第4章 クローズドサークル 7 来訪者たち
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『拝啓 ○○殿 当方は「足立区放火暴行殺人事件」、稲水朝子殺しの重大な秘密を握っております。世間や家族に暴露されたくなければ、明後日、十二月二日の十三時に下記住所までおいでを請う。住所 神奈川県小田原市久野○○○○番地。
自家用車、タクシー、レンタカー。来訪の方法はおのおのに委任するが、車でなければくることはできないのでよろしく。
一ノ宮春乃』
ハルが三人の容疑者に宛てた直筆の手紙の内容はこれだけであった。むろん封筒内には蠱惑をこめた彼女のポートレートが同封されていた。吉田が手わたしに成功し、彼女の使いを果たしていたのなら、三人の男たちは別荘へと訪れるはずである。仮に朝子殺しに関わっていなくとも、ありふれた人間ならばハルの蠱惑の前にはひれふすよりほかの選択肢は与えられない。
ただひとり、稲水志朗を除いては。
「いらっしゃいませ!」
メイド服のまひるが最初に出迎えたのは、スポーツタイプの自家用車で訪れた川上真一、二十七歳。経営コンサルタントを職業とするイケメンであった。
「可愛いメイドさんだね」
「あらぁ!」
稲水よりも若く、数段美男子の登場に興奮気味のまひる。
「学校には行ってるの? 平日のこんな時間に労働させられているのなら見すごせないな」
「学校は昔、行きました。けどイジメにあったので行きたくはありません!」
昔とは、昭和初期、戦前の話である。川上には知るよしもないが。
「なるほど、引きこもりか。ボクに相談したまえ。コンサル料は安くしておくから。そう一ノ宮春乃とやらの女性にも伝えておいてくれたまえ」
「かしこまりました!」
「いらっしゃいませ!」
つづいてタクシーでやって来たのは巻本俊、五十一歳。中学校教師であった。
「きたくてきたわけじゃない。なんでまた、こんなところに……」
不機嫌な声でこたえる巻本に対して、口をとがらせるまひる。
「春乃さまのポートレートに魅入られてこられずにはいられなかったんですね。女好きだから」
「生意気だな、子供のくせして」
「子供でしたけど、巻本さまよりも人生を長きにわたり有意義に送っております」
「なんだと? どういう意味だ」
「人様に後ろ指を指される人生ではないという意味でございます。妻子がありながら稲水朝子さまとの密会、不倫。許せません! キモいです、エロ教師です」
「こいつ……」
「さ、お屋敷にご案内いたしますわ。セ・ン・セ」
「ワタシは朝子にたぶらかされていたんだ! 本意ではなかった、本当だ!」
まひるにつかみかからんばかりの巻本、これを軽くいなすまひる。
「お話は春乃さまがゆっくりとうかがいます。あ、さわったらセクハラですよ。どうぞこちらへ」
「いらっしゃいませ!」
十三時、時間ギリギリに別荘へとたどり着いたのは日下部園美、四十三歳。一流ではないものの、三流ともいいがたい文具メーカーの会社員であった。
「間に合ったのかな?」
「はい。十二時五十八分。セーフです」
「そうですか、よかった。レンタカーを借りる手つづきに手間取ってしまった。この件は妻には知られたくないのでね」
首をかしげるまひる。
「でも浮気しちゃったんですよね?」
「あ? あ、なんの話です? お嬢さん」
「またまた。警察の取り調べも受けたくせに」
「……受けたよ。受けてアリバイが成立したんです。一ノ宮春乃が何者なのかは知らないが、もうほっといて欲しいんだ! 妻は病気なんだ!」
「そうなんですか?」
「ああ。本当は小田原なんかにきている場合じゃないんだよ」
「でも稲水朝子さまは殺されました。残酷に、残忍な犯人によって焼かれて」
「だから、それはわたくしには関係ない!」
「では裁いていただきましょう、一ノ宮春乃さまに」
「なんなんです、その女は!」
「お屋敷へどうぞ、日下部さま」
「三人そろった。吉田は私の使いを忠実に果たしてくれたようだな」
ハルは出窓へ顔を向けつつ、車椅子の稲水に話しかけた。
「ああ、さすがは吉田さんだ。さて……出陣だな、ハル」
(つづく)
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