62 バリンの失墜2
エリンが番頭と話しながら、魚を見ていた。
査定を済ませたエリンが一時的な明細書を持ってテーブルの上に置く。
ヨウジさんが手にとって明細書を見る、エリンが取引相手だった頃の取引価格よりも少し高かった。
ダルクもそれを見せてもらうと首を横に振る。
エリンさんが話し出す。
「早まるでない、魚は別だがこの先3年間はその金額の3倍出そう」
一同はギョッとして顔を見合わせた。
魚は別と言われたヒデさんだけ肩を落としているが。
エリンは続けてこう聞いてきた。
「魚はもっと新鮮な物は手に入るのか?」
ヒデさんは頷いてるがダルクは少し考えた。
暫く考えた後、ジュリオが週に1回とかなら良いよと言ってたのを思い出してエリンに伝える。
「塩、大麦、魚を一気に運ばず3等分に分けて回数を増やすとかならどうですか?」
エリンさんが話を詰めてくる。
「品物の分配方法は問題無いが、魚の鮮度を保ちたいのじゃが、移動は山の麓を経由しなければならんのか?」
んーとダルクは考える、ジュリオが見られる訳ではないが、誰も居ない台車が空を飛んでるのだ、それを見られて大事にならない訳がない。
「条件次第では可能な話ですがどうなされるつもりですか?」
ダルクは自分だけでの解決は厳しいと思ったのでエリンに主導権を譲った。
エリンは何、簡単な事じゃと説明する。
「この商店の側に開いてる土地があるそこに台車の離着陸出来る場所を造り、飛んで来る台車は新しく手に入れた魔導具じゃと大々的に宣伝してしまえばいい、一度そんなものかと聞けば段々慣れてくるものじゃ、台車も此方で用意しよう」
簡単な話だと言うこの人には勝てないなとダルクは思った。
「それにな、まだ読めない所はあるが、新鮮な魚はそのうち必ず定着するぞ?」
3年間の赤字買い取りの穴埋めに考えているようだ、抜かり無い、ヒデさんもこの言葉に顔を晴れさせた。
そして、最後にと付け加える。
「バリン・ガイナンはワシとの親子の縁を切り、うちの商店から追放させよう…」
非常とも言える言葉を言い放ったエリンだったが全員が納得した、するしか無かった。
商店を後にしたヨウジ達は見たことも無い金額の入った革袋を大事そうに抱えていたが手がブルブルと震えている。
なんせエリンと取引してた時の金額より多いのに、更に3倍を手にしているのだから。
一度の取引でここ最近の1年間以上の売り上げだった。
空になった台車はダルクが引いている、一度家に帰ってエリンが切り出した話を纏めようと皆でダルクの家に戻っていた。
ダルク一家も全員話に加わった。
ダルクはコッソリジュリオを呼び週に一度行けるか?と確認を取る、更に話が終わったら3人を送れるかも聞いた。
フウタを見るとダイジョーVをしているので頷く。
ダルクがそれでは、と纏める。
「まず台車の移動は週に1回月曜日にしますが離着陸場が出来てからの話です、それ迄は無しとします、出来たら連絡をする様に伝えてあるので台車がモンベルに着くまで待って下さい」
口出し出来ない3名は黙って頷く。
「また塩や大麦、魚は一度に全部積まないで4回に分けて積みましょうか、隙間は埋めても問題ありません」
ガンジもそうだが一番多いのは漁師だ、モンベルで捕れる物は魚が一番多い。
「次にヨウジさんは人魚のニアに読み書きと計算を教えてやって下さい」
ヨウジさんは驚いたが自分もかなりの歳だ、成る程と納得する、何かあっては困るのだ。
「運賃は今迄と一緒の金貨2枚で良いですか?」
3人は頷く月に1回だったものが週に1回になるのだから実質4倍だ断る理由もない。
「それでは月の終わりに金貨2枚を精霊に渡して下さい、最後になりますが風の精霊が帰りは送ってくれるそうですよ」
と伝えたら3人共大喜びをしていた。
ヨウジから読み書きを教わる事になったニアが
「ダルクのヒトデナシ!」
誰も居ない空にヒトデをぶん投げていた。




