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悪役たちのレクイエム  作者: 秋月
4/11

これより部隊の編成にかかります!

ランドシア・アヴェルセ国境部 第一軍司令部にて

第一軍は前線より離れた廃校に司令部を置いた。


第一軍の司令官はクルドニフ将軍である。


ちょうど宮廷から戻ってきたクルドニフ将軍は司令部の廊下を早歩きで歩きながら早口でグレイ中佐に聞いた。


「状況は?」


「未だ膠着状態です。敵に動きは見られません」


将軍の副官を務めるグレイ少佐も軍人であるから、基本早口であり、かつ簡潔に答えた。


将軍と中佐は司令部の師団長以下、参謀の集まる部屋へ入る。将軍が部屋へ入った瞬間、その場にいる全軍人が一斉に起立した。


皇帝の名のもとに第一軍に対して攻撃を開始せよとの命令が下されたのはランド歴1051年3月11日のことである。


「貴官らはこの状況をどう見る」


将軍は自分の席に着くなり聞いた。


それに対して参謀の一人が机上に置かれる国境部の地図を指さしながら言う。


「当面の間は両軍が両国の国境を巡って攻防が続く見通しです。しかも、この狭い国境を巡っての戦闘となると長期間の戦闘が行われるでしょう。海上もしくは他方面から敵側面を突かない事には長期戦になるという予測は揺らぎません」


クルドニフ将軍は静かに頷いた。


将軍はシャーロットの言った作戦を思い出す。


確かに、あの作戦はこの状況を一変させるという点では理にかなっている。しかし、その過程が問題だ。


まず、一軍の将に過ぎない彼には外交の話は管轄外であるから、そこは外務省の連中に任せっきりであるし、ザンスタッドとの交渉が彼らによってうまくいったとしても、皇帝の言うこの繊細な作業をうまくやりきるだけの実力と統率力を持つ軍人がどれだけいるであろうか。


どうしたものかと頭を悩ませていると、一人の若い大佐が目に入った。


その大佐は茶色の髪と黒の瞳を持つ女性で、彼女の名をイザベル・キャンベルといった。


彼女は貴族出身で、シャーロットが皇帝になってからその軍事的才覚を発揮し、破竹の勢いで大佐までなりつめた実力型の軍人である。


「キャべル大佐。貴官はどのような手段によってこの状況を打開するか」


驚くべきことに彼女もまた、シャーロットと同じことを言った。


「その手段の詳細は?」


将軍は続けて問う。


「分かりません」


彼女の周囲からは嘲笑が聞こえたが、さすがは数々の修羅場を潜り抜けて来た軍人というだけあって、どれだけ馬鹿にされようと己の道を突き通す精神は称賛すべきものがあった。


