母
四人の女性目線で書く予定。
今回は母の章。
いきなりポンコツパッパのザマァからスタート。
黒煙を伴った火柱があがっている。
黒煙は燃やすにあたって油を撒いたからだと思うわ。
忌まわしいものは燃やし尽くさないと…
隣で母もやりきった表情をしている。
何を燃やしたかって?
父のポロの道具や趣味の盆栽。
私は父の盆栽を褒めた人の息子に嫁がされた。
義母、義妹となる人からいびり倒されこの家に戻った持参金は義妹が使い果たし戻って来なかったわ。
ちなみに書類だけの婚姻で式は私には贅沢なんですって。
ボロ雑巾のように扱われ食事がないこともあったわね。
夫がいる時は食事を分けてもらえたけど忙しい人で側に居てくれる時間は短かった。
産んだ双子の姉妹のうち次女は連れて帰れたが長女は返してもらえなかった。
せめて次女は責任もって私が幸せにしようと思っていたがこのポンコツはポロの試合で意気投合した仲間に次女を嫁がせる約束をした。
今日の夏至祭で父が取り付けた娘の婚約が破棄される計画を知り先回りして先方にも情報共有しておいた。
平民の娘が良いならそちら有責で破棄しましょうと。
あちらの御夫婦は顔を真っ青にしていたわ。
私は足元に縋り付く父の頭髪に手を伸ばし引き毟ると剥がしたカツラを燃え盛る焔に焚べた。
嗚呼…と悲痛な音が聞こえたが気にしない。
カツラが無くなりダチョウの頭部を思わせる淋しい毛髪が熱風で揺れている。
焔に照らされた父の顔には母が扇で殴った跡がくっきりと残されていた。
離縁した家で義母から扇でよく殴られたが私もあんな感じだったのかしら…
『女ばかり2人も要らないのよ!!』
爆ぜる焔に混ざり義母の声を思い出した。
双子の娘を庇い背中には無数の消えない傷が残り文字通り傷物になってしまったけど同時に娘を守った勲章でもある。
焔の中で何かが爆ぜ強い熱風が髪を撫でるように吹く。
別れた夫も大きな手で髪を撫でてくれた。
『よく頑張ったね。』
顔をクシャクシャにして夫は娘の誕生を喜んでくれた。
男女など関係ない、2人の子供だから愛おしい。
夫の言葉があったから何があっても胸を張って生きてきた。
死に物狂いで働いて商会も軌道に乗った、夫と暮らした隣国にも出店の話が出るくらいに…
…エントランスが騒がしくなった。
夏至祭で娘の婚約者がやらかしたら速やかに娘を連れ帰るよう侍女に指示していたことを思い出した。
娘の静養を理由に何処か静かな所に行こうかしら?
あらやだ、煤が…
エントランスに迎え行こうとして姿見に映る自分が煤けている事に気付いた。
流石に着替える時間はないので払える部分だけでも…
姿見に近寄ろうとしたはずだった。
ぐるりと風景が回転して懐かしい香りがした。
…ああ、あの人のヘアオイルの香りだ。
もう、泣かないと決めていたのに涙が溢れてきた。
「…どうして。」
彼の腕の中で尋ねた。
「待たせてすまなかった、後片付けに時間が掛かって。」
贅沢好きな義妹は南方の離宮に12番目の側妃として入った、物理的な距離だけでなく離宮に入ると身内の慶弔でも出して貰えないらしい。
義母は悪夢に魘されながら原因不明の衰弱死をしたそうだ。
フッ…と身体が自由になると目の前に彼が跪いていた。
「君と家族をやり直したい。」
私の瞳の色の石を彼の瞳の色をした石が囲むデザインの指輪を恭しく差し出した。
手が震える。
諦めていた私の運命…
次回は多分…ホラー回。