8 それはそれとして
重雄はゆっくり溶かされている自分自身だったものと、そこに覆い被さっているスライムを見ていた。
見なきゃいけない義務は無いし、そこに思惑も無いがこの後どうすればいいか分からない。
スライムは此方には興味も無いと言うよりは見えてもないようだ。
足元に居るスライムを触ってみると、此方は触れることが出来るみたいだ、溶ける気配もない。
スライムは触られてる事に気付いてる様子もなくせっせと重雄だったものを溶かしている。
よく分からないが生きてるものなら触れるのかな?先程死んだ自分を触れない事と合わせて考えてみる、だが地面に足はついてるな。
スライム相手にパンチもしてみたが、感覚的には壁を殴っている感じに近いかも。
引っ張ろうとしてみたが、触れる事は出来ても掴めない感じだ。
軽いからか?蟻が人間引っ張ろうとしても無理だよな。
何故か自問自答で納得してしまった、流石に死後の世界の先人の教え等聞いたことが無いから全てが手探りだ、他に気になる事もある。
お迎えとか無いのかな?大輝と光輝は無事家に帰れたのかな?何処にも答えなんてないからジーッとスライムと自分自身だった者の溶けていく様子を興味深く見ていた。
スライムの元々の大きさは1メートルもないだろう、なんというか薄く伸ばして全身に覆い被さっている感じだ。
透明って感じではないな少し白濁してる、更に血を吸ったというのか吸収したというのか、所々赤黒く変色しているようだ。
クラゲが陸に上がって自由に動き回れたらこんな感じなのかもな、釣り好きな重雄が、海で魚釣りをしてた頃見ていたクラゲを思い出しながら思いふけっていた。
体感的には1時間やそこらで重雄だったものを食い尽くしたスライムは、赤黒く染めた身体を大きく震わせ始めた。
身体も来た頃よりも二回り程大きくなっていたそれは、波打つ様に振動すると二つに分かれて別々な方向に動き出した。
「分裂で数を増やすのか、目と言うか玉のようなものが二つに分かれていたな、アメーバみたいなもんか?」
それはそれとして未だにお迎えが来ない、元は重雄だったものもスライムに食い尽くされて原型も無い。
地縛霊とかになるとひょっとしたら一歩も動けないかも知れない、恐る恐る足を動かすと移動は出来るようだ。
多少ホッとしつつも今の自分がすべき事が分からないので、手を伸ばしたりジャンプしてみる。
カテゴリー的には浮遊霊ってやつか?ジャンプしても宙を舞うことは出来なそうだ。
浮遊霊が浮遊出来ないって意味不明だなぁ。
やり方を知らないだけで本来は浮遊出来るのかも知れないなと考え直す、結構長い時間飲物も食事もしてないが食欲とかは無さそうだ。
排泄や睡眠だって要らないだろう、取り敢えず霊体の重雄に訪れる危険は多くはなさそうに思えた。
そこまで考えたらここでじっとしてる必要は無さそうだ。
多趣味なおかげか行動力のある重雄は二匹のスライムが選ばなかった方向に向かって歩き出した。