5 対峙
タケノコの全体が見えたのでタケノコを掘れている手前の方向にぐっと押すとポロリと土の中から外れた。
「やったぜぇ三下じぃじスゲェ〜」
今度は設定を忘れてないようだ。
面目が立ったと言うか、目算が合ったと言うか。
都合上晩飯のオカズが一口分増えそうな事に満足して、頭である光輝にへへへっと笑う。
下っ端らしい口調と愛想笑いを忘れないのは自分でも中々の役者じゃないか?と思う。
「三下=12が二倍二倍の24!」
光輝はご機嫌で三の段モドキに追加の言葉が増えている。
頭である光輝にタケノコーンを献上すると先に獲ったタケノコーンと大きさを比べて
「こっちの方が小さいなぁ」
とか愚痴っている。
光輝と会話している間一言も喋らない大輝がふと気になった。
顔と視線を上げ大輝を見ると目を見開き口から
「あっ あっ」
声が小さく漏れていた。
何事かと後ろを振り向くと
【猪だ!】それもかなり巨大だ!?
まずい、まだ距離は多少あるが目算では5メートル程度しかない。
手を伸ばし光輝を引き寄せる、光輝も何事かと後ろを見て巨大猪に気付き、ヒッと声を漏らす。
ここで曾孫達を怪我させる訳にはいかない!頭の中で警鐘が鳴る巨大猪は鼻を土にあてフゴフゴ鳴いている。
何か違う、肌の色が変だ、一般的な猪とは見た目が違う気がする。
ライフハックの動画で見た気がすると瞬間的に思い出したこいつは【イノブタだ!】
凶暴で人に恐れを抱かない、向かってくると農家の親父さんが話していたのをへぇ〜怖いなと見ていた。
猟友会の動画を見てると野生の猪は人が近付くと一目散に逃げるか藪の中に逃げる場面ばかりだ。
今年は雨が降らず寒かったのもあり、タケノコもそうだが山の幸も少なく腹が減っているのだろう。
光輝を少し上に登らせるように促すが、両手に持ったタケノコが邪魔をして上手く登れない、手に力が入っているのか棄てる事も出来ない様だ。
後ろに居る大輝の事も気になるが目の前にいるイノブタから目が離せない。
イノブタは相変わらずフゴフゴ鳴きながら土の中を探っている。
と、気付いてしまった 匂いを 発信元の匂いを、光輝の持っているタケノコの匂いを。
猪の嗅覚は犬並みかそれ以上だとライフハックから学んでいる、それがイノブタならどうなのか分からないがそんなに大きく違わないだろう。
イノブタの目が此方を、正しくは光輝の持っているタケノコを射抜く。
【コラァァァ!!】
熊を怒声で叱りつけ下がらせていた、同じ年寄りである動画で見た親父さんの事を思い出し重雄は大声を張り上げた。
不幸は続く 何と、驚いた光輝が少しだけ登った斜面から滑り落ちてしまった·······。




