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野外実習は楽じゃないぞ

「バカ、進みすぎだ。草で足元が見えない時は慎重になれ」

「わ、わかったよ」


 オレとメルだけだった狩りにノエーテとエフィが加わった。

 今でこそ落ち着いているけど、最初はなかなか大変だったよ。

 ノエーテがオレ達を尾行していた時、明らかに準備不足だったからね。


 それはもうメルにお説教された。

 最初こそ辛抱していたノエーテだけど、そのうち船を漕ぎ始めたからさぁ大変。

 一時間の延長戦を乗り越えて、ようやく狩りを教えてもらう運びとなった。


 その長さといったら、当事者ですらないエフィがお説教ですやすやと眠っていたほどだ。

 そいつも討伐の心構えがなってないからお説教してほしい。


「気をつけろ(見て覚えろ。感じろ。甘えは許さん)」

「う、うん……(こっわぁぁ! やめときゃよかった!)」


 相変わらず妹といえど厳しい。

 何をどうしろとか、どこをどう気をつけろなんてメルの口からは絶対に出なかった。


 感じて覚えろと言うけど、その前に怪我をしたり死んでしまったら意味がない。

 一応、メルもノエーテのことを考えてペース配分に気を使っているのはわかる。

 先頭を歩いているから、見て覚えろということだろう。


 だからこそオレがフォローしてやっている。

 さすがに近くで死なれるのは寝覚めが悪いし、ノエーテに見て覚えろなんて無茶もいいところだ。

 それができたら引きこもりなんてやってない。


「ノエーテちゃん! ゾビランテ君もってきた?」

「うん、いつでも起動できるよ」

「じゃあ、野営の時に起動しよ!」


 あれって持ち運び可能なんだよな。

 折り畳み式だから野営にも対応できるとか、どんな技術だよ。

 とはいってもこちらは簡易版みたいで、室内に置くものとは機能がやや落ちるらしいけど。


 エフィはゾビランテ君が気に入ったみたいで、起動を今か今かと待ち構えている。

 ノエーテもまんざらじゃないし、これはいい傾向だ。

 あの堅物の姉と二人きりならまた挫折していた可能性が高い。


「ノエーテ、その魔道銃は以前のものとは違うようだが?(やけに長いな)」

「お姉ちゃん、これは魔道ライフル。より長距離にいる獲物を狙えるうえに威力が高いんだよ」

「どう使う?」

「こうやって狙いを定めてね……」


 メルはメルで魔道具にまったく興味がないわけじゃない。

 説明を聞くうちに弓以上の脅威と知ったのか、複雑な表情だ。

 いや、オレは矢でモンスターに風穴を空ける奴のほうが絶対敵に回したくないけどね。


「なるほど、これならば力を必要としないな(脅威だな……。これが普及すれば、弓など必要とされなくなるかもしれん)」

「ダ、ダメかな?(こんなものは邪道だ! とか言われそう)」

「お前がその武器に命を預けると決めたのだ。きちんと生き抜いて見せろ(当分はこの辺りを歩いて慣れてもらう)」

「お姉ちゃん……(優しい? なんで?)」


 相変わらず素っ気ない態度だ。

 だけどメルが妹が作ったものに興味を示したのは大きな一歩じゃないか?

 そもそもメルは元々魔道具そのものに反対していたわけじゃない。


 オレと同じく自立しないことに対して憤っていたんだろう。

 どういうものであれ、ノエーテは自分で立ち上がって前へ進むと決めたんだ。

 そこにあれこれ口を挟むほどメルは野暮じゃない。


 メルは口にこそ出さないけど、ノエーテのために比較的歩きやすいところを選んでいる。

 あまり奥まで進む様子はないし、しっかりと愛があるじゃん。

 

