、核にするには大きすぎたり小さすぎたり、品質が悪かったりしてちょうど良いものがなかなか見つからずにいた。
ようやく見つけたちょうど良い白色の魔石を手に1階へ戻る。……ひとつ、良いことを思いついた。
「……あ、レーツェルさん。お帰りなさい」
「変わりはなかったですか?」
「はい、何も起きてませんよ。……なんか悪いこと考えてます?」
「……鋭いですね」
魔石を掲げ、魔法陣を空中に描いた。
「魔石に付与する魔法に、結界の他にも魔法を組み込もうかと思いまして」




