98 決闘
事前連絡があり、決闘場所は領主の屋敷内にある練兵場だ、ここは領主お抱えの兵士達が、剣や弓の稽古、様々な修練をする所だった。
男爵として多いのか、少ないのか知らないが、30人程の兵士が連なっている、有事の際は出動する事もあるそうだが、僕は、見たことも聞いたこともない。
一度領主に呼ばれた時はそのまま館の中に案内されたので、ここは見ていなかった、へぇ~とキョロキョロしながら兵士の修練を見つつ奥へと進む。
此処には、当事者のクリスとアニー以外にリーネを抜いた3人で来ている、手伝った二人と決闘を取り仕切ると約束したダルク当人だ、邪険にされることはないだろう、勿論フウタ達精霊は付いて来ている。
「止まれ」
声が掛かったので足を止めた、厳つい髭面のおじさんが手を前に出している、ここ迄見た兵士の中で形状の違う真っ黒な革の鎧を着ていた、右肩には木の精霊が付いている、何気に宿で女性に付いてたのを見たきり、木の精霊が人に付いてるのを見るのは初かも知れない。
兵士の中でも偉い人なのだろうと勝手にそう決めた。
「ブリッツ様はまだ来ていない、婚約者のアニー様と横恋慕のクリス、そしてダルク殿の一家だな?」
横恋慕とは中々だなぁ、順番的には寧ろブリッツが後なんだけど、自分の雇用主にそう言われれば従うしかないか、クリス本人はまるで気にしてない様子だ。
ダルクが代表して声を上げた。
「当事者と、私の家族です、決闘を取り仕切る約束をしたので来ました、連れてきた者を帰せとは言いませんねよ?」
「邪魔をしないのであれば、問題なかろう。」
そうやり取りして、ブリッツが着くのを待った。
暫くしてブリッツがやって来る、僕とダルクの顔を見つけて一瞬ゲッと言うような苦い顔をしたが覚悟は決まっているのだろう、顔付きが変わったのは一瞬だった。
しかし、決闘だというのにヒラヒラとした派手な格好をしている、そんなので戦うつもりなのか?アホなのか?と思っていた。
ブリッツが上座と言える偉そうな兵士の横に立ち声を上げた。
「ヨシ、決闘を開始する、相手をするのはこのバークレーだ!」
「はいー?」「え?」「むっ?」「なに?」「何じゃけー?」
クリスやアニーを含めた一同5人は揃って声を出した。
どうやら代理決闘と言われる貴族間では普通の事であるという説明を、バークレー当人から教わった。
万が一怪我をした、させたでは済まない事が多い貴族間では正式な決闘方法で使われるという。
正式な決闘方法だと言われると断れない、成る程、自信満々に決闘を受けた裏には、こういった目論見があったのね、流石領主の息子中々腹黒いじゃないか!
「バークレー・パルナだ、サンジェル家の兵士長をしている」
簡単な自己紹介を済ませたバークレー兵士長をマジマジと見る、無理だな、クリスではまだ勝てないだろう、年季が入ってそうな防具は真っ黒で他の兵士達とは形状も違うが機能性も良さそうに見える。
風格というのか?立っているだけでも隙が無さそうに思えた、この人が万引きGメンだったら誰も万引きしないだろうね、クリスだったら目を盗んでやられそう。
素人目にもこの位の差があると読めた。
ダルクが声を上げた。
「すまないが、代理決闘とは思っていなかった、少しでいい、時間をくれないか?」
直前になって伝えた埋め合わせや、負ける事は無いと余裕もあるのだろう、10分待つから用意が出来たらあそこまで来い、と指を差された先には広い空間といつの間にか兵士が集まっていた。




