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12 ホーホーホッホー

「これは意外とキツイんじゃないか?」


 ぼそっと弱音を吐いた理由は眠れないという事からだ、眠気は一切無いし疲れも無いが故に時間が経つのが遅い。


 現代というよりかは元の世界というべきか、娯楽が溢れていれば時間なんていくらでも潰せたものだが今は何もない。


 スマホもなければアニメも漫画もない、将棋の棋譜でも覚えて一人で考察出来るレベルでもない、なんなら下手の横好き程度な腕前だ。


 釣り道具でもあればと一瞬思ったが、そもそもこの世界でまだ川も海も見ていない有るのかどうかも分からない、更に釣り道具があった所で触れられても持てないだろう。


「いっその事動くのも有りか?」


 いやいやと首を横に振って思い直す、一日どころか数時間前に作った縛り、安全処理をコロっと変えるのは些か(いささか)短慮すぎる。


 目を開くと辺りはまだ暗いままでゴロゴロ転がったりしながら時間を潰す、そうこうしているとやっと空が白み始めた。


 暗闇に目が慣れてきていた重雄はすくっと立ち上がると、お尻を手で払って汚れを落とす動作をしたが何もついてなかったようだ。


「さ〜て行くかぁ」


 一度大きく伸びる動作をしたが一切伸びた気がしないことに苦笑しつつ丘を降りる、注意すべきは来た道を戻らない事だ。


「えーっとあっちから登ったからこっちに降りるのが正解か」


 ゴールが決まって無いので正解も不正解もないようなものだが、重雄にとっての正解を選んで先に進む。


 ふと思い付いたかのように走り出した、全力疾走で暫く走っているが、動悸もなければ息切れする事も、心臓がバクバクする事もなかった。


 生前と比べて特別早く走れてる訳でもなさそうだが若い頃の全盛期程度には走れている。


 一度止まって、シワシワの手を見てから顔に手を当てる、姿形はきっと年老いた元の顔そのままだろう。


 傍から(はたから)見ればスーパーお爺ちゃんだろう。


 走るなんて動作は下手すれば何十年ぶりだった重雄は走るのを止める理由を探しながら走り続ける。


 あまり代わり映えのしない景色を後ろへと流しながらやっと止まる理由を見付けた。


「こいつは紛れもなく鳩だわ」


 正確にはキジバトというその鳥が二羽地面を突付いていた、一羽が飛び上がり近くの木に止まるとあの独特のリズムの鳴き声をだした


「ホーホーホッホー ホーホーホッホー」


 こっちの世界に来てから間違いようのない(知ってる)ものをやっと見付けた重雄は、それなら昨日見たリンゴらしき物もリンゴで合ってる可能性が高いなと判断した。


 未だ地面を突付いてる鳩に近付いても、やはり全く気付いた様子もなく地面を突付いては進み突付いては進みと同じ動作をしている。


 こいつらは元々警戒心がそこまで高い訳では無いが、それでも1·2メートルの距離で近付こうとすれば急ぎ足になって離れるか飛び去ってしまう。


 重雄は鳩の前に立ち鳩の身体を両手で掴む形で鳩を持ったが、触れられるが動きを止めることも持ち上げる事も出来なかった。


 ただ、鳩の羽の柔らかさを感じなく、地面と変わらない触感を不思議がっていると、鳩が進み出し重雄の靴と足首辺りと同化してしまった!


「うほっ」


 驚きのあまり変な声を出してしまったが、鳩が声に気付くそぶりも無く同化したまま地面を突付いている。


 重雄は試しに体重を掛けてお腹から覆い被さってみた所、何の苦もなさそうに鳩が抜け出してくる。


 それならと鳩の上に足から飛び乗ってみたが普通に乗れてしまった。


 バランスを崩さなければそのまま乗り物として使えそうでもあった。


 重雄は一度降りて鳩の足を掴んだまま寝転んだら、鳩の動きに合わせて引き摺られた。


 そのまま引き摺られているうちに鳩が飛び上がり先に木に止まった鳩の横へと降り立った、重雄は鳩にぶら下がったままだ。


「魂の質量が5グラム説はかなり有力じゃないか?」


 鳩の足を離し木から3メートル程飛び降りるが身体はなんともない。


 衝撃らしい衝撃も感じないまま地面に着地した、一つ上の枝に居た緑のマリモもどきには気付かなかった。

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