38 ショートボウを手に入れた
ドアが開きリチャードが顔を見せる、目の前にいる小さい男の子に気付くと
「ジュリオどうした?こんな夜に」
「こんばんは、リチャードさん使ってないショートボウってまだ持ってますか?」
サクッと本題を話すと家の奥に戻りガサガサ漁ってから戻って来る。
「ほら、これか?欲しいのか?」
感が良いこの若い男はホイッとショートボウを投げて渡すと
「水がもう無いからな?」
ニヤリと笑ってドアを閉めた、対価に水をくれと言ってるのだ、明日お姉ちゃんにお願いするか。
待っていた時間も含めて5分もかからず家に戻って来ると晩御飯が出来ていた。
何故か食卓に着く前に呼ばれてセリーヌの前に正座している。
「なんでリーネが浮いてるの?」
ふわふわ浮いてるリーネを見て驚き過ぎて皿を落としたらしい、木の皿だから割れなかったが。
ジュリオが風の精霊様を付けてくれて教わったとリーネからは聞いているようだけど、実際は少し違う。
「元々の親和性が無くても人付きに興味を持っていた風の精霊様が、飛びたがってたリーネを気に入って付いたって事?」
わざわざフウタが連れてきたとは伝えて無いが、90点以上の答えをだしたセリーヌに頷く。
眉唾物の話と思っていたものを立て続けに何度も見たのだからそりゃ驚きもする。
別に怒ってる訳ではなかったセリーヌは自発的に正座したジュリオを立ち上がらせると食卓に座らせた。
冒険者だった頃に魔法を一つでも使えれば一廉の冒険者以上に扱われてた世界を知っているセリーヌはそれが良い事であっても戸惑っていたが幾分か落ち着いて
「さあ冷めない内に食べちゃいましょう」
と言って食卓に着いた。
うちの食卓には肉が並ぶ事の方が多いが、今日のメインはジャガイモといつも通りのオートミールな粥だ。
肉をこれだけ食べれる家庭は普通無いと聞いている、他の家の食卓事情は殆ど知らないが、これだけでもお父さんと結婚した価値があると普段からセリーヌが話すから間違いないのだろう。
まだ街から近ければそれ程問題はなかったかも知れないがそこそこ距離があるのだ、冷蔵庫なんて当然無いので獣が捕れても運ぶのが難しい。
塩漬けにして卸す事もあるが塩自体が高価だ、労力の割にそこまでの利益がないのでだったら食べちゃおうという方針だった。
「お母さん、台車って手に入らないかな?」
セリーヌも考えた事はある、台車があれば獣をそのまま運ぶ事も可能ではないかと、そうした方が利益は断然高いのだが、それを運ぶ労力が無かった。
「台車はトーマスさんに頼めば何とかなるかも知れないけど、獲物を運ぶのは流石にちょっと重過ぎて無理よね」
山の麓とはいえ平地ではない、当然上り坂になっている、重い獣を乗せた台車なんて普通なら引けないし降るのも危ない。
「だからさ〜重くなければいいんでしょ?」
ハッと気付く、この息子は他人ですら飛ばす事が出来るのだ、獣を浮かす事も難なくこなすだろう。
まじまじと才覚のある息子の顔を見て
「台車があったら手伝ってくれる?」
息子は手を握り親指を立ててウンウンと頷いていた。
朝を迎えるとリーネを連れてリチャードさんの家を訪ね水瓶いっぱいに水を張って帰った。
セリーヌはトーマスさんの所へ行ってるようだ、昨日の台車の事だろう行動が早い。
ダルクはかなり回復していたが大事をとって寝てるようにセリーヌに言われてしまったのでまだベットから起きてこない。
リーネと二人でパンと昨日の残り物を食べながら、せっかく手に入れたショートボウの練習もしたいがダルクは寝てるし、お姉ちゃんを連れて今日はウインド教えよっかな〜と考えていた。




