31 そうだ、海へ行こう2
荒唐無稽な話だ、何を馬鹿なと本来であれば一蹴する話だった。そう本来であればだが。
狩りから帰ってきたダルクは目の前にいる規格外の息子をジッと見る、リーネどころかセリーヌまで飛んだと言うのだから間違いなく事実なのだろう。
モンベルという漁村には行ったことがないがセリーヌの実家があるはずだ、セリーヌの父親には顔見せはおろか挨拶もしていない。
セリーヌが父親と喧嘩別れしてこっちに来てから縁があって一緒になった、気は進まないがまだ存命であれば挨拶の一つはするべきだろう
セリーヌと結婚して8年以上経っているが。
ジッと考え込む
セリーヌからは父親が嫌いだとは聞いてない、冒険者になるのを反対されて飛び出したと聞いている。
娘のリーネと息子のジュリオだって出来た。俺が相手なら孫は見たい。父親のウェルには見せてあげれなかったしな
黙ってそこまで考えるとポツリと言った。
「飛ぶのは分かったがどうやって四人で行くんだ?」
視線はジュリオにぶつけていた。
「えっと、まず僕が身体強化をしてリーネお姉ちゃんを背負って、フウタにお母さんを運んでもらってモンベルに行くでしょ」
待て待て、またおかしな言葉が聞こえた。
「身体強化? フウタ??」
返事の代わりにジュリオが唱える
「ストレングス」
バチバチっとジュリオが光ると紫のモヤモヤっとしたものを身体に纏っている
椅子から立ち上がってトコトコとダルクに近付き、椅子に座っているダルクを後ろから椅子ごとヒョイッと持ち上げた。
「ね?こんな感じで身体強化してお姉ちゃんを背負ってから飛ぶよ、フウタは僕に付いている風の精霊!」
セリーヌやリーネも含めてジュリオが空を飛んだと聞いてからちょっとやそっとじゃ驚かないつもりだったが何倍も大きな俺を軽々と持ち上げられ身体が後傾している事に驚いた。
「おっ降ろしなさい」
流石に肝の大きなダルクは直ぐにそう言うと同時にストっと地に足が着く
トコトコと元いた椅子に戻って座った息子を目で追った。
「身体強化って魔法と飛ぶ魔法を同時に使うってのか?そんな事が可能なのか?」
ジュリオが手を握り親指を突き出していけるいけると簡単そうに応えた。
「安全なのか?」
そう言って話を纏めだした
計画はこうだ
まずセリーヌとリーネを背負ったジュリオがモンベルに着いたらフウタというジュリオ付きの風の精霊が直ぐに戻ってダルクに付いてもう一度モンベルに飛ぶ
フウタという精霊は人に付けばジュリオじゃなくても飛ばす事ができるそうだ。
確かに全員一緒に飛べないのなら先にセリーヌと子供達が着いてる方が都合良いだろう。
先に俺が着いてあなたの娘さんと8年前に結婚しました!なんて言えないし顔も分からない
「俺はそのフウタという精霊を見ることができないが?」
と疑問を投げたが、俺に付いてる闇の精霊が教えてくれるだろうとのことだった。
右肩を見れば闇の精霊がドンと胸を叩いている
この規格外の息子が居てこそのプランだ、行くのは問題無いかも知れないが空を飛んでいるのを見られるのはなぁ
冒険者だったセリーヌでも飛んでいたと言われている風の魔法使いの事は眉唾物の話だったと言ってた程の事だ、人に見られるのはマズイだろう。
見られるのは隠さないといけない、しかも一人じゃないのだ
また黙って暫く考え込むとピンと来たのか
「そうだ!ロック鳥なら何とかなるかも知れないぞ!」
ダルクがガタッと立ち上がってそう言った。




