一ケタ
西暦三千年……全ての緊急通報先の電話番号が、一ケタに決められた。
警察署へは0、消防署へは1、救急車へは2という具合にだ。
電話番号を変更した理由は通報時刻を少しでも削る事で、命や事態の悪化の危機を防ぐようにする為だ。
そして、もう一つある。
例えどんなに普段から電話番号を把握していても、いざ緊急事態が発生すると人は皆パニックに陥り電話番号を思い出せないからである。
一ケタに決まると危機感が薄れ、皆通報を手軽にするようになっていく。
通報する時間が省けたが為に、深く考えないで誰もが電話をする行為が増加していたのだ。
つまり緊急と云いながら重要でも無いのにも関わらず、軽はずみに通報する者が増加し始めてきているわけだ。
『夫婦喧嘩なので、警察の方来てください』
警察が出るまでもない。
『虫眼鏡と黒い紙で遊んでて、煙が出た‼』
それは理科の自由研究だろうが!
『魚の骨が喉に詰まった‼
助けて!』
餅米、チーズ、粘着力のある食材を飲み込んで……あ~っ!
そんな事で通報する愚者が増えつつある。
魚の骨詰まったら、ハイムリック法で対処しやがれ……って、部位の管轄が違う。
中でも最悪だった通報の内容がある。
『深爪して痛い、救急車を呼んで欲しい』
ドッキリではないかと思うくらい酷い通報だった。
一ケタの電話番号に変更したのは、そもそも絶対的な命の危機から回避する為なのに、なまじ簡単な数字にしたが為に最悪な状況を招いてしまった。
折角良案だと思案して電話番号を一ケタに纏めたというのに、これでは改善前よりも事態が悪化しているではないか。
とはいえ万一に備えて本当に重要な通報がある可能性を視野にいれ、一ケタの電話番号を存続していく考えを維持する。
どうか、軽はずみに通報する事だけは辞めて頂きたい次第だ。
『はい、こちら消防署です。
事件ですか?
事故ですか?』
『もしもし、あの……』