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赤と青のコード  作者: 異伝C
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第六章 『タイムリミット』


「おい凪! どこへ向かってるんだよ!?」

「いい? 落ち着いて聞いて佐々宮。 これは簡単な連想ゲーム」

「連想ゲーム?」

俺と凪は街中を早足で歩きながら話していた。

「全知全能の神とはあくまで比喩。 実際には知識=情報という解釈ができる。 そして求める者というのは人間の事だね。 それは分かるでしょ?」

「ああ」

「そして、事前に雨美から渡されたメモに書かれてる施設。 これと照らし合わせてみれば簡単だよ。 全知全能の神が居る場所は、ずばり図書館」

「ああ!」

 俺はメモを見る。

 確かに全知全能の場所といえば、様々な本や情報が読める図書館以外にない。


「凪! お前天才だ! 助かったぜ!」

「こんなんで天才呼ばわりされたくないなあ。 はっきりいって小学生向けの問題だよ」

 俺たちはさらに歩を進めて、図書館まで向かう。

スマホで経路を調べると、ここから大体徒歩三十分だ。



    【官邸会議室】


 部屋の中には八人の人間が居た。

 皆神妙な面持ちで部屋の壁に設置されたプロジェクタを見ている。

 プロジェクタにはGタワーの見取り図が映し出されており、目の前には一人のスーツを着た男が必死に話している。

「――と、現在のタワーの状況を簡潔にまとめると、防衛システムはすべて乗っ取られており制御不能。 専用のパスコードも書き換えられており、仮にそのパスコードが分かっても情報処理層内部のAi制御端末からでないと受付不可の状態です。 中の人質を救出する手段は物理的に壁などを破壊して脱出させる以外にないかと」

 その男の言葉を聞くや否や、室内は重い空気に包まれる。 奥に座る男が顔を上げて言う。

「ならば早急に壁を壊す手立てを講じるしかないな」

「しかし総理」

 再びプロジェクタの前の男が言った。

「タワー内部外壁共に鋼鉄製で、内側には何層もの補強版が張り巡らされています。 タワー版の核シェルターとして認識してもらえれば分かりやすいかと。 ……ですので、これを物理的に破るとなると、数日は掛かるというのが我々の目算です」

「だが爆弾は今日の十五時頃に爆破されるという話だろ? 考えている暇はない。 すぐに取り掛かるんだ。 せめて中の人質たちを救出できるぐらいの穴があればいい」

「それでしたら――」

 男はPCを操作してプロジェクタにGタワー上層の見取り図を出す。

「一番破壊できる可能性が高い場所として、情報処理層には小さな通気窓があります。 人ひとり通るのは難しい穴ですが、ここを少しでも拡張できれば、人質の救出は可能です」

「ではそこを開けるんだ。 爆弾処理班はすでに現場に向かっているんだろ? すぐに対応させてくれ」

 男は総理の言葉を聞くと、礼をして部屋から出て行った。

 部屋にはまだ数人が居る。

「しかし……一体誰がタワーの情報処理層なんかへの見学を許可したんだ? あそこは私でさえ入室制限がある場所だぞ?」

 総理は周りの男たちを見るが、誰も口を開かない。

「総理」

 代わりに口を開いたのは女性だった。 凛々しい表情をしている。

「君は確か、河瀬――」

「米国国家テロ対策センター(NCTC)のG対策チーム(GCT)日本支部の凪羅(なぎら)と申します。 総理も数年前まで籍を置いていましたね」

「……ああ」

「では自己紹介は手短にしましょう。 今回私たちが来たのは、これが危機的なレベルのテロであるからです」

「ああ、分かってる。 これはテロだ」

「本日のタワー見学は、恐らく誰も承認していません。 しかしそれはなぜか承認された。 プロジェクタを使って説明しても?」

 総理は頷き了承する。 凪羅はすたすたとプロジェクタの前へ移動すると、自分の持つモバイル情報端末と接続を開始して資料映像をプロジェクタに投影した。

「まず、今回のテロの主犯とされる棚田雨美。 八咫(やあた)学園に通う生徒の一人です。 調べたところ彼女の経歴はすべてが偽証されたもの。 非合法ルートを使い、経歴を詐称して学園に潜り込んでいたんでしょう。 そして、その正体は国際的なテロリスト集団『テングリ・ハイラハン』のリーダー」

