26 ダルク・ブラウゼア
一家の大黒柱であるダルク・ブラウゼアは山で獣を狩る狩人だ。薬草等も納品しているがメインは狩猟だ
ダルクは現在28歳で20歳で結婚した、1年後セリーヌとの間に出来た長女は今は7歳、長男は5歳になっている
ダルクの右肩の上には黒い毛玉が乗っている、初めてコイツに気付いたのはセリーヌと結婚したばかりで良い所を見せようとしたばかりに悪辣な獣の風上に立ってしまい、思わぬ急襲を受けた時の事だ
その時の獣、群れのリーダーである灰色狼は狡猾なやつで群れの雄を手足の様に使うやつだった。
俺が闇魔法を使う事が出来なければ確実に未来はなかったはずだ。いや、コイツの魔法が無ければの方が大きいか…。
五匹もの手下共に追われて逃げ場の無い方へと誘導された俺は周りを高い土壁が囲う灰色狼の狩場へと案内されてしまった
それでも生を求めて3メートル程の木の上へと登る、何か無いかと周囲を見渡そうとした時にコイツが右肩の上に居た。
驚いて落ちそうになるのをなんとか堪える、コイツを投げつけて囮に使おうかと思ったが数秒の稼ぎにしかならないだろう
「おい、お前も生きたけりゃあれなんとか出来ないか?」
チッ全然通じないよな、黒い毛玉はジッと此方を見ている
「ほらあれだよあれ!」
藁にも縋るように灰色狼達を指差す。ジッと見ていた毛玉がコクンと小さく頷くとダルクから力が抜けていく
「てってめえ!」
「ワチャワチャチャ」
毛玉から声が聞こえたと思うとダルクそっくりな体型をした真っ黒いモヤがかかった人形二体が木から飛び降りた。
灰色狼達は待ってましたとばかりに近付き飛び掛かるより早く矢筒から矢を取り出し弓を構え撃ち出す
ドス、ドスッ
其々の矢が灰色狼の頭を捉える、とは言えこのままでは5対2で圧倒的に不利だ、いやダルクが木の上にいる!
少し気だるいが人形がやられてる隙に後ろの一匹を狙い構える
「ブラインド!」
効いた!後ろの一匹は突然視力を失い転がっていた。
手前の人形に噛みついている灰色狼へ矢を放つ
ドスッ
狙いをもう一匹の方に変えて矢を放つ
ドスッ
木の上という足場の悪い位置だった為に一撃必殺とはいかなかったがもう満足には動けなくなった二匹に追加の矢を放つ
ドサドサッと二匹は動かなくなった。
人形は二体とも消えてしまった、視力を無くし怯えている一匹を一撃で射抜くと
ダルクは木から飛び降りた
「後はお前だけだぜクソ犬が!」
正直既にかなり限界で戦いたくは無い、ボス狼が狡猾なのを知っているからこそ、此方から距離を詰める
「グルルルルル…」
ボス狼はリスクを恐れたのか赤い目を光らせ去って行った。
ボスが見えなくなる迄臨戦態勢を取っていたダルクは更に3分程待ってから肩の力を抜く
「ハァ助かったぜぇ、お前のおかげだ」
右肩に顔を向けると改めて驚いた。
「なんか萎んでる!?」
しなしなと萎んだ黒い毛玉が居た。
狩人として獲った獣を無駄にする行為は御法度だが、流石に今回は毛皮を剥ぎ取る事すらしなかった、得体の知れない恩人が弱っているからだ。
「クソッ」
灰色狼の毛皮の値段を考えれば仕方ないだろう、一度だけ悪態をついて家路へと急ぐ
この距離ならまだ暗くなる前に帰れるはずだ、目論見はズレて家に着く頃にはどっぷり日が暮れていた
それでも帰って来れたのは狩人としての腕もあるがそれ以上に今回は運が味方してくれたのだろう。
得体の知れない恩人を連れ帰ったつもりだったが闇夜に紛れて消えていた。
妻のセリーヌに不思議な体験を話すと
「まぁそれはきっと精霊様ね!」
と感謝の祈りを捧げる
あの様子じゃくたばったかもなとダルクは思い返し妻と同じように感謝の祈りを捧げた。
2日後の狩りでいつの間にか黒い毛玉が右肩に乗っていた…