またオレを評価するのか?
「ドドネアさん! 来てくれたのか!」
「ドドネア! 久しぶりだな! 何十年ぶりだ?」
「忙しいだろうにありがたい!」
ドドネアさんに対するエルフの里での歓迎ぶりは凄まじかった。
エルフというエルフが里の至る所から集まってきて、あれこれと矢継早に声をかけている。
ヒドラの戦闘部隊とはいえ、ここまで持て囃されるものか?
いや、あのレイトルさんですら騎士達に歓迎されていたからな。
どうもこの人達には強さだけじゃない、人を惹きつける何かがある。
例えばレイトルさんなら女性関係に関しては色々と恩恵を受けたい奴もいるだろう。
ドドネアさんの場合はやっぱり魔法か。
人間の魔道士の身でありながら、エルフ達にあそこまで尊敬されている。
それと何十年ぶりとかいうとてつもない情報が聞こえた気がしたけど、そこはあえてスルーしよう。
なんとなく命にかかわる気がした。
「ねーねー! ドドネアさんってエルフに人気だねぇ? すっごい長生きしてるとか? ババアなの?」
「エフィ、知りたいか?」
おいバカやめろ。躊躇なくキラーワードをぶち込むな。
怪しい笑みを浮かべているじゃねえか。
あれ完全に魔女の笑みだぞ。
「おい! ドドネアさんに向かってババアとはなんだ!(最低でも御年八十歳だがな!)」
「ひゃん!」
「なんて無礼な少女だ! その方は類まれなる良質な魔力のおかげで、肌を若々しく保っておられるのだ!(我々エルフにはない魔力! 素晴らしい!)」
「ご、ごめんなさぁい」
ククク、いい気味だ。
たまにはたっぷりと怒られておけ。
むしろ今までこうならなかったのが不思議なんだけどな。
エルフの里に来てようやく常識人に会った気がするよ。
オレが言えた口じゃないけどね。
それにしても御年八十歳か。禁断の情報を入手してしまった。
「ル、ルオン君。怒られちゃった……」
「これに懲りたら口を慎めよ。ドドネアさんはどう見ても若々しい美人のお姉さんだろう」
「ルオン少年、褒めてもらえるのは嬉しいが媚びは好かんな(この久しぶりの低魔力の体……ふふ、そそるな)」
「ごめんなさい」
ドドネアさんが杖を片手でくるくると回しながら、いきなり耳元で囁いてきやがった。
ヒドラ戦闘部隊がそういうことしたらどうなるか、考えてくれ。
オレじゃなかったら心臓が止まっていたぞ。
心の声も相まって二重できついわ。
「ドムおば様も元気そうで何よりだ」
「あらやだぁ! ドムおば様、だなんてぇ! うっふふふふふ!(目ざとく私にも声をかけてくれるなんてねぇ!)」
「以前、お会いした時より美しくなっているな。並みならぬ努力の影響が垣間見える」
「やあぁーーだぁーーもぉっ!(美肌液を変えたのがバレたかしら! わかる人にはわかるのよねぇ!)」
いや、自分は思いっきりドムおばさんに媚びてんじゃねえか。
でもああやって人を喜ばせるのは大切だよ、うん。
喜びは人を健康にするからな。
できればオレのそういう心意気もわかってほしかったけどね。
そんなドドネアのところにエルフの里の長がやってきた。
褐色肌の女の子で、オレ達とそんなに年齢が変わらないように見える。
以前挨拶した時によると、メルより年下だそうだ。
年長者が必ずしも長になるわけじゃなく、優れたものを持つエルフが評価されるらしい。
あの長は見た目は幼いけど勝気な性格で、強引にでも人を引っ張っていく力があるという印象がある。
「よう! ドドネア、遥々とご苦労だったな。どうだ? さっそく一杯……」
「長、それより本題に入りたい。酒は今夜にでも楽しもう」
「一杯でいいんだって。な?」
「長、本題だ」
「わ、わかったわかった。そんなおっかない顔するなって……」
今も酒が入ったヒョウタンを持ち歩いていて、常に赤ら顔だ。
あんな飲んだくれが長をやっていていいのか疑問だけど、エルフ達が認めたならしょうがない。
やれやれ、といったところで休むか。
夜までには里を発たないとな。
お世話になった身だから置手紙くらいは置いていこう。
「ルオン少年、エフィ。君達も来てほしい(今、逃げる気配を感じたな)」
「え、なんで?」
「君達にも聞いてほしい。そして協力してほしいからだ(断るだろうな。だがエルドア様のルオン攻略マニュアルに従えば、いけるはずだ)」
「すごく嫌です」
クソみたいなマニュアル作るな。暇か。
だったら強引にでも走って離れてやる。話を聞かない。これなら攻略もクソもないだろ。
ところが歩き出したと思ったらなぜか目の前にドドネアさんがいる。
周囲の風景が一瞬で切り替わったように思えた。方向感覚が狂わされたのか?
