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赤と青のコード  作者: 異伝C
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第十三章 『泣いた鬼』


「悠一! この世には常にどうしようもない事が存在する! 正義と悪が相容れないように、私と悠一もまた相容れない存在! それはつまり、残りの選択肢を消して一つの選択を選ぶということ! 二つの道を同時に選ぶことが出来ないように、残りの道は消すしかない!」

「消すのはお前だってか!? 冗談じゃない! 道は二つだけじゃないだろ!? 第三、第四の道だってあるんだ! それは、お前が勝手に決めてるだけだ! 俺の選択を、お前が狭めるな!」

「破壊と創造は常に対である! 破壊をしなければ何も生まれないし、創造をするには何かを破壊しなければいけない! それが〝人の歴史〟なの! そうして人間は進化してきた! だから私はその摂理に乗っ取り、最後まで私は人間に闘いを挑み続ける! ねえ悠一!? 最初からゴールは一つなんだよ!」

「わからねえ! わからねえよ雨美!」

「シンプルな話よ。 私とあなたとでは住む世界が違う。 私はあなたの世界に行けないし、あなたも私の世界には来れない。 もしあなたが私の世界に踏み入れようとしたなら、あなたは確実に地獄へ落ちる。 それは私も嫌だからね。 だから私を殺しなさい。 それが私の望みでもあり、救済でもある。 あなたが人の子だというのなら、その慈悲ある人の心をもって私を滅しなさい!」

 雨美は片手に持つ刀を天に掲げる。

「これは天叢雲(あまのむらくも)。 かつて須佐之男(スサノオ)が大蛇を殺した時に、大蛇の首から生まれた剣。 この剣で吉備津彦命を持つお前ごと葬ることができれば、私の原罪は消える……。 少なくとも、私の今の使命はそれだけだ!」

 雨美はゆっくりと刀を下げ、俺を見下ろした。

「何のことだよ!?」

 雨美は刀を構えながら言う。

「悠一。 これは逃れられぬ宿命。 私もお前も、運命には逆らえない。 ここでお前が私を滅することが出来れば、世界は再び安息へと還る」

「だから意味が分からないって!」

「意味を知る必要はない。 私はお前を殺す。 お前は私を殺す。 それだけ考えろ!」

 雨美は刀を振り上げ、鉄骨から飛んで俺の元へ急降下してくる。 俺は寸前でそれを避けた。

俺は咄嗟に刀を構える。

地上三〇〇メートルのタワーの上で、俺と雨美は対峙した。

雨美は再び切りかかってくる勢いだ。 もはや選択の余地はない……!

俺は自分に言い聞かせる。 こいつは鬼……こいつは鬼……化け物……人じゃない……人じゃない……! もう俺の知っている雨美じゃない! こいつは鬼だ!

「くっそ……来いよ鬼! 鬼なら鬼らしく、この〝桃太郎〟が退治してやるよッ! 来いよぉおお!」


 俺は叫ぶ。 雨美への情、雨美への同情、そして雨美への、恋。

 それらをすべて振り切るため、俺は叫んだ。


「行くぞ悠一!」

俺はもう何も考えずに向かってくる雨美に刀を振る。

刀は弾ける音を立てて火花を散らす! 衝撃で雨美が後ろへ飛ばされ階下へ落ちていき、すかさず俺は足を蹴って雨美を追う。

「うぉああああ!!」

「ふッ!」

刀を振り上げたところで空中で雨美の蹴りが飛んできた。 蹴りを顔面に食らった俺はさらに速度を付けて階下へと落ちていく! そして雨美がそれを追ってきた!

雨美は刀の刃先を下にして俺の首元へ狙いを定める! しかし俺は拳を握って雨美の持つ刀の柄の部分を思い切り殴りつけた! それが雨美の手に当たり――鈍い音がした。

「うぁあ!」

体勢を崩した雨美はタワーの鉄骨に衝突し、俺も鉄骨にぶつかって転げ落ちる。

外に投げ出されることはなかったが、衝撃で骨にヒビが入ったのかもしれない。 肋の辺りが酷く痛む。

俺は雨美の方を見た。 同じく雨美も痛がってうずくまっている。 右手の骨にヒビでも入ったのか、左手で右手を押さえている。

「ふッ、ふふふ……そうそうこれこれ……! この痛みが欲しかった……!」

雨美はそう言いながら左手だけで刀を持ち尚も立ち上がる。

「さすがだよ悠一……! やっぱりお前、最高!」

雨美は笑う。

……もうどうでもいい。 雨美が笑うなら俺も笑うべきだ。

「がっはっははゲッホゲホッ!」

俺は肋を押さえながら咳き込んだ。

「はあッ!」

雨美は俺が咳き込むその隙をつき、刀を突き出しながら突進してくる!

「今、楽にしてやるッ!」

俺は即座に身をかわして下に向けて落ちるが、肋がズキンと痛み半ば悲鳴を上げながら落ちていく。 その最中、自分に向かって飛んでくる雨美の顔を見た。 

その表情はもう……笑っていなかった。 

例えるならその表情は、生きた魚を人思いに捌く時のような表情。 

無表情でいながら、どこか慈悲に満ちていて……恐らくその表情を見た者は、その後何が起きても戸惑うことなく納得するだろう。

そう、悔いなくあの世へ行けるはずだ。

俺はその表情に吸い込まれながら全てを覚悟した。


――『さあ殺せ! お前になら私は殺されてもいい! すべてを終わらせろ!』


「!?」

その瞬間、確かに俺は幻想から現世に戻った。 そして自覚する……。

これは雨美との決闘なのだと。

それを自覚出来た理由は、俺が持っていた刀――〝吉備津彦命〟が勝手に動きだし、雨美を刀ごとタワーの中心の支柱へと叩きつけたからだった!

「ぐぅがぁぁあああああ!!」

雨美が痛みで絶叫する。

だが、絶叫が終わるよりも先に雨美の体は下に降下していった。

俺は落下しながらも雨美を追う! 情けはいらない! しちゃいけない!

一瞬で決着を付けてやる!

落ちる中、雨美は俺の姿を捉えて最後の力を振り絞り刃先を俺に定める――。

これで決める――。 俺も同じく切っ先を雨美に合わせる!

「「うわあああああああああああああああ!」」

同時に叫ぶ。 叫びの意味は二人共同じだった。

〝迷いを断ち切る叫び〟。

――その時、俺はとても懐かしい気持ちになった。

なぜだろう……? しかし考えるよりも刀の方が先に動いていた!






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