脇役転生くんが俺の考えた最強のチート脇役の舞台を作る話
王都で最近流行の舞台がある。
小さな劇場で無名の劇団が始めたその舞台は噂が噂を呼び、ついには王都一の大劇場で公演されることになった。
貴族たちが織りなす恋や愛を唄う華麗な歌劇を興行していた大劇場が、平民の男を主人公とした泥臭い立身出世の大衆劇をやると言うのだ話題にならないわけがない。
大抵の流行というものは上から下に流れるものであったが、これはその逆、まさにその物語のように下剋上を成した異例の舞台である。貴族たちは平民の物語がいかほどのものかと品定めしてやろうと舞台へ足を運んだ。
せいぜい、まあ悪くはない程度のものであろうと高を括って。
さて、物語は平民の貧しい農村に暮らす男が村長の娘と恋仲になることから始まる。二人は結婚を望むが、貧しい農家の次男にすぎない男との結婚を村長が許すわけもなく、男は盗みを働いたと冤罪をかけられ村から追い出される。
殴られ、蹴られ、引きずられて村を追放される男に追い縋る娘、きっと罪を晴らして迎えにくると叫ぶ男。
悲哀に満ちた娘の歌が舞台に響く。
罪人となった男は囚人兵としてろくな装備も持たされず国境線の紛争地帯へと送られる。
へっぴり腰から徐々に成長していき一端の兵士に見えるようになった頃、ふと故郷の女を想って恋歌を口ずさむ。
それをたまたま聞いた国境砦の主が男の身の上話を聞く。
いつか冤罪を晴らし女を迎えに行くのだという男に主は頷いて励めよと肩を叩いた。
そして敵国の突然の夜襲。
豪壮かつ華麗な剣舞が舞台の上で繰り広げられる。
男が国境砦の主を守らんとその身に傷を負いながら駆け参じる。主は敵将の剣を受けながら男に敵の首を獲れ! と命じ、男は命じられるままに剣を振るった。
討ち取ったり! 討ち取ったり! 男たちの勝鬨が響き主が男の肩を抱き、お前が一番手柄だと褒め称える。
一番手柄を得た男は恩赦が与えられ、多額の褒賞とともに故郷に帰って来る。村では驚いたことに村長が罪を捏造して村人を陥れたとして村長の座から下され村から追放されていた。
娘は男を信じて肩身の狭い思いをしながら村でひっそりと暮らしていた。
再会した二人はお互いを強く抱きしめ合い、愛の歌が高らかに歌い上げられる。そして二人の姿が舞台袖に消えた後、国境砦の主とその部下たちが静かに舞台に佇む。
ご自分で討てた敵将を譲るなど、本当によろしかったので? と尋ねる部下に、あれもまた我らが守るべき民、と答える主。
我らがここで守るべきはただの国境線に在らず、我らが守るは民の命、営み、子へと続く未来。
幸いあれ、我が祖国よ。
部下達が一糸乱れぬ敬礼をする中、主はマントを翻し舞台から去る。
祖国を讃え、子らの未来への祈りを込めた男達の力強い歌声が響く中、緞帳は静かに降りていった。
「え、一番顔とガタイの良いやつを脇役にするんですか?」
「そう、主人公なんて誰でもいいよ、娘役も顔が良ければ」
ナダルニア侯爵家のエドアルドくんは最近骨を折ってお家で療養中で暇を持て余していた。
フラフラしすぎだと怒られてお家に軟禁状態だったが暇すぎて家を抜け出したところで川で身投げ寸前の中年男を見つけた。
面白そうなので乗っていた馬車に引き摺り込み、人攫いだーと叫ばれる直前で天使の笑顔で黙らせる。
今年二十歳になるエドアルドくん、ちょっと引くくらいビビる美貌の天使ちゃんだったので。
話を聞くと、男は小さな劇団の団長で、普段は王都の下町や近隣の村で芝居小屋を立ててドサ回りをしてるらしい。これ知ってるぞ、売春婦と役者兼業してる移動娼館だな。とエドアルドくんは賢いので察しました。中世農村よくあるよくある。
そんでまあ、看板役者がうっかり役人の奥方のお相手をしてしまい旦那にバレて逃げ出したと。
しかも奥方も一緒に逃げたらしく、お役人様はカンカンで興行許可が取り消されてしまった。
役者だけでも10人、裏方や子供を含めれば20人にもなる大所帯をこれからどう食わしていけばいいのかと頭を抱えていたということだ。
「ふうん、お前ら、演技に自信はあるの?」
「自慢じゃねえですけど、うちはここらじゃ一番の実力ですぜ。きちんとしたパトロンさえついたら王都の大劇場でだって満杯にしてやりますよ」
中年の小男は自らも舞台に立つのであろう朗々とした声で言い切った。
いいねいいね、とエドアルドくんは思った。異世界に生まれ変わって二十年、チート様がチートすぎるせいであんまり異世界チートできる気がしなかったけれど、これは現代エンタメチートの出番では? とウキウキである。
エドアルドくんはニヤニヤしながら中年男を拾い上げ、エンタメチートをすることを決めた。
パッパに内緒で所有してる下町の倉庫に劇団員を引き入れ、エドアルドくんの美貌にドンびく劇団員たちに俺がパトロンだから売春は禁止、やりたきゃ出てってと通告してやりたい放題した。
「俺は舞台が見たいの、お前らの客見世なんか興味ねえんだわ」
ただ残念ながらエドアルドくんの前世は舞台演劇にまっったく詳しくなかった。
唯一見た舞台は従姉妹に頼まれてチケット抽選に参加した2.5次元舞台だった。刀が人になって歴史を遡るミュージカルである。チケットは本人確認が必要だからと従姉妹に連れてかれたが金は全部出してくれたので文句はない。事前知識なしに行ったが歴史上の有名人も出てきて面白かった。つか、思い入れのないキャラクター達より歴史人物の方が親近感持てたし、カッコよかったです。
つまり、エドアルドくんは主人公よりカッコいい脇役ムーブがやってみたかったのである。
脚本担当くんときゃっきゃっうふふしながら俺の考えた最強の脇役を作った。
「お名前出さないでいいんですか?」
「え、勝手に名前出しちゃダメじゃん?」
エドアルドくんはコンプライアンスのしっかりしている前世持ちなのでキャラのモチーフは匂わす程度でお願いした。
「結構ありますよ、地方行くと自分とか先祖が主人公の舞台をやってくれとか」
自伝とか自画像のノリかな???エドアルドくんにはちょっとわからぬけれど、とりあえず本人の了承なしだからやめとこ? ということになった。
戦闘シーンの殺陣はこだわった。全員自宅の騎士団の訓練に突っ込んだ。殺す気かと言われたが知らんので。エドアルドくんも普段やってる訓練だし、できないことはないやろ。
おかげで他ではない集団剣舞が完成した。これだけでも客が入ると団長はホクホクしていたが、エドアルドくんの求めるものはさらなる高みなのだ。
看板役者が抜けた劇団で二番手を務めていた顔のいい役者に延々とチート様の話を聞かせた。お前が完璧に演じられるわけがないのは分かっている、だが近づく努力をしろ。役者は毎夜魘されもう勘弁してくれと泣いて頼んだ。勘弁はされなかったので、のちに彼はチート様と直に見えたさいチート様を神と呼んだ。目が虚空を見ていたとチート様が語っていたが、エドアルドくんにはさっぱり分からぬ。
出来上がった舞台はそれまでとは一線を画す斬新なものとなった。歌劇の世界に2.5次元舞台をぶち込んだごっちゃ煮なのだからそれはそうなるだろう。
しかし、ウケた。それまで貴族中心の恋だの愛だの、不倫だのネットリしたテーマを回りくどいセリフで歌っていた歌劇界隈に突如現れた分かりやすいストーリーにかっこいい戦闘シーン、努力と勝利とハッピーエンド、そしてカッコいい脇役! 受けないわけがなかった。
エドアルドくんは深く頷いた。
せやろ、せやろ。背中で語る男、かっこいいやろ。
「名前伏せたの、逆に良かったですね。自分で察するってある種の快感があるのでラストのシーン見たさに何度も見てくれるみたいですよ」
脚本担当くんも後方腕組み彼氏面で頷いてくれた。
おー、友よ。握手しといた。
舞台は流行りに流行った。別に売上目的じゃないけどエドアルドくんの懐も潤った。パッパに内緒でやってる商会の会頭が、お前療養中に何やってんだ! と飛び蹴りかます勢いで突っ込んできたが華麗にかわして舞台のグッズを販売させた。似姿ブロマイドに挿絵をつけた脚本、キャラクター刺繍ハンカチとか適当に前世で見かけたグッズを並び上げて出来そうなやつを作らせた。とっても売れた。
劇団は役者希望も増えて人数は倍になり団長の小男は毎日が目の回る忙しさでくるくると走り回り、脚本担当はそろそろ次の舞台考えません? と目を爛々と輝かせた。
王都では舞台の流行とともに国境を守るエルトリート大公ヴェルリッドの名が高まり、人々の尊敬を集めると同時に熱狂的な信者を生み出していた。
正直、エドアルドくんは大変満足してしまったので次とか好きにしてもらっていいんだけど、脚本担当くんと酒を飲みながらグダっているうちに男装した少女が兵士として国境砦に配属され主の側近と恋仲になるラブコメの案がいつの間にかまとまっていた。やだ、酒の勢いって怖い。
もちろんチート様はちゃんとカッコいい脇役として登場する約束はしていたので安心した。チート様さえカッコよければあとは任せるぞ、友よ!
余は満足である。
と、調子こいてたらパッパに捕まった。
すんごい表情してた。
「王都にいれば大人しくなるかと思ったら! こそこそこそこそとお前は全く!!!」
ごめんねパッパ、でも暇だったんだよ。チート様のいる国境沿いと違って、ここは退屈すぎる。
ため息をついてパッパは言った。
「結婚しろ、エドアルド。侯爵家を継いでお前がナダルニアの家を背負うのだ。お前には重しが必要だ」
わーお、パッパがすごいこと言い出したよ。
目を丸くしたエドアルドくんは思いました。
今生はまだ童貞なので優しいお姉様タイプが希望です。
戦場で寝ぼけて馬から落ちて王都に戻ってきて半年経った頃のことでした。
カクヨムさんのサポーター限定近況ノートからの公開です。




