グランディースの真実
グランディースがこのフェンリルを追いかけてくる。
この追いかけっこはフェンリルじゃなかったら成立しない。
あのグランディースと速さ比べできる奴なんて人間じゃ存在しないからな。
そういう意味ではこのタイミングでエフィがこいつを召喚できるようになったのは何か意味があるのか?
何せ子犬とケットシーからいきなりフェンリルだからな。
思いっきり走ったところで、今度は蛇腹剣で猫じゃらしだ。
正直、これが必要なのかはわからないけどな。
グランディースを思いっきり遊ばせるとなると、これくらいしか思いつかない。
蛇腹剣をふりふりと振ると、グランディースは凄まじい勢いの爪を振るった。
「カロッ!」
「死ぬぅーーー!」
風圧だけでフェンリルごと吹き飛びそうになるが、機嫌がいいから多分これでいい。
グランディースはじゃれているつもりでも、かすりでもしたら体ごと爆散するからな。
何度かちびりそうになること一時間、グランディースが大人しくなる。
「カロロロ……」
「眠そうだな……こっちも危うく永眠するところだったが……」
「ルオン君~、死ぬかと思ったぁ~」
「お前でも命の危機を感じることがあるんだな」
さすがのエフィもグランディースにじゃれつかれてフラフラだ。
オレとしてもこれ以上は精神がもたないから助かった。
グランディースが座り込んで、そのまま寝息を立て始める。
オレ達は念のため、フェンリルに乗ったまま見守っていた。
一応、こいつに害意がないことを確認しないといけないからな。
「ルオン君、グランディースは遊びたかっただけなの?」
「というよりグランディースはヘーベルの分身だ。ヘーベルはこいつを究極生物として誕生させたけど、一方で自分の理想を託した」
「どういうこと?」
「ヘーベル自身は自分のことを究極にして怪物、それだけに誰にも理解されないと思っている。こいつと似てるだろ?」
グランディースは究極生物であり誰にも手がつけられない。
それはヘーベル自身が自分をそう思っているからだ。
グランディースを作ることによって、ヘーベルはエルフを試した。
エルフ達がグランディースを攻撃して返り討ちにあうなら良し。
自分達の過ちに気づいてグランディースを受け入れるのも良し。
これはヘーベルの謎かけであり、試練だった。
「ヘーベルはグランディースを究極生物として作ったけど、一方で弱点も用意した。痒みを感じるのがその一つだな。ヘーベルならやろうと思えば、たぶんそこも克服して作れたはずだろう。だけどあえてやらなかった。未来のエルフ達を試すためにな」
「じゃあ、これが正解ってこと?」
「これがヘーベルが望んだ未来だろうな。自分を理解してくれる人間が現れて、暗闇から連れ出してくれる。自由な世界に羽ばたき、そこで初めて自分はエルフとなる」
「エルフとなるって……あれ?」
その時、グランディースの体が光った。
まばゆい光に思わず目をつぶってしまうが、それは一瞬だったみたいだ。
目を開けるとそこには裸の小さい女の子がいた。
長い銀髪にとんがり耳、年齢は七歳くらいか?
「ルオン君! これも正解なんだね!」
「いや、知らんけど」
「えぇ?」
「知らんって。なんだこれ」
女の子が目をこすって起き上がると、オレ達を見た。
くんくんと匂いを嗅いでからオレに抱き着く。
「カロ、遊ぶ」
「お、お前、グランディースか?」
「カロ」
「そうか」
やっば、どうしよう。
さすがにこれは想定外なんだが?
しかも当然のようにヘッドホンで心の声が聞こえないし、エフィといい本当に勘弁してくれ。
これならまだ殺意ゆんゆんの暗殺者のほうがマシなんだが?
これはグランディースだよな?
これがヘーベルが用意した正解の結果なのか?
ヘーベルの分身を暗闇から連れ出した時、エルフになる。
そういう解釈でいいのか?
