伝説の魔獣グランディース 3
「カロロロロッ! カロッ! カロロォッ!」
グランディースが痒さに耐え切れず、爪でバリバリと自分の体をかく。
あれすごい気持ちいいんだよな。
虫に刺されたところをかきまくるとその時は気持ちいいんだけど、後から痛くなる。
昔、虫に刺された時に親父が「かいてやるぞ」とか言ってひっかいてきやがったのは忘れない。
かけば良くなるとかデタラメ抜かしやがって。今でも許してないからな。
あまりかきすぎると肌が弱くなってより敏感になって逆に痛くなるんだよ。
グランディースがいかに強かろうと、ヘーベルはあれを究極生物と言った。
つまり究極になろうが生物であることには変わらない。
かきすぎたグランディースの肌から出血していた。
「あのグランディースが血を流しているだと?(その発想はなかったな……)」
「シカ、気配なくオレの隣にいるのやめて」
「黙れ。貴様、何をした?(返答次第ではここで斬る)」
「あのドドネアさんの攻撃すら通さないような化け物だからな。だったら自分で引っ掻いてもらうしかないだろ」
答えになっていない答えを返すとシカが顔を顰める。シカだけに。
ノキアさんのところでたくさん勉強した中で、オレが目をつけたのがこの肌の痒みだ。
あの薬は肌の乾燥と神経過敏を促進する。
乾燥肌になると体内にある神経が伸びて痒みが起こる。
いかにグランディースが強靭な体を持とうと、生物としての基本的なルールが存在するなら例外じゃないと思った。
とはいえ、グランディースの肌を乾燥させられるほど強力な薬を作れたのは実は偶然もある。
当初、オレだって回復薬を作りたかったんだよ。
それがなぜかどうしてもおかしな効果をもたらす薬が出来上がる。
そこでもう開き直って毒みたいなものばかりを作るようになったわけだ。
その点で言えばエフィは優秀だよ。
ノキアさんに後継者にしたいほどなんて言われていたからな。
オレのあの薬は人間の肌に触れようものなら眠れなくなるほどの痒みがずっと続く。
通常の痒み止めの薬じゃほとんど効かないらしくて、下手な毒より恐ろしいと評された。
当初の目的とは違うわけだから、もちろんオレ自身は納得いってなかったよ。
すごいな、オレ。一体何なんだろうな、オレ。
ということをシカに簡潔に説明したところ、より顔を顰めた。シカだけに。
「貴様は本当にどうしようもないな(やはり斬るか?)」
「でもあのグランディースには効いているぞ」
「それにしてもあまりに反応しすぎではないか?(こいつ、エルドア様の言った通りだ。思ったより未知の力を持っている)」
「それはたぶんあのグランディースが痛みを知らなかったからだろうな。何せあのドドネアさんの攻撃すら効いてないんだからな」
そう、グランディースは生まれて初めて痛みを知った。
痛みがこんなにも苦しいものだとは思ってもなかっただろうな。
おかげでもうオレ達どころじゃない。
バリバリとかきすぎて出血がひどい。
これにはエルフ達も大歓喜だ。
「いいぞー! あの耳兜の小僧、よくやってくれたなぁ!(いやー怖いわー)」
「何をどうやったらあんな薬が作れるんだか!(料理の下準備とか任せたくないな)」
「今なら攻撃を仕掛けられるぞ!(あの傷口を狙えば!)」
寝っ転がっているグランディースに向けてエルフ達が一斉に攻撃を開始した。
近接戦で攻め立てるエルフ達が傷口を重点的に狙う。
だけどグランディースが尻尾を地面に叩きつけるとエルフ達が一気に散る。
地面には衝撃で巨大な窪みが出来上がった。
その途端にエルフ達の勢いは止まる。
「い、いやぁ。このまま自滅を待つのが得策だよな(俺は自分の行いを悔いている。グランディース、すまなかった)」
「その通りだ。失礼があってはならない(予め荷物をまとめておいてよかった)」
おい、お前ら。
オレと同じことを考えているんじゃない。
攻撃しておいて失礼もクソもないが、オレは次の段階へ進むことにした。
痛みで悶えているグランディースに対してオレはフェンリルに乗ったまま近づく。
倒れ込むグランディースの顔が目の前にあってもう本当にしんどい。
このままブレスとか吐かれたら死んだことにすら気づかないで亡霊としてさ迷いそうだな。
「グランディース、痛いか? これ何だと思う?」
「カロロォ……」
あのグランディースが弱々しく鳴いている。
オレがグランディースに見せたのはさっきとは違う薬だ。
同時にオレは蛇腹剣を振って地面を叩く。
「グランディース、良くなったらこれで痒みを止めてオレと遊ぼう。追いかけっこなんてどうだ?」
「カロッ!」
緊張しすぎて心臓が爆発して弾け飛びそう。
オレの解釈が間違っていなければ、ここまでの手順は間違ってないはずだ。
ヘーベルはなんでグランディースを作ったのか。
ヘーベルは本当は何がしたかったのか。
未来の人間に何を期待したのか。
その答えがあのヘーベルの部屋にある本だ。
あれはヘーベルの趣味というより願望だ。
あれこそがヘーベルが求めていたものだ。
「おい! まさか治す気か!(やっぱりあいつはおかしい!)」
「せっかく追い詰めたのに何を血迷っている!(あの耳兜、やっぱり怪しいと思っていたんだ!)」
「それを使うなら容赦しないぞ!(あいつくらいならオレでも勝てる!)」
オレが持っている薬がかゆみ止めだと知ったエルフ達が猛反発してくる。
一部すごく情けなくて共感できそうな心の叫びがあるけど、今更やめるわけにはいかない。
「あ? そこの男、どう容赦しないってんだ?」
「うっ……それはだな……(なんだこいつ、妙な圧が……)」
ちなみにあのエルフ程度なら今のオレでも勝てる。
オレは勝てる奴には容赦しないからな。
「グランディースは今、こんな状態だけど尻尾一つであんた達は消し飛ぶ。その威力はドドネアさん相手に実証済みだろう」
「た、確かに……。単純な物理攻撃だというのにどんな魔法よりも威力が凄まじかった……(そういえばドドネアさんは大丈夫か?)」
「だからまったく追い詰めているわけじゃないんだよ。わかったら黙って見ていてくれ」
オレはかゆみ止めの薬をグランディースに振りかけた。
次第にグランディースが体をかくのを止めていく。
それからゆっくりと起き上がってオレをジッと見ていた。
「よし、じゃあ一緒に走るか」
「カロロォ!」
オレはフェンリルで森の中に駆け出した。
グランディースが巨体で追いかけてきて、またちびりそうになるが我慢だ。
このフェンリルならギリギリのところでグランディースと速度で競える。
「ル、ルオン君。何がどうなってるのぉ?」
「あのグランディースはヘーベルが用意したオレ達に対する試練であり謎かけであり希望だったんだよ」
「どういうこと!?」
「ヘーベルがなんでグランディースを作ったのか、もうわかっただろ?」
「わかんない」
まぁわからんか。
追いかけてくるグランディースに敵意は感じない。
むしろ楽しそうによく走っている。
これこそがヘーベルに対するオレの回答だ。
長かった二章がもうすぐ終わりでございます。
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