「電話の際に名乗っていたらしいな」

「はい。 公には公表されていないテロ組織です。 世界中のテロリストの九〇パーセントは、この組織が母体となっていると言われており、活動は表立って行われることはなくすべて傘下のテロリストが実行しています」

 凪羅はプロジェクタに写真を写す。 写真にはフードを被り、般若の面を被った人物が映されていた。

「これが彼女と思われる画像です。 我々は今まで素顔を捉えることができず、近代までその組織の存在すら知る機会がありませんでした。 しかし我々の独自の情報網により、徐々にその組織の全容が見えてきたのです」

プロジェクタに様々な国の紛争風景が映し出される。

「いま世界で起きている紛争はすべてが『テングリ・ハイラハン』によるものと断定されています。 世界中のあらゆるテロ、国家の戦争、内戦、すべて関わっています」

「私もそちらに在籍中に噂程度だが、小耳に挟んだことがある。 だが本当に実在していたのか……」

「はい。 我々の推測では、前世紀に起きたあの二度の世界大戦も、彼女による組織が発端と見ています。 そして彼女の息は知らず知らずの内に日本の政府機関にまで入り込んでいます。 今回のタワー見学も、彼女の手回しにより許可されたものだったのでしょう」

「だが写真を見る限りこんな子供が――」

「この世には人間と怪物が居るんです。 我々人間の常識を超えた怪物が」

「……詳しく聞こう」



    ※


    【十時五十分 図書館】


「凪、図書館の外で待っていてくれ。 棚田さんに会いに行ってくる」

 俺は一緒に図書館へ入ろうとする凪を止める。

「なんで? あたしも雨美と話させてよ!」

「いいか? 棚田さんは全員をあのタワーに閉じ込めたと思ってるんだ。 ここでお前が出てきたら、ちょっとややこしいことになるだろ? それに――」

 俺はその後の言葉を言えなかった。

 さっきのカオスな三角関係の光景を思い出したからだ。

 凪はそんな俺の思考を読んだらしく、意外にもあっさり納得してくれた。

「わかった。 あたしは隠れて見張ってる。 でも危なくなったらすぐに逃げて」

「ああ」

 俺は凪から背を向けて図書館へ入ろうとしたが、後ろから凪が抱き着いてきた。

「な、凪?」

「ねえ佐々宮……これからさ、〝悠一〟って呼んでいい?」

「凪……今はそんな時じゃ――」

「こんな時だからだよ! あんたに何かあったら……あたし……悲しいんだから」

「……」

「また……悠一って、呼ばせてほしい」

 俺は、なんて答えたらいい? はっきり言って今はとても複雑な心境だ。 好きになった雨美という同級生が、爆弾を爆破させようとしている。 それを止めようとしている。

 そして、今までただの同級生で剣道のライバルだと思っていた凪から、気持ちを打ち明けられている。

 色んな思いがごちゃ混ぜになって、俺はそこから言葉が出てこない。 俺はなんて答えたらいいんだ?

