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あいつの顔がちらつく

「ルオンはずっとヘーベルの生家に籠りっきりなのか?」

「うん。ずっと本を読んでるよ。シカちゃんはそれ何してるの?」


 私が借家で武器の手入れをしていると、エフィが現れた。

 前から疑問に思っていたことがある。

 エフィとあのルオンはどういう関係なのだ?

 いつから行動を共にしているのか?

 少なくともエルドア様の屋敷に来た時から、ルオンとエフィは一緒だ。


「武器の手入れだ。いつ魔獣が攻めてきてもいいように最善を尽くす」

「いろんな武器があるんだねぇ。これは?」

「あ! 触るなッ!」

「ひゃん! ごめんなさい!」


 エフィがマキビシを手に取ろうとしたのでつい怒鳴ってしまった。

 これは棘の球体なので持ち方を間違えると怪我をする。

 いつかのトカゲ討伐の時は足場の悪さの関係で使わなかったが、今回は持ち込むことにした。


 私の見立てでは今回もほぼ役に立たないだろう。

 しかしだからといって持てる力のすべてを使わないわけにはいかない。

 何せ前回のトカゲ討伐で思い知らされたのだ。


 なぜ今回は使おうと思ったのか?

 そう考えると、なぜかあのルオンが頭にちらつく。


 私は弱い。

 戦闘部隊ヒドラに身を置いているが、彼らと同じ席に座れるほどの実力がなかった。

 ただひたすらエルドア様のために技を磨き続けたものの、未だ及ばない。


 あのレイトルに頭を撫でられるたびに腹が立つが、そうさせてしまうのが今の私だ。

 実力不足を認められずに熱くなったところで現実は変わらない。


 そんなことを考えていた日々の中、現れたのがあのルオンだ。

 初めて見た時は取るに足らない奴だと思っていた。


「エフィ。お前はなぜあのルオンといつも一緒にいる?」

「え? んー、なんか安心するから?」

「安心? 奴の実力で安心が得られるのか?」

「強さっていうか、なんていうか。なんだろ? 不安がないみたいな?」

 

 釈然としない答えが返ってきて何も理解できなかった。

 不安が取り除かれるというのは相応の強さがなければ成立しない。

 あのルオン、久しぶりに会ってみれば別人のように強くなった。

 口には出さないがそれは認めよう。


 しかしそれでもヒドラの者達とは比べようもない。

 考え込んでいるとメルとノエーテが借家に訪ねてきた。

 メルはともかくとして、ノエーテはまったくといっていいほど面識がない。

 その手には変わった武器が握られていた。


「シカ。妹のノエーテがぜひアドバイスがほしいそうだ」

「ちっちちちち違うってお姉ちゃん余計なことしててててて!」

「ノエーテが開発している魔道銃について、何かアドバイスをいただきたい。ドドネアさんに聞いたところ、武器としての性能についてはシカが詳しいと教えてもらったのでな」

「ちゃちゃちゃちゃ、ちゃうんやってぇ!」


 姉のメルとは面識がある。

 芯があって気骨溢れる素晴らしい女性だ。

 それに引き締まって完成された肉体を見るたびに惚れ惚れする。

 射撃の腕前なら私が知る限り、ナンバー三だろう。


 一位はヒドラのあのお方、二位はルパという老齢のエルフ、三位がこのメルだ。

 とはいえ、一位のあのお方はスキルを加味しなければもう少し下がるのかもしれない。

 その点、ルパは一切スキルを持たずに必中を実現している。

 そう考えると純粋な腕前はルパに軍配が上がるとも考えられる。


「ふむ。相変わらず会うたびに品定めしてくるな、シカ」

「そうでもない」

「ところでノエーテの武器を見てやってくれないか? 今まで散々引きこもっていたのだが、ここ最近になってやる気を出してな」

「最近……?」


 妹のノエーテとはほぼ面識がない。

 というかつい最近まで妹がいたことすら知らなかったほどだ。


「メル、引きこもりとはなんだ?」

「あぁ、ずっと部屋から出てこない状態のことだ」

「不可解な状態だな」

「そのノエーテがようやく部屋から出てきて、今は武器まで作りだしている」


 よくわからないが部屋にこもった状態でどのように生活するのだ?

 食料など、様々な問題があるだろう。

 そんな状態で生きていたということはこのノエーテ、只者ではないな。


「どうもあのルオンに影響されたようだな。今はこうしてやる気を出しているというわけだ」

「おおおねえちゃーーーん! そんなこと一言も言ってないのにィーー!」

「お前を見ていればわかる。何年お姉ちゃんをやっていたと思っている」

「引きこもってたのに!?」


 ルオン、またあいつか。

 行く先々で何かしらの影響をもたらしているのか?

