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1 88歳の誕生日

 まだまだ若いモンには負けんと言いたい所だが足も痛ければ腰も痛む、それでも日常生活では杖を必要としない生活を送れているのは年齢を考えたら上出来と言って良いのだろう。


 今日は 【田中重雄】 88歳の誕生日。米寿と言われる歳だ、誕生日だから特に何かしたかったという訳ではないが、趣味の一つである山菜採りに近くの山へ登っている。


 近くで曾孫の大輝と光輝の声が聞こえる。


「でっかいカブトムシ居ないかなぁ〜」


 と大輝が言えば


「カブトムシよりクワガタの方がカッチョいいじゃん」


 と光輝が応える


「木ばかり見ずに足元に注意するんだぞ」


 虫を探すのに意識が散漫になってる二人に声を掛けて注意を呼びかけた。


「わかってるよじいちゃん」

「は〜いじぃじ」


 と、二人からそれぞれ返事が来る。


 今日は重雄の誕生日ということで孫夫妻が曾孫を連れて祝に来てくれている。


 孫の直樹は運転疲れからかまだ寝ているが山菜採りに行く話をしたら曾孫二人が行きたいと言うので連れて来た。


 大輝と光輝を見ていると元気を分けてもらってる様な気分になって自然と顔がほころぶ。


 まぁカブトムシもクワガタもまだまだ土の中だろう。


 まだ3月に入ったばかりなので幼虫か蛹として土の中に居るのだからいくら木を見ても捕まえることは出来ない。


 大輝も光輝も本当は分かっている、分かっていても探したいのが子供だろう、まだ土の中だぞなんて野暮な事は言わずに黙って見守る。


 自分の若い頃はザリガニ獲ってたなぁなんて考えているとまだ伸びていないフキノトウを見付けた。


 少し先行している曾孫二人を呼び止め、フキノトウを見付けたと声を掛けると2人が戻って来る。


「流石じいちゃん」

「じぃじスギョイ〜でもこれ苦いやつじゃなかった?」


 光輝は以前食べた時の記憶からか少し嫌そうな顔をしている。


「初物を食べると寿命が延びると言われててな」


 重雄の亡くなった親父から聞いてきた話を曾孫に話しながらフキノトウを摘むと二人も習って摘み出す。


 辺りを見れば結構な量のフキノトウが生えてるようで持ってきたビニール袋なら二袋分は優にあるだろう。


 二人に積んだフキノトウを入れるようにビニール袋を渡すと競いだす。


「俺の方が速いもんね」


 大輝が威張った様に言えば


「一番デッカイの獲ったの僕だもんね」


 と光輝も負けずに言い返す


 重雄は摘む手を止めて


「ビニール袋半分まで獲ったら終了だよ」


 と声を掛けると大輝が首を傾げる。


「まだこんなに残ってるのに??」


 光輝も続けて言う


「ママに自慢したいのにぃ」


「採り過ぎたら山の神様が怒るんだよ、それに皆で食べるには充分な量だよ。」


 重雄が諭すように言うと 二人は納得したような顔をした。


「まぁ苦いから僕は食べないしな!」


 光輝が何故か勝ち誇った様にしている。


「ねぇじいちゃん、せっかくだから山頂まで登らない?」


 大輝が提案してくると光輝もウンウンと頷く。


 フキノトウはそんなに重く無いし妻の美奈子と孫の奥さんである加奈さんの作ったお弁当もある。


 帰るには早いし天気も良い、まだ少し肌寒いがこのまま歩けば風が気持ちよく感じる位だろう。


「じゃあそうしようか」


 重雄は丁度ビニール袋半分位になったフキノトウをリュックに詰めると腰をトントン叩きながら立ち上がる。


 大輝は半分を少し超えて獲っている、光輝はもうちょっとで半分と急いで摘もうとするが重雄が


「荷物が重くなるぞ」


 と言えば気付いたのか慌てたようにリュックにビニール袋を詰め込む。


 大輝はやっちまった!という顔をしている。


 山頂迄登る間に竹藪があったはずだと思いながら次来る時は筍掘りかなと考えていると大輝もフキノトウをリュックに仕舞って立ち上がる。


「出発〜進行〜!」


 大輝が隊長になったかの様に声を張り上げるので隊員の重雄と光輝が揃って「オー」と応える。


 最高の老後じゃないか。重雄は心から嬉しく思いながら曾孫二人と山頂迄の道を歩いていく。

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