 沈黙が答えだと悟ったのか、それとも何かを察したのか、凪は俺から体を離す。

「ごめん、そうだよね。 こんな時に。 佐々宮――」

「悠一でいい」

「え?」

「これからは悠一で、いい。 好きに呼べよ」

 背中越しだから凪がどんな表情をしているかわからない。 でも、俺の名前を呼びたいと思ってくれることは、それは素直に嬉しかった。

 今までは剣道のライバルとして見ていた凪だったが、少なくともこの瞬間、俺は凪のことをただのライバルではない存在となったのは確かだ。

 それが一体どういう意味なのか。 さすがに今の俺にはそこから先を考えるにはもう少し時間が必要ではあったが、今はそれだけが俺の支えになっている事を実感している。

「じゃあ遠慮なく。 〝悠一〟……気を付けて」

「ああ」

 震えた凪の声が嫌に頭に付く。 後ろの彼女が今何を思っているのかは分からない。

 しかし、その言葉は俺に勇気を与えてくれた。


 ――図書館へ、入る。

 館内は非常に涼しく、外の暑さが嘘のようだ。 

 館内を少し歩き、本棚の間や読書スペースに雨美が居ないか探す。

 ――すると、一昨日俺がちょうど本を探していた場所を見つける。

そういえば、一昨日もここで雨美と会ったな。 そして急速に仲が縮まっていったんだ。

 まさかこんな状況でまた図書館に来るとは考えてもいなかった。

 そんなことを考えていると、いきなり目の前が真っ暗になる。 後ろから誰かが俺の目を手で覆ったのだ。

「だーれだ!」

 上擦った声で後ろの声の主はそう言った。

「……雨美」

 俺は暗闇の中で答える。

「へへ、当たりぃ!」

 そう言うと、俺の目から手を離す。 振り返ると雨美が居た。


「待ってたよ悠一! けっこう早かったね! 簡単だったかな?」

 雨美はそう言うと俺の手に絡んできた。

「雨美、約束だ。 問題を解いた。 爆弾の解除はどうするんだ?」

「まずは第一段階クリアだね悠一。 約束通り一つ目の解体手順を教えるよ」

「一つ目? なに言ってる」

「うん? もしかして問題一つ解いて解体手順を全部教えると思ってた?」

「雨美、お前……!」

「私はこれから問題を次々と出題していく。 答えは全部そのメモに書かれている場所。 問題を解きまくれば、いずれは爆弾を解除できるはずだよ」

 俺は絡んできている雨美の手を引き離す。

「いい加減にしろ雨美! 人の命が掛かってるんだぞ! 頼む雨美、お前はそんなことする奴じゃないはずだ! 目を覚ましてくれ!」

 俺は静かに懇願するが、雨美は平然とした顔をして言う。

「目を覚ますのは人間の方だよ悠一。 私を止めたければ問題を解いて、今日をいいデートにすることだね。 さあ、私を満足させてみせてよ」

「くそ……」

「ふふふ。 その悔しそうな表情……私好きだな。 いいよ、教えてあげる。 爆弾解除の第一段階目は、箱の蓋を開けること。 そうすればタイマーが出てくる。 早くみんなに教えてあげて?」

 俺は雨美を睨みながら流星に電話を掛ける。 雨美は笑顔で俺を見ていた。


二回目のコール音のあと、流星が電話に出た。

「流星か? 俺だ。 雨美からその――一つ目の爆弾の解除方法を教えてもらった。 まずあの箱の蓋を開けるんだ。 ――そう、そのハートの箱だ」

 流星に指示を出し、箱を開けさせる。

 そこで俺は一気に不安に駆られる。 もしも雨美が嘘を言っていて、タワーのみんなが箱を開けた瞬間に爆発したら……?

 流星に待つように伝えようか迷った時、電話の向こうで流星の大きな声が聞こえる。

≪悠一! タイマーだ! カウントが表示されてる!≫

「……!」

 雨美はニヤリと笑う。

「時間が分からないと本気になれないからね? 早々にカウント表示を見えるように設計しといたよ。 面白くなってきたね?」

「流星……カウントは、あとどれぐらいだ?」


≪あと……04:00:23だ……!≫


俺は館内の壁に掛かっているアナログ時計を見る。

現在の時刻は十一時。 ということは、十五時には爆弾が爆発する……!













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[一言] 凪羅…!?
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