 あんな腑抜けた奴が信じられんな。


「シカ。お前は様々な武器を扱うだろう。この魔道銃について意見がほしい」

「これと似た武器を知っている。火薬を利用して遠距離攻撃を可能とする武器だ。殺傷力という点のみ考えれば、あらゆる武器の上位に位置するだろう」

「だとすれば欠点はないか?」

「試し撃ちさせてもらおう。弓矢の演習場がいい」


 弓矢の演習場に赴くとルパが大勢のエルフ達に指導をしていた。

 寡黙な老齢エルフはただ静かに、それでいて的確にエルフの射撃の構えを正している。

 ただそれだけなのに、ルパがとてつもなく大きく見えた。


 仮に私がこの距離から狙ったとしても、ルパは眉一つ動かさずに射抜いてくるだろう。

 実力だけ見ればエルドア様が欲しがりそうだが、おそらくあの男に人は殺せない。

 人を殺すには強さの他に怖さが必要だとあのお方が言っていた。

 ルパは強くて大きいが、怖さが足りない。


 その点、ルオンはどうだ。

 あいつを怖いと感じた私の勘が間違っていなければ、確かにエフィの言うこともわかる気がした。

 ルパを見て改めて気づかされてしまったな。


「ルパ。場所を借りたい」

「あぁ」


 メルに言葉短く答えたルパに甘えて、私は魔道銃を撃った。

 その瞬間、反動で手首に負担がかかる。

 放たれた光線のようなものは木の的を綺麗に撃ち抜いた。


「殺傷力は申し分ない。しかし放つ直前、銃口が光るな。これではこれから撃つと教えているようなものだ」

「あ、あ、あの、でも、その、ほんの一瞬だし、それは些細なことじゃ」

「一定以上の実力を持った相手なら、その一瞬は十分だ。それに遠くから見ても光るせいで居場所がバレてしまう。それと気になるのがこの反動だな。一発だけなら問題ないが、何度も撃つなら必ず負担になる。何度も使い続けているうちに手首を痛めてしまうだろう」

「すみません」


 なぜ謝罪するのかわからないが、気になった点はこのくらいだ。

 魔道銃をノエーテに返すと、まじまじと見つめている。


「あの、シカさん、だっけ。アドバイスどうも……最初は怖くて泣きそうだったけど、優しくて安心しちゃった」

「私が優しいだと?」

「もっとメタクソに言われるかと思ったけど、きちんと改善点まで教えてくれたからね。ほら、私はお姉ちゃんと違って弱いからさ。誰かに頼らないと何もできないんだ。何でもやらないと皆の役に立てないから……」

「弱いから……」


 弱いからこそやれることをやる。手段を選ぶな。

 こう考えるようになったのは確かにあのルオンと出会ってからかもしれない。

 あいつは恥も外面も気にしていない。


 トカゲの親玉を討伐した時も、自分達だけ手を出さずに好機をうかがっていた。

 あの時の私にあのような手が思いついたか?

 今、あのような手は邪道だと非難できるか?


 勝たなければ、生きなければ意味がないというのに。

 ただ一つの強さに拘り続けてきた私の中にある何かに亀裂が入ったのをずっと感じていた。


「ふむ。素晴らしい武器だ。弓と違って女子供でも扱えそうな点が実に優秀だな」

「ルパさんが長いセリフを喋ってる……」


 ノエーテが驚くほど珍しい事態らしい。

 私もここまでハッキリと声を聞いたのは初めてだ。

 ルパがノエーテの肩に手を置いた。


「ノエーテ。完成したらこれを使って訓練に取り入れたい。頼むぞ」

「ル、ルパさん……」


 ノエーテが目に涙をにじませていた。

 誰かに認められる喜びはよくわかる。

 私自身もそうしてもらいたくて戦っているからな。


 それにしてもこれほどの才覚を持つ人間を奮い立たせたのがあのルオンか。

 一体何をした?

 奴はずっとヘーベルの生家に籠っているようだが今は何をしている?

 これがいわゆる引きこもりというやつか?


 だとしたらこの私の手で引きずり出さなければいけないな。

 ただでさえ貴様のことが頭にちらついてしょうがないからな。

 これは断じて奴の為ではない。私の為だ。 

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[良い点] 更新ありがとうございます。 タイトルと最後の一文、まるでラブコメだぁwwもしやジャンルの方向転換か?(違) ルパは一流だけど怖さが足りない、いわゆる殺気の問題か。ノエーテの武器開発がだんだ…
[良い点] ツンデレシカさんw 今まで居なかったタイプの人に会って、良い影響を受けたんですね!そういえばルオンさんもツンデレなとこが…。(同郷の友人を助けた時w)実は似たもの同士?
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