「話を聞いてほしくて転移させてしまった。許してほしい」
「許してほしいのはこっちですよ」
知らなかったよ。大魔法使いからは逃げられない。
* * *
「さぁさぁ! まずは一杯かるーく……」
「長、お酒は話が終わってからと言ったはずだ」
隙あらば酒を飲ませようとしてくる酔いどれエルフと大魔法使いドドネア。
他にはノキアやメル、メルの両親を始めとしたエルフの有力者達とオレから視線を外さない暗殺者みたいな奴。
長の家にて、そんなメンバーが一同に介していた。
「しょーがねぇなー。じゃあ本題だけどな。つい先日、祠を見てきたら予想以上に封印が危うい。もってあと四ヵ月ちょいってところだな(いや、三ヵ月くらいかもしれない。自信ないな)」
「数百年も経てば仕方ない。問題は復活後だろう」
「……ドドネア。あれをどうにかする術はあるか?」
「私の力をもってしても難しいだろうな(すべてを解放すればチャンスはあるかもしれないが、里が無事では済まないだろうな)」
オレの知らないやばい話がオレ抜きで進んでいく。
伝説の魔獣のことなんだろうけど、そんなもんの討伐がどうとかの話の場にオレがいていいわけないだろ。
神妙な顔つきをしたエルフ達には悪いけど、ここはハッキリと断らせてもらう。
「あの、ちょっといいか? その伝説の魔獣の討伐にオレが加われって話なら断る」
「ルオン少年。気持ちはわかるが話は最後まで聞いてほしい。私を含めて、エルフ達だけでは手に負えないのだ(すんなり受けてもらえるとは思っていない)」
「トカゲのネームドモンスターにすら一対一じゃ勝てないオレが役立てるとは思えない。それに冷たいけどオレには関係ない話だ」
「……世話になったエルフ達が皆殺しにされるとしても、か?(ルオン攻略マニュアル。あれでいて意外と情がある子だから攻めるならそこ、だ)」
グッ、さすがルオン攻略マニュアル。
痛いところをついてくるな。
確かに無関係の連中が死のうがどうってことないけど、オレもエルフの里にどっぷりと浸かった身だ。
そう言われてなんとも思わないわけでもない。
だけどさすがにオレも命は惜しい。
他人のために命を差し出せと言われて、はいと答えるわけにはいかない。
「すまない。少しばかり卑怯だったな。だがルオン少年、君の力がどうしても必要なのだ。これは媚びではない。伝説の魔獣グランディースはもはや単純な強さでどうにかできる相手ではないのだ。私があらゆる魔法を駆使しても、だ」
「だからってオレが役立てるわけないじゃん」
「君の強さはヒドラ本部にいた時から把握しているつもりだ。常識に囚われた我々にはない何かが君にはある」
「それもエルドア公爵が言ってたんですか?」
ドドネアさんが否定せずにオレを真っ直ぐ見据える。
シカも別の意味でオレを見据えている。お前もう帰れ。
そんな中、長が座り直してからコホンと咳ばらいをした。
「まぁアレだ。まずその伝説の魔獣が何なのか、説明させてくれ。ルオンやエフィにはわからんだろうからな」
「いや、別にいいです」
「話せば長くなるが、その後で長の私から改めて正式にお願いする。もちろん断るのであれば、それも構わない(断らせてなるものか。長くたっぷりと情に訴えかけるように語ってやろう)」
「長いなら別にいいですよ。遠慮しないでください」
オレの静止もむなしく、長が語り始めた。
エルフ最古の魔女ヘーベルが残した負の遺産の話を。
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