30 そうだ、海へ行こう。
「ダメです。」
僕は愕然と膝から崩れ落ちる
リーネと洗濯をしていたセリーヌは手を止めてピシャリと言う。
セリーヌは故郷の街近くの海を思い浮かべてどれだけの距離があるかジュリオに言い聞かせる
そう、元々セリーヌは漁村生まれだった。
セリーヌ・モンベル
モンベル生まれの彼女は若い頃冒険者をしていた、漁村では大した依頼もないのでブラウゼアの街を拠点として活動していた。
依頼品の薬草を採取する為に山へ入った所迷ってしまい、ダルクに助けてもらったのが恋の始まりだったそうだ
冒険者という過酷な生活をしていると狩人の妻も悪くないと思ったという
ダルクの雰囲気と顔が良かったのも大きかった。
漁村生まれで漁師の父親と母親の間に産まれたセリーヌはヤンチャな子供だった、将来は騎士になりたかったという彼女は小さい時から棒を振り回していた。
大人になるにつれ騎士になるのは家系や学が必要な事を知り、諦めて冒険者になったという。
母親は病気で他界したが、父親はまだモンベルの村で漁師をしてるはず
喧嘩別れしたきり会ってない父親の顔を久しぶりに思い浮かべた。
リーネとジュリオは切り株に腰を掛けて話を聞いていた。
「お爺ちゃんにも会ってみたい!」
「私も会ってみたい!」
いやいやと、首を横に振るセリーヌ
ここからモンベルの村までは大人の足でも2日は歩かないと着かない、リーネとジュリオを連れてモンベルまで歩くなんて想像も出来ない
「ふふふとっても遠いのよ。」
二人を窘めるように笑うとそう言った。
ここが勝負所!
遠いからダメだと聞いた僕はこの機を逃さない
「フライ」
ふわふわと僕の足が地面から離れる
「飛べばいいんだよ!」
二人が唖然とした表情で僕を見上げた。
「ウインド」
風に方向性を持たせた僕が、空高く昇っっていく、この高さならブラウゼアの街も見える
ウインドを解きゆっくり下降すると元いた切り株へ降りた。
「ね?」
と、ドヤ顔でセリーヌに言うと
まだ驚いて口をポカーンと開けたままの顔でジュリオを見つめる。
人が空を飛ぶなんて話は聞いたことがない、いや冒険者だった頃に一人の風魔法使いが、飛んでいたという話を聞いたことがあるにはあるが、おとぎ話の様な眉唾物の話だった。
それを目の前で息子に見せられたのだ、驚かない訳が無い
どう?どう?と首を傾げて詰め寄る息子を暫く見ていたセリーヌはやっと我に返ると
「とっ飛べてもダメです!一人じゃ危ないでしょ!」
と、
フウタに目配せして顎をクイッとセリーヌの方へやる
セリーヌにフウタが付く
「フライ」
「フライ」
僕とフウタが付いたセリーヌの足がふわふわと地面から離れた
「わっわっわっ」
声にならない声を出すセリーヌは地に足がつかないこの状態に困惑している
「ウインド」
「ウインド」
方向性を持った風が二人を持ち上げる、先程飛び上がった高さまで昇るとまたウインドを解除して降りた。
「だったら皆で行こうよ」
息子が笑って提案してきた。
あまりの事に歯をカチカチと鳴らせたセリーヌは何もまだ言えない、代わりとばかりに目をパチクリさせていたリーネが
「すごーいジュリオ!私も飛んでみたーい!」
とぴょんぴょん跳ねている、フウタをリーネに付けるとまた二人は空を昇った。
二人が降りてきてやっと我に返るとセリーヌは
「おっお父さんに相談します!」
規格外の息子に今のはどうやったのか話を聞きながらまだ震える手で洗濯の続きをするのだった。




