14 街の中(ブラウゼア)
街へ入って真っ直ぐ進むと一際大きな通りに出た。
正面に大きな建物がある、看板に何か文字が書いてあるが読めないので中へ入ると、カウンターに中年だと見える女性が座って居た、奥は調理場の様だ、若い男が料理の仕込みをしている。
カウンターの左側には机が4つ設置されていてそれぞれ4組の椅子が置かれていた。
一組の若い男女がパンを食べ白濁したスープを啜っている、男は傍らに剣を携え、女は弓と矢筒を地面に置いていた、どちらも軽装で動きやすそうな服装だった。
隅に階段があったので登ると二階には部屋が6つあった、それぞれ鍵をかけられる仕組みになっているようだ。
ここはきっと宿だろうと見当をつけ階下に降りる。
丁度飯を食べていた男女が外出するようだったので二人に習って一緒に外に出た。
付近を見渡すと近くには屋根と机だけがある、簡易的な造りの建物に果物や野菜といった商品が置いてある露店らしきもの、調理した食料品を提供してる店、日用雑貨を置いてある店が多々あった。
「市場かな?」
あまり覚えの無い文化だがお祭りでよく見る屋台と思えばしっくりした。
重雄は若い男女を見失わないように二人の後を付いていく、二人は迷う事なく大通りを抜け横道を進む。
剣が二本交差した看板の出ている建物に二人は入っていく。
ドアはあるが開けっ放しだったので重雄も続いて入る。
カウンターに若い女性が一人立っていて奥に無骨な中年男性が居た。
重雄は驚いて中年男性を凝視した。
そもそも若い男女に付いてきたのは女性の肩に黄色のマリモもどきが居たからだったのだが、この中年男性には赤のマリモもどきと茶色のマリモもどきが付き添っていた。
赤色のマリモもどきと視線が合うと、相手は目を見開いて警戒したように身構えたと同時に、茶色のマリモもどきも警戒態勢をとっているようだが中年男性はまるで気付いて無いように寛いでいた。
前回声を掛けて攻撃された重雄は同じ轍を踏む事はせず目線を逸らす。
マリモもどき達は警戒しつつ何かを話してるが攻撃する意思は無さそうに思えた。
部屋の中には他に誰も居ないので視線を若い男女に向けると、壁に貼り付いている一枚の紙を指差し何か話していた、男がもう一枚の紙を指差し女に話し出すと、意見がまとまったのか女が頷いて紙を剥がしカウンターに持って行った。
赤と茶色のマリモもどき達は黄色のマリモもどきに何やら話し掛けた後、黄色のマリモもどきが此方を一瞥したが興味無さそうに視線を戻していた。
一連の動作と建物の内部を見届けた重雄は二人より先に外に出た。
「あのマリモもどきは精霊ってやつなのかも知れないな。」
剣と魔法の世界には必須だと言える精霊を重雄はファンタジーゲームを通じて知っていた。
緑が風属性だろう攻撃をしてきたことから赤は炎で茶色は土、黄色はう〜ん何だろう」
まだまだ想像の段階なので考えを止め適当に歩き出した。
ブラブラと住民の生活を一頻り見た後、鍛冶屋らしき工房での作業を見ている。
ハンマー片手に鉄であろう鉱物を叩いている男の傍らには赤いマリモもどきが居る。
暫く作業を見ていると男が何か呟く。
赤いマリモもどきが薄っすら光った途端に、男の左手から赤い炎が出て既に燃えている炉を更に燃やす。
「やはりあいつは精霊できっと色に沿った魔法を使えるんだな。」
初めて見た魔法と一つの考えに程々の成果を得た重雄は、気分を良くして大通り迄戻り街路樹の端に陣取る。
通り過ぎる人を観察していると辺りが暗くなってきた。