 それからの狩りはメルが中心だった。

 立ち位置、隠れる位置、敵との距離。

 すべてを把握した上で一撃必殺だ。


 ノエーテも魔道ライフルを構えて撃つけど命中精度がよろしくない。

 遠距離武器で一発のミスは致命的だ。

 例えば一発目を外して二発目を撃つ間に、グリーンダイガーは大幅に距離を縮めてくる。

 そして今こそ二発目を発射となったところで喉元に食いつかれて終わりだ。


「ノエーテ、ちゃんと見ておけよ。あれが遠距離武器での戦い方だ」

「ルオンってば、なんか兄弟子っぽい(師匠には敵わないくせに、新弟子には強者面するキャラだよね)」

「うるせーな。下らんこと言ってると今度こそグリーンタイガーに食い殺されるぞ」

「なんでそんなに怒るの!?」


 オレは弱い奴には強いんだよ。

 悔しかったらとっとと追い越してくれ。

 エルフなんだから森に関してはオレより適応力があるはずだ。


「ノエーテ。次はお前がやってみろ(実戦あるのみだ)」

「ま、また外したら……(スパルタすぎて泣きそう)」

「お前の後ろには私がいる」

「じゃあ、やる!」


 ノエーテがしゃがんで魔道ライフルを構えて、後ろで立ってメルが弓矢を構える。

 二段構えの状態でノエーテが遠くにいるバーストボアに撃った。

 弾丸はバーストボアをかすって奥の木に命中する。

 だけど同時にバーストボアに風穴が空いていた。


「やったぁーーー! 当てた! 当てた!」

「いや、よく見ろ。お前が外すのを見越してメルが矢を放ったんだ」

「げぇ! ぬか喜びィ!」

「な? 姉はすごいだろ?」


 ノエーテの魔道ライフルの構えから照準を予想したんだろうな。

 それで予め外すとわかっていたから同時に矢を放った。

 教えないくせにそういうフォローはしっかりやっているんだから、ちゃっかりお姉ちゃんしてるよ。


 何かに似ていると思ったけど野生動物の親子関係みたいだな。

 親は子に狩りを教えて独り立ちさせる。

 そういう意味では親父も同じかもしれない。


「いい感じに狩りが成功したし解体しないか?」

「そうだな、ルオン。やってくれるか?(ノエーテに見せつけてやってほしい)」

「オレでよければいいよ」


 バーストボアに解体用ナイフを入れて、丁寧に皮を剥がす。

 内臓を綺麗に取り分けて、肉を部位ごとにばらしているとノエーテがふらつく。


「おい、どうした?」

「お、おぇ……ぐっろぉ……(は、吐くかも……)」

「ぐっろぉじゃないんだよ。これが命をいただくってことだ。よく見ておけ」

「うぅ、野生えげつない……やっぱり部屋に引きこもってたほうがいいかなぁ」

「まったく情けないな。エフィ、続きをやってくれ」


 エフィに解体用ナイフを渡すと器用に切り分けていく。

 見た目とは裏腹に血や内臓をものともせずに作業を進める姿に、ノエーテが愕然としていた。

 どうだ? 慣れ合っていた時はぽわっとしたよくわからん奴くらいに思ってただろ?


「ノエーテちゃん! この内臓って蛇みたいだよねぇ!」

「ぎゃーーー! 近づけないでぇ!(無邪気に腸をぶらぶらさせてるぅ!)」


 こいつだってそれなりに冒険者をやってきたからな。

 それに解体だけオレにやらせるなんて都合のいいことはさせない。

 ぐろいだとか、そんなもん気にするタマじゃないからな。


 ちなみにエフィはこの腸詰めが大好物らしい。

 意味わからんパフェしか食わんと思ったら見かけによらず肉類とかそんなのを好むんだよな。

 綺麗に切り分けてひと段落したところで、オレは不意に背後を見た。


 何か来るな。この足音は人間二人、しかもかなりの強者だ。

 迷いがない足取りは確実にオレ達に向かってきているとわかる。

 つまりこんな森の中で、オレ達がここにいるとわかっているわけだ。


「皆、何かくるぞ。一応、警戒したほうがいい」

「里から誰か来たのか?」

「いや、この音はエルフのものじゃないな」


 メルが弓矢を構えて、エフィが詠唱を始める。

 ノエーテは魔道ライフルを構えられずに、かなり動揺している様子だ。

 元々こいつを戦力として数えてないから、足手まといにならないことだけを祈ってる。


 そして二人が林から姿を見せた。


「おやおや、ずいぶんと見上げた警戒態勢なものだな」

「……なぜ貴様がここにいる」


 その二人はオレがよく知っている人物だった。

 黒い三角帽子にローブ、露出が多いレオタード風の女と黒装束の女の子。

 そりゃ強いわけだ。


「ドドネアさんにシカ? なんでここに?」

「それはもちろん君達に用があるからだ」


 ヒドラ戦闘部隊の二人がなぜかオレ達を訪ねてきたわけか。

 拍子抜けしたというか、敵じゃなくてよかった。

 メルは弓の構えをといて、ドドネアさんと握手を交わしている。


「久しぶりだな。よく来てくれた(相変わらず凄まじい魔力だな)」

「メルも相変わらず不愛想で何よりだ。もう少し喜びを表現してくれたら嬉しいのだがな(いい魔力だ。これでいて滅多に魔法を使わないのだからもったいない)」


 二人は知り合いか?

 ヒドラが直々にこんなところまでやってくるなんて絶対まともな用事じゃないよな。

 久しぶりに会ったというのにシカがオレから目を離さないし怖いから逃げたほうがいいよな。


「ルオン、こんなところで何をしている(凄まじく強くなっているな。まるで別人だ)」

「なんだっていいだろ。お前こそ何の用だよ」

「まぁ猫の手も借りたい事態だ。協力してもらうぞ(戦えば無事では済まんほど強い。いったい何があった?)」

「お前がオレに?」


 邪魔だから消えろくらい言うと思ったのに何を日和ってるんだ?

 お前は本当にシカか?


「諸君。感動の再会といきたいところだけど、すぐに里に戻ってほしい(思ったよりアレの復活が近いのでな)」

「わかりました。すぐに里を出たいと思います」

「ダメだ。君にも参加してほしい(逃がさんよ?)」

「わかりました。早急に里を出ます」


 ドドネアさんがオレをあざ笑うかのように杖を指に乗せてくるくると回した。

 やっべぇよ。すっかり忘れてたけど、伝説の魔獣の件か?

 なるほど、そりゃヒドラも来るわ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 読者も忘れてた魔獣さん(笑) ごめんね~
[良い点] とうとう、フラグ回収か!?ルオンさん、自分が思ってるより強くなってる様子!頑張って伝説の魔獣を討伐しないとですね! 【オレは弱い奴には強いんだよ】でも、言ってることは正しいし、理不尽さが無…
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