105 実験台
「うっま、うっま!うっまぁ〜!」
「馬じゃなくて鹿なんだけどね。」
は?とでも言うような顔をしたニアが、気にせず鹿肉をガツガツと食べている。
「さぁ次は卵よニアちゃん」
シンプルな目玉焼きに塩を振っただけの料理が出され、それをニアがまた美味しそうに食べている。
何だかんだ愛されキャラのニアはダルク家でもてなされていた、ジュリオ以外には。
「ニアちゃんどうしたの?ガンジお爺ちゃんは?」
家の天使がそう聞くと、何度目か分からない質問に嫌な顔せず応えるニア。
「ガンひいに頼んで遊びに来ちゃった!まぁそれだけじゃなひんだけどね〜。」
ほらほら食べながら話すから、ちゃんと聞こえないじゃないか、伝わるからいいけども、初めて食べた食材に手を止められなかったニアがやっと落ち着いた。
「それで実験台って何?ジュリオ」
「あっそれね、ニアお風呂入ってみる?」
「お風呂〜?」
聞いたことのない言葉に首を傾げるニアに、リーネが凄く気持ちいいから、一緒に入ろうと誘っている。
「ヒイィィィ、にっ煮魚になるうぅ〜!」
少し暴れそうなニアをリーネが大丈夫だと落ち着かせて一緒にお風呂に入る、火を付けているのはアニーだった。
「やっば!これやば気持ちいい!」
そう言ってお風呂が気に入りご機嫌なニアの身体に布を巻かせて、先程の液体の入った瓶を渡した、良い実験台だと僕が、ポロッと、口に出した言葉をニアは覚えていたが分かっていない。
海風に吹かれて、ゴワゴワの髪を洗えと、試しに作ったシャンプーを渡したのだった、言われるがままに、髪にこれくらい付けてと指示されたニアが驚いた。
「あっ、良い匂いがする!」
オリーブオイルと、蜂蜜を混ぜた物に、乾燥させたミカンの皮を漬け込んだ自家製シャンプーだ。
「凄い!髪がツルツルする!」
青い髪を手ぐしが引っ掛からないで通った事に、驚いたニアは大喜びだ。
「あーいいなニアちゃん、ジュリオ私も使っていい?」
「お姉ちゃんはダメ、上手くいったら明日ね、ニアはお風呂から出る前にそれ洗い落としてね。」
明日になれば実験の効果が分かるだろう、植物素材だから大丈夫だと思っているけど、配合に不安があったのでニアで試したジュリオだった。
と、いうのもこの世界ではお風呂が普及してなかったし、女性の髪はゴワゴワだ、天使のリーネがゴワゴワの髪だなんて、耐えられなかった僕が、高価な蜂蜜を薬草を売ったお金で購入してきて作ったのだった。
ニアを羨ましそうに見るリーネとアニーを尻目に、いや、アレはある意味犠牲だからと僕は思っている。
次の日になってニアが未だ艶々の髪を誇らしげに見せて来たので、あっ成功したんだなと初めてリーネに使わせる事を決めたジュリオだった。
実験台という言葉を知らないニアが、ジュリオは好意でシャンプーを出してくれたと勘違いし、感謝するのでアハハと笑っておいた。
灰を使って洗うのも汚れは落ちるけど、なんか、ハゲそうで嫌だったんだよね、上手くいったなら僕も使おうかな。
ミカンはとっくに食べちゃったし、また採りに行かないとなぁ、身体を洗う用にレモンとか使っても良さそうだな〜♪
両腕を頭の後ろに組みながら実験が成功した事に、ご満悦なジュリオだった。