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禁忌を犯す占い師  作者: 金狐銀狼


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5/10

5.サンルームにて

 思わぬ提案をされた翌日。


「おはようございます、レーツェルさん!」

「……おはようございます、エーリヒ様」


 ほんとうに来た。


 ノックをされ、扉を開けると彼がいた。今日は昨日と違って帯剣をしている。様になっているのを見て、やはり騎士なのだな、と思うものの。


 ――どうしても、彼があるものに見えて仕方が無かった。


「……人懐っこい大型犬」

「はい?」

「いえ、何でもありません。どうぞ、お入りください」


 思わず口に出してしまったそれを咳払いで誤魔化し、館の中を簡単に説明した。

 館は3階建てで、1階にはサンルームも併設している。温度管理は私が魔法で行うため、大掛かりな装置は必要なく、日当たりのよい暖かい場所で育つ植物はここで育てていた。日陰でも育つものは、店舗として使っているところにある。


「1階を店舗兼薬草の栽培場所として、2階と3階を住居として使っています。2階にリビングやキッチン等の水回り、3階に寝室と物置があります」


 ほぼ初対面の人間を住居へ入れる気にはならず、2階以降は口頭だけの説明にさせてもらった。


 サンルームに入ると、彼は目を輝かせてはしゃぎ始めた。


「うわ、凄いですね! 色々ある……何だこれ?」

「あ、気を付けてください、食われますよ」

「エッ?!」


 彼が触れようとしたのはディオネア・マスシプラという食虫植物。羽虫避けに何種か食虫植物を取り寄せていて、これはそのうちの一つだ。ほかにもネペンテスやドロセラ・ロツンディフォリアを育てている。見た目は少々アレだが、働きぶりはとてもいい。


「食われるって……これ、草ですよね? なんか変な形してますけど……なにこの葉っぱ。(ワニ)の口みたい」

「ええ、れきっとした植物です。……ああ、ちょうど良いところに」


 目の前を横切った蠅がディオネア・マスシプラの独特な形状の葉の上に止まる。と、開いていた葉が閉じた。まるで、鰐の口が閉じられるように。

 蠅はバタバタと藻掻いて逃れようとするが、上下それぞれの葉の縁から交互に伸びる歯のような突起が噛み合わせをしっかり覆っていて出ることができない。次第に蠅の動きは弱々しくなっていき、最後にはピクリとも動かなくなった。


「…………なにコレ……怖い……」

「害虫を食べてくれる優れものです。ほかにもありますよ。これは甘い匂いで羽虫をこの壺のような毛状の内側に誘い込み、蓋をして出れなくした上で消化液で溶かすもの。こっちは粘性の高い粘液を分泌して、くっついた虫を絡めって溶かすものです」

「なんでそんなものあるのっ?!」


 引き気味に食虫植物の罠に掛かった蠅を見ていた彼が、私の説明を聞いて半ば叫ぶように言った。

 ゲテモノ扱いをされているような気がするけれど……サンルームの中に虫が大量発生しないのはこの子達のおかげである。そんな目で見ないでほしい。


「なぜ、と言われましても……珍しい植物を集めるのが好きでして。あと、この植物は虫を食べてくれるので、非常に助かっています」

「……そう、ですか」


 やや静かになった彼が、ふとサンルームの中を飛び交うあるものに目を付けた。

 白く光る鱗粉の軌跡を残しながら飛ぶ、日の光を受けて黄金色に煌めくの蝶。自然界ではまず見られない色の蝶は、ひらひらと頭上で舞っていた。


「これは……?」

「私の魔力で造った魔法生物です。植物の状態を把握するためにサンルーム内に放っています」


 5羽いる中の1羽を伸ばした人差し指の先に止まらせる。ゆっくりと羽を動かすそれを彼へ見せた。

 サンルームの中をくまなく飛び回り、異常があれば私へ知らせる役目を担わせている。殺傷能力はなく、ただ綺麗なだけ。


「触りますか?」

「えっ。いえ遠慮しときます。なんか俺が触れたら壊しそうなんで……」


 首を振った彼は眩しそうに目を細めながら明るいサンルームとその中を行き交う蝶を眺めていた。

 手に留まっていた1羽も放つと、ローズマリーの花に止まった。



「ほんと、凄いですね、この温室。温かいし色んな植物で溢れてる。こんな綺麗な蝶もいるし……レーツェルさんって凄く魔法の扱いが上手なんじゃ?」

「……そうですね。魔法を扱う人間の中では、比較的上手く使うことができると自負しています」


 生まれ持った素質と恵まれた環境によって、私は常人よりも魔力の扱い方が上手いのだと思う。事実、得意な魔法は繊細なコントロールを必要とするものが多い。魔法生物の創造などその最たるものと言えるだろう。


 近くにあったラベンダーの鉢植えの前にしゃがみ込みながら答えると彼は羨ましいな、と零した。


「俺魔力はあるんですけど、魔法の素質がなくって。使える魔法なんてちょっとした身体強化くらいですよ」

「……そうなのですね」


 魔法は素質と魔力が揃って始めて扱うことができる。どちらかが欠けていては、使えないのだ。

 しかし、素質がなくとも身体強化魔法は使えることがある。体内で魔力を循環させ、肉体を強化するそれは単純(シンプル)ながらも応用の利く魔法だ。


 ちなみに私は身体強化魔法はほぼ使わない。

 普通に魔法を使ったほうが簡単という身も蓋も無い理由があるのだけれど、それ以外にも一つ理由があった。

 元の肉体の筋力が無さ過ぎて、強化したところでたかが知れているのだ。……考えていて、少し悲しくなってきた。


「……身体強化魔法も極めれば魔法でもできないことが可能になりますよ。魔法の素質がないといっても、身体強化であればいくらでもやりようはありますから」

「そうなんですか?」

「ええ。例えば――」



 ガシャンッ!



「「??」」


 外から聞こえた何かが割れるような音に2人で首を傾げた。


「今のは――」


 ガシャンッ!!


「「…………」」


 立て続けに鳴った2つの音。そして僅かに聞こえる……


「……男の笑い声、ですかね」

「……そのようですね」









 早速、嫌がらせをされたらしい。

作中に出てきた食虫植物について。これらは学名で、和名は以下のとおりです。


ディオネア・マスシプラ    =ハエトリグサ

ネペンテス          =ウツボカズラ

ドロセラ・ロツンディフォリア =モウセンゴケ


どれも面白い生態をしているので、興味があれば調べてみて下さい。

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