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第12話 マラク

 じゃあスペイン人が植民した南米でこの有様だとスペイン本国ではどうなのだろうって思いません。たしかにカトリックの国ですからバリバリの竜退治伝承の国です。でも100%そうじゃないって事が分かるんですね。


 マラク、もしくはマラッコという竜はご先祖様の霊が入った竜にして「トーテム」だったのだそうです。紀元前5世紀には当時カタルーニャ西部リェイダに住んでいたイレルゲテス族は、その族長をマラッコの子孫としてあがめたのだそうです。なお正しくは「マラッコ」表記ですがここではスペインでの標準表記である「マラク」で統一します。

 そしてキリスト教化されたスペインになってもよく子供にこう言ったようなのです。「悪い事するとマラクに食べられちゃうぞ~」って。これ善のドラゴンの証です。したがってスペインでもやっぱり善の竜は居たしそうじゃなければ宣教師たちが竜と天使のキメラになる「カンヘル竜」なるものを広めたりしませんって。


 マラクの姿は緑の竜です。極めてオーソドックスなザ・ドラゴンです。もちろん火を噴きます。カタルーニャ西部リェイダの町の伝承上の竜ですのでほぼフランスですね。やっぱ砂漠に近い方の気候では竜=善には出来ないのでしょうね。


 実はスペイン、中世はイスラム教の国でした。ウマイヤ朝になったわけですよね。それが逆に幸運となって「暗黒の中世」にならずに済んだという地域でした。さらに12世紀からレコンキスタが起きて文字通り失地回復に成功しその爆発するパワーをさく裂し大航海時代に突入させたのです。このイスラム時代がポイントで中世イスラムという時代は割とアバウト要はいい加減だったのです。だから逆に竜信仰も生き延びる事が出来た。再びキリスト教の国になっても善竜を悪竜に戻す事は出来なかったということでしょうね。


 またマラクとは別に「ギータ」という守護竜(ギータは「足を蹴り上げているラバ」という意味らしいがどっからどう見ても緑の竜である)もカタルーニャ地方には居ましてパトゥムというお祭りでギータ像に花火を加えさせて祝います。パトゥムはユネスコ世界無形文化遺産となりました。悪霊・悪魔から守るドラゴンということでどうもカタルーニャ地方というのは緑竜に守られた土地だったのではないかと推測する。なにせこの竜は聖体を祀るお祭りに登場するのですから。もうここでも「西洋竜=悪」というのが嘘である事が分かるというものです。

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