外の世界は油断ならない
翌朝、爽快な気分で目を覚ます。
女の子がまだ眠っていたから無理に起こそうとせずに、オレは朝の空気を満喫していた。
夜の森とは打って変わって清々しい。
あの自然の中に広がる闇は心が落ち着くけど、朝は朝で心機一転。
鳥のさえずりを