一見、滅茶苦茶なこと言う大佐だが、将軍は彼女に関心の目を向けていた。


彼女は先の戦争では齢16にも関わらず全軍の囮となる大役を見事にやり遂げたという。今回もこの作戦を見事にやってくれるかという期待のもと将軍は口を開く。


「キャンベル大佐。貴官を第一即応支隊長として部隊の編成を命ずる」


キャンベル大佐は支隊長任命の命令を受けた瞬間、勢い良く立ち上がり、「カンッ」と踵を鳴らして敬礼した。


「本日付けで第一即応支隊長の任を拝命し、これより部隊の編成にかかります!」


同室にいる師団長や参謀たちは一瞬何が起きたか理解できなかった。


将軍はゆっくりと頷いて言う。


「第二師団および第五師団から兵3000を集めよ。私は皇帝に報告してくる」


軍議が解散され、高級幹部たちがぞろぞろと退室していった。


その中には、「女のくせに」だとか、「あんな若いのに任せて将軍は梅毒にでも頭を犯されたか?」などという声が聞こえてくる。


その場にいた佐官たちが自分には任させられないような仕事を若い将校に奪われたことに悔しさを感じていたとき、同時に大佐もイラつきと悔しさを抱えていた。


イザベルは何喰わぬ顔でその場から立ち去ったが、実は彼女はかなり感情豊かで、かなり怒りの感じやすい人間である。


イザベルは彼女の部屋に入るなり、ドアを閉めることを忘れてベッドの上にある枕を金切り声を上げて壁に投げつけた。


開いたままの扉の向こうに偶然、人影が通る。


「ヒステリックか?」と一人が言い、もう一人が「いや、生理だ」と彼女を揶揄するのが聞こえる。


一瞬、拳銃で撃ち殺してやろうかと思ったが冷静になって止めた。


イザベルは「シャーロットにでも電話を掛けよう」と思い、ドアを閉めてから受話器を手に取った。


その電気信号はケーブルを伝って電話交換手に繋がれる。


「イザベル・キャンベル子爵だ。皇帝陛下につないでほしい」


電話交換手たちはスイッチやケーブルを切り替え宮廷へ繋ぐ。宮廷でもまた同じような工程があってから皇帝シャーロット・ブラウスに繋げられ、彼女の電話がけたたましい音を立てながらシャーロットを呼び出した。


「何用だ」


受話器の向こうから聞こえるシャーロットの声はイザベルからすれば違和感のないものであった。


「聞いてよ、シャーロット!」


「イザベルか…すまんが、俺はこれから仕事があるから、何か用があるならクロエに聞いてくれ」


そういって電話が切られた。


「なんでクロエ?」と思いながら、軍帽は壁に、ジャケットはポールハンガーにかけて、ジャケットの下に付けていたサスペンダーが見える状態になった。


第二師団と第五師団兵士の名簿が彼女のもとへもたらされるまでの間、「寝よう」と思ってイザベルはベッドに横になった。







カールトン公国 誕生日パーティにて

ようやくランドシア・アヴェルセ両国間において態勢を整えた両軍が再び戦端を開いた同日には

カールトン公国のトップ、カールトン公爵の娘の誕生日パーティが盛大に行われていた。


召使たちが会場の裏でワインを注ぎ、そのワイングラスを銀のトレーに乗せて、本日の主役のもとまでもっていく。


主役の公爵令嬢やその父、カールトン公爵は友人や各国の大使たちと会話を楽しみながら運ばれてきたワインを受け取った。


カールトン公爵は在カールトン公国のランドシア大使を横目にアヴェルセ外務大臣ににこやかに話しかけた。


「楽しんでいますかな?大臣殿」


「はい。とても。しかし、本国の方が気がかりでして…」


アヴェルセ外務大臣は頑張って笑って見せてはいるものの、カールトン公爵からすれば、かなり焦っているように見えた。


カールトン公爵はワイングラスのボール部分を持ち、クルクルとワインを反時計回りに二回、回してワインの香りを楽しんだ。


そして、公爵はゆっくりと口を開く。


「そうでしょうな。私も貴国のお力になりたいと思っておったのです。もし、貴国が勝った際、ランドシアからの賠償金の三分の一を譲ってくださるというのであれば、また、石油費交渉にお加え頂けるというのであれば、戦争への介入、ランドシアへの通商破壊も検討しております」


外務大臣からすれば、「カールトン公国を味方として戦争に介入させよ」という大統領からの命令の元でこの場にきているのであるから、この言葉は喉から手が出るほど欲しかった言葉だった。


「本当ですか!」


外務大臣は目を見開いて聞き返す。


カールトン公爵は通りかかった召使の持つトレーの上にワイングラスを置いて、両手でさっとアヴェルセ外相の手を取って言う。


「ええ、もちろん本当ですとも。我が国と貴国は真の友であると心より思っておりますぞ」


アヴェルセ外相は嬉しそうに答えた。


「ありがとうございます。すぐに大統領へ報告致します」


外務大臣は秘書官を連れて部屋へ戻っていった。


カールトン公爵は近くにいた高身長の目つきが鋭く、頬がやせこけた召使を呼び止め言う。


「水をもってきてくれ」


しばらくして、公爵のもとへグラスと水ピッチャーを持った召使の長がやってきてグラスに水を注いだ。












いいね…くだ…さ…い。

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