エルフ達の反省
「……というわけでだな。グランディースはエルフ達への試練だったんだよ。どういうことかわかるか?」
エルフ達は全員正座してオレの説教に聞き入っている。
長、ルパ、メル、ノエーテ、ノキア。その他大勢のエルフ達。
ドドネアさんまでも同じ姿勢でドリンクをちゅーちゅー吸っていた。
舐めてやがる。
誰一人としてオレに反論できない理由は単純明快だ。
ヘーベルが残した資料やあの手紙、そしてここにいるカロ。
すべて物的証拠として見せてやった。
言葉が出ないとはまさにこのことか。
今回ばかりはエフィにドヤ顔する権利がある。
フェンリルがいなかったらグランディースを遊ばせることすらできなかったからな。
「ルオン少年、よくぞそこに行きついた(ひとまず主導権を取るぞ)」
「ドドネアさん、最初からわかってたんならこれまでのエルフ達の努力が無駄になるんだが?」
「う、うむ(くっ……手強い!)」
なに主導権を握ろうとしてるんだよ。
悪いけど今回ばかりはオレが主導権を握っている。
オレはフェンリルのもふもふした体に背を預けながら腕を組んで、いかにも偉そうな態度を取った。
この中で何気に功労者はノエーテとメル、ルパか。
ノエーテの魔道銃エクステンデットがなかったら、あの薬の効果がなかったからな。
そして射撃訓練を行って指導したのがルパとメルだ。
魔道銃を作ったのはノエーテだけど、それを使い物になるまで二人はがんばった。
だからこの三人には感謝したい。なんか勢いで正座させちゃてるけどさ。
「ルオン、今回のことはなんと礼を言っていいかわからない(長として……いや、エルフとして恥ずべき行為だ)」
「長、事情はわかったなら今回の報酬は弾んでくれるよな?」
「なっ! ドドネアから聞いていたがお前は金に執着がないのでは!?(ドングリで満足すると聞いていたぞ!)」
「金がいらないとは言ってないからな。手に入る機会があるなら受け取るよ」
なんかとんでもない虚偽の情報が吹き込まれているぞ。
オレが田舎者だと思ってバカにするんじゃない。
オレがドドネアを睨むと、目を逸らしてドリンクを吸っていた。
「ルオン少年、酒の席での冗談だ。すまない(言ったような、言ってないような? はて?)」
「魔女の報酬なんて箒一つで十分だな」
「うむ、言われる気持ちがよくわかった。私からも多額の報酬を渡そう。せめてグラン……カロはこちらで預かろう(いい研究対象だからな)」
「それは助か……ん?」
カロがオレにピタリとくっついて離れない。
ドドネアさんをジッと睨みつけている。
「カロ、嫌」
「ドドネアさんのところには行きたくないのか?」
「カロ、ルオンといる」
「かすかな希望がこうして打ち砕かれた」
あわよくばドドネアさんが面倒を見てくれるかと思ったが難しそうだな。
そもそもさすがに研究対象とかほざいてる魔女に引き渡すのは、さすがにオレも気が引ける。
ということは結局オレがこのチビっ子の面倒をみなきゃいけない。ウソだろ?
今になって事のやばさを理解し始めた。
「カロ、お前はオレについてくるのか?」
「カロ、ルオン好き。いっぱい遊ぶ」
「そうかー、あっちの魔女みたいなお姉さんじゃダメか?」
「熱くするから嫌い」
熱くするってあのフレアとかいう超魔法か。
熱いどころか生物が何一つ残らない威力なんだけどな。
なるほど、オレが引き取ることは確定な。
オレ、この歳で子持ちになるの?
結婚すらするつもりがないのに?
「どうした、ルオン少年。顔が青いぞ?(今頃になって自分が子持ちになる現実を理解したのか?)」
「ドドネアさん、誰か子育てに詳しい人がいたら紹介してくれ」
「メルの母親、ドマさん辺りに聞くしかないな(こ、子持ちか。これは面白い!)」
「言っておくけどあんたにも協力してもらうからな。オレにわからないことがあったら調べてほしいし、養育費をもらうぞ」
「なっ! そこまでする義理はないぞ!(調子に乗りすぎだ! このドドネアを舐めてもらっては困るな!)」
オレはため息をついてからドドネアさんが持っているグラスを勝手に近くの切り株に置いた。
「オレはあんたに巻き込まれたようなものだからな。結界を張って逃げられなくしたんだから言い逃れはできんぞ」
「そ、それは、だな。そう、かもしれんな(うぅ、この私がここまで追いつめられるとは……)」
「実力だってあんた達には程遠い。そんなオレがグランディースみたいな化け物を相手にする恐怖なんて理解できないだろ?」
「そう、その通りだ。すまない……(エルドア様から聞いてはいたが、この得体のしれない圧はいったい……)」
やばい! クッソ気持ちいいぃー!
立場が低い人間を追いつめるのがこんなにも気持ちいいなんてな。
そりゃ弱肉強食にもなるわ。
オレは本来、輝かしい功績を上げるとかどうでもいい。
強さを極めるとか、そういう他人との競争によって生まれるストレスが何より嫌いなんだ。
人生は自分のペースで生きて、最後の最後まで自分が満足できればいい。
今回は完全にオレの人生をペースを乱された。
エルフの里でのんびりと学ぶことを学ぶはずだったんだ。
そういう意味では本来、エルフ達には感謝すべきなんだけどな。
お世話になった人達には後で個別に礼を言いに行こう。
一通りの話が終わると長を含めてエルフ達が立ち上がる。
ぎょっとしたが全員、一糸乱れぬ動きで頭を下げた。
「ルオン。改めて今回の件で巻き込んですまなかった。そしてこの恩は未来永劫、里に語り継ごうと思う(我々の反省の意味も込めてな)」
「いや、それはやめてくれ」
「なぜだ? 君のやったことは間違いなく語りつかれるべき功績だろう?(つくづく不思議な少年だな)」
「オレにそんな自己顕示欲はないよ。でもまぁ……後世に語り継ぐっていうならオレの知ったことじゃないな」
「じゃあ……?」
「オレが生きているうちは黙ってくれ。どうせ人間なんて百年も生きないんだから、エルフにとってはあっという間だろ?」
長とエルフ達が顔を見合わせている。
心の声を聞く限り、とっとと語らせろや的な内容だ。
オレとしては譲歩したつもりだから、それくらい我慢してくれ。
伝説の勇者ルオンなんてマジでごめんだからな。
「じゃあ、そういうことだから。ドドネアさんはこの後、カロについて話し合おう。こいつはわからないことだらけだからな」
「わかった。出来る限り協力しよう。しかしルオン、そのカロは曲がりなりにも伝説の魔獣だ。今回の件はエルドア様に報告しないわけにはいかない」
「それはしょうがないよ」
「そういうことだ。ではひとまず里の平和を祝して宴と行こう(これを待っていたのだからな!)」
「話の繋ぎが雑すぎない?」
ドドネアさんの言葉に合わせて、長達が一斉に里中に散った。
それから迅速に宴の用意がされていく。
この動きは明らかに事前に打ち合わせしていただろ、お前ら。
長が大量の酒を用意して、ドドネアさんがしっかりとポジションを取っている。
現金なもんだがオレもいつまでも責めてもしょうがない。
オレは隅っこでおいしいものでもいただきますか。
「おい、ルオン」
「なんだよ、シカ。言っておくが今回ばかりは暗殺はなしで頼むぞ」
「お前が望むならヒドラ入りの口利きをしてやってもいい(こいつを野放しにするのは惜しい。エルドア様が仰っていた意味が少しわかった)」
「いや、望んでないからな」
何を言い出すかと思えば今更なことを言ってきたな。
でもこいつなりにオレに気を使っているのはわかる。
そういえば、 いつの間にかオレのことを名前で呼ぶようになったな。
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