4 帰路の途中
「あぁそうだった、実は一握りの秘宝を手に入れたんだった。」
思い出したかのようにポケットに手を突っ込みゴソゴソすると二人が興味深そうに見てくる。
「じゃ~ん 秘宝タケノコーンだぞ!」
「うおぉぉぉスゲェ流石じいちゃん」
「これが秘宝タケノコーンか!?」
二人ともノリが良い。軍隊遊びはどうも終わったようだ。
「ねぇじぃじタケノコーン僕が持ってても良い?」
光輝がそう言うと大輝が反論をする。
「光輝が持ったら落とすかも知れないし重くなって荷物になるし大変だし俺が持つよ」
すかさず光輝が返す
「大輝兄ちゃんさっき隊長やったから次は僕の番なの!ズルいじゃん」
中々弟に甘い大輝はそう言われるとそれ以上何も言えなくなるがちっさい声で
「ぐぬぬっタケノコーンがっ」
とか言ってる可愛い。
山頂でお弁当も食べたしそろそろ帰ろうかと促すと二人共片付けを始めた。
アルミホイルを余っているビニール袋に入れてリュックに仕舞うと
「ゴミ無しヨシ!」「ヨシ!」
と、何処かの工場でやってる指差呼称みたいな事やって確認している 偉い、いや凄く偉い、してるフリじゃないのが立派。
だってベンチの下まで覗いてるもの。
「んじゃ降りようか」
「僕が頭ね!」光輝が言う。
頭か······。ワンページの盗賊にでもなった気分かな?
「タケノコーンも頭もだなんてズルいぞぐぬぬっ」
大輝が愚痴る 可愛い
帰り道左手に先程の竹藪が見えてくる。
さっきはチラっと見た程度だからまだ残っているかも知れない、というかまだあるだろう、スマホを取り出して時間を見ると13時を少し回った所だった。
1時間程度では暗くもならない内に帰れるだろうと判断したので大輝と光輝頭にタケノコをもう少し探そうか聞いてみる。
二人揃って「探したい!」だったので両手を空にしてから付いてきてもらう、多少急斜面だからね。
先程石で掘った辺りに着いたのでこんな形で今探しても見つからないんだから先っちょが出てても1〜2センチ程度だと話すと二人共驚いていた。
大輝も光輝も目を皿の様にして一生懸命探している、そんな二人の様子を見ていたため足元がお留守になり躓いてしまった。
先程リュックから出したスマホがポトリと落ちると近くにいた大輝が拾ってくれていた。
「じいちゃんはいこれ!」
尻もちついている重雄に大輝がスマホを渡そうとするが、立ち上がろうとして地面に着いた左手の掌に違和感を感じる、硬いと言っても少し弾力がある。
視線を落とし左手を上げ地面の一部と化した落ち葉を払い除けると1センチ程度のタケノコの頭が見えた。
「怪我の功名というやつかな」
「じいちゃん怪我したの?」
大輝が心配そうに聞いてくるので怪我はしてないと伝えるとホッとした顔で「良かった〜」と言ってくれた 可愛い
もう一人の可愛い頭はどこ行った?と思った矢先に
「じぃじ大丈夫〜?」
後ろから声が聞こえて近付いてくる。
「すいませんです頭、だがしかしタケノコーンを発見しやしたぜ!」
と伝えると設定を思い出したかの様に
「でかした三下!」
喜んでくれた。
三下って·······中々酷いなと思いつつもへへへっと笑いながら胸を張る。
こんな言葉を何処で覚えてくるのかって、そりゃ大人気漫画のワンページで主人公の頭が名前もないような敵役のモブABCに放つ言葉からだろう。
「三下これどうすんの?」
光輝頭からの質問にモブ役の重雄は三下って凄く言われ慣れないなと苦笑しつつも曾孫との設定を楽しみつつ
「へい、普段は鍬など使って掘るんですが、今回は持って来てませんし小さいのでそこらにある石を使って掘りますぜ」
と返す
「お〜そうなのか頑張ってねじぃじ」
せっかくの頭の設定を簡単にポイっと捨ててしまうような発言をする光輝 超可愛い
せっかくの設定なので
「じぃじではなく三下ですよ」
と伝えるとまた思い出したかのように
「あ〜そうだった」
笑って頷く光輝
そんなやり取りをしている間に大輝が平べったい石を拾って持って来てくれた。
「三下じいちゃん〜石」
お前が言うんかい!と苦笑しつつも有難うと受け取る。
タケノコの周りを石で掘りながら頭で年老いた三下を思い浮かべてみる。
いやぁ·······中々酷いな、想像の中の年老いた三下は今にも倒れそうだ。
横目で光輝を見れば
3☓3=9 三下=12 3☓5=15と呟いている
何時から三の段に三下が加わったのか·····
「何それ馬鹿だなぁ面白いじゃん」
大輝が大笑いしていると嬉しいのか先程より大きい声で光輝が
「三下=12!」
三の段モドキを復唱する。
曾孫達とこうやって楽しめる時間は後どれくらい残っているのか。
先程採れたタケノコよりも、一回り小さいタケノコの全体が見える所まで掘っている皺だらけの右手を見れば、今日明日って事は無いだろうが一年先、二年先どうなっているか分からない。
長寿大国日本に産まれたとしてもきっと平均よりは長生きしているだろう。
「神様もうちょっとだけお願いしますね」
あくまでも一般的な枠の部類に入るであろう信心深いとは言えない重雄だが、今度来る時は山の麓にある小さいお堂に何か供え物の一つでも持って来ようと考えていた。