56 もう残念とは言わせない!?
「殺風景じゃろ?この部屋、何もないけ」
そう言って部屋の隅々に目を置くガンジは悲しそうに話し出した。
「モンベルには少量の魚と塩しか外に売り出す物がないけ、魚が捕れても塩漬けにした保存が効く魚しか出せないけ」
確かに海に着くまで会った村人も皆ボロボロの服だった。
「その上ここは近くに街も無いけ、少ない若者も街へ出て行ってしまうけぇ」
セリーヌの方をチラっと見てガンジは言う。
魚は捕れても保存が効く魚しか売れない、殆ど塩だけで生活していた。
「大麦を植えてる畑は南にあるけ、捕った魚は殆ど物々交換に使うけ」
50軒程の漁村内だけで流通のサイクルをほぼ行っているということだった。
魚は売る程捕れても売る場所がない、ブラウゼアの街まで大人でも2日かかる距離だがそれも山を越えたルートでだ。
行商人が通れるルートだと荷馬車でも同じで片道2日かかるという、流石に保存が効かない魚はダメになる。
そこに雲を掴むような話が出てきたのだ、自分の孫が空を飛べると、更に自身より遥かに重い父親や母親を担いで飛び、ここから遠いブラウゼアより遠くの山の麓まで2時間もかからないというのだ。
まだたったの5歳児の僕だ当然目立たせたくないというセリーヌとダルクの気持ちは分かるが、どうにもクリア出来ない問題を一足飛びでクリア出来るチャンスをガンジは逃したくなかった。
このままではモンベルの漁村はその内廃村になる、生まれ育った美しい海を、村を簡単に潰す訳にはいかない。
ジュリオは考える、正直いつでも魚が食べられるのは大きいし何も気にせず飛ぶなら来た時よりも早く来れるしガンジ爺さんも助けられるならWin-Winだ。
最初に部屋に入った時に殺風景と感じたのは何も買えないから、買う機会すらないと言うべきか?すれ違った村人だってボロボロの服を着ていた。
僕自身は全然受けても良いと思っているが問題は両親だ、話は両親に振るのが良いだろうと判断した。
「お父さん、お母さんどう思う?」
二人共押し黙って何か考えている、五分程沈黙が流れただろうか。
口を開いたのはダルクだった。
「5歳児に村を救ってくれと言う話ならかなり厳しいと言わざるを得ないです」
ガンジは肩を落として床を見る。
「ですが、実験的に交易をしてみるというのならどうでしょうか?勿論ジュリオ次第になりますが」
こういう決断は本当に頼りになる男だダルクは、落とし所としては一番無難で、ガンジの面目を潰す事も無い提案をした。
ガンジがガバっと顔を上げジュリオを見据える。
「僕は別に良いけど?週に1回とかなら」
「まだです、まだ問題は残っています」
ダルクがピシャリと続けた。
「一つ目はモンベルの村人にどう説明するのか、ジュリオが荷物を持って飛べるのを言わなければならないのか?それならば何人に言えば良いのか?その人達は信用出来るのか?」
それと今度は此方の話ですがと続ける。
「飛んで運んだ交易品をどうやって、誰に売るかです、アテは有りますが…。」
アテはエリンさんだろう、話の途中で黙ったのは間違い無く僕の事を伝えなければならないから。
また長い沈黙が続いた、各自色々思案しているが良い案が出ないのだ。
沈黙を破ったのは他でもないニアだった。
「人って変な生き物よね〜そんな能力があって皆が喜ぶなら使えば良いじゃない」
この残念人魚は人の世界も問題や葛藤とかも分からないから簡単に言うのだろう。
「ジュリオだと困るって言うんだったら、人魚の私が精霊に頼んだ事にするとか?」
ハハッ目から鱗とはこの事か?ニアは尾ビレが鱗だけど!
残念人魚が起死回生の逆転満塁本塁打を撃ち出した瞬間だった。