オレが狼狽していると今度は上空から何かが振ってくる。
地面に激突して大きい爆心地みたいなものを作り上げたのはドドネアさんだ。
「フハハハハッ! ドドネア、復活! 体の大半が損傷してえらい目にあったが、なんとか治癒できたぞ! さぁグランディース、再戦と……おや?」
「ドドネアさん、今はそういう空気じゃないんだわ」
「ル、ルオン少年……それはまさか……(な、なんてことだ……さすがの魔女もこれは引くぞッ!)」
「クソみたいな誤解してるけど魔女ならもっと冷静になってくれ」
わなわなと震えている魔女を無視してオレはフェンリルにまたがった。
幼女化したグランディースがしがみついてるし、完全についてくる気だ。
ついでにエフィもしがみついてこようとしたから遠慮なく突き放す。
* * *
「ふむ、そういうことか(どういうことだ?)」
エルフ達のところへ戻って長に事情を説明したけど、これ絶対納得してないわ。
納得したように見えてるけど完全に上の空で聞いてるし、カロを見る目に光がない。
あまりに現実離れしたことが起こって頭の中で理解が追いつかないんだろう。
これはアレだ。
オレが村にいた時、家のテーブルの下に謎の物体が点々とついていたのを見た時と似ている。
それが親父の鼻くそコレクションだと知った時、オレは理解が追いつかなかった。
こんな文字通りクソみたいなことをする生物がいるなんて信じられなかったからな。
何が月間大きさランキングだよ、この世のどんなクソよりも興味ないわ。
「ルオン、そいつがグランディースというのは理解した(どういうことだ?)」
「長、無理をしなくていい。世の中には理解できないことの一つや二つはあって当然だ」
「いや、グランディースがお前を追いかけて消えたとなると納得するしかないだろう(どういうことだ?)」
「長、もう休もう」
長だけじゃなくてエルフ達がどよめいてどう対応したらいいかわからないみたいだ。
オレはグランディースの正解に辿りついたけど、エルフ達はまた別だ。
エルフ達がグランディースを受け入れなかったら意味がないんじゃないか?
「カロ、お腹すいた」
「これ、もしかして当然のようにオレが面倒みることになってるの?」
「カロ、ルオン好き」
「名前まで覚えたか。賢いなぁ」
ヘーベル、お前マジでどうしてくれるんだよ。
これがお前が望んだ未来か?
このままエルフ達に理解を求めても無駄だ。
オレは皆を無視してヘーベルの生家に行った。
このカロの取り扱いが書かれているものはないのか?
とりあえず腹が減ったというから、非常食のパンを与えるともぐもぐと大人しく食べている。
食べた後はすやすやとまた眠ったから助かった。
今のうちに何か答えがないか探してみよう、と思ったらいきなり壁が動き出す。
「こ、これって隠し通路か?」
「うわぁ、カビ臭い……」
突然反応したな。
まさかカロがここにいることが条件なのか?
だとしたらヘーベル、ある意味すべてお見通しというわけか。
壁の先に続く階段を降りると、そこには書物がギッシリと詰めるように並んでいた。
そして真ん中にある机に一枚の紙が置かれている。
そこにはメッセージが書かれていた。
この手紙を読んでいる者へ。
おそらく君は私との勝負に勝ったのだな。できれば会いたかった。
自分でもおかしくなっている自覚はあったけど、誰も私を理解してくれない。
私はきっと怪物だ。だが認めたくない。
だから研究に打ち込むことで気を紛らわした。
自分より完璧な存在を作ればいい。
そうすれば私は完璧ではなくなる。心が安らぐはずだ。
私は解き放たれたかったのだ。
グランディースはもう一人の私だ。
怪物からエルフとなったその子を大切にしてほしい。
その子にたくさんの自由を教えてやってほしい。
それが私の願いだ。
怪物と成り果てた私を救ってくれて感謝する。
私を超えてくれてありがとう。
あ、そうそう。
その子は君の言うことしか聞かないだろう。
取り扱いには十分注意してほしい。
おっと、そう言えばその子の容姿は幼い頃の私にそっくりだ。
大切にしてくれ。
ヘーベルより。
「なんで最後ちょっとフランクになってんだよ! 意外と口調がドドネアさんっぽいのも腹立つ!」
「カロちゃん、ヘーベルにそっくりなんだね。こんな見た目してたんだね」
「カロちゃんで定着しやがって……」
オレがいてやらなかったら、どうなるってんだ?
ヘーベルの野郎、とんでもない遺産を残しやがって。
おかげでエルフの里の平穏と引き換えにやばいもん押し付けられたじゃないか。
もうこうなったらここの資料とか全部見せつけてエルフ達に説教かましてやる。
今回はほぼオレの手柄みたいなものだからな。
それが嫌ならカロの面倒を見やがれ。
言っておくがアドバンテージを手にしたオレは強いぞ。
オレは立場が弱い奴にはとことん強いからな。
ブックマーク、応援ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録と広告下にある★★★★★による応援をお願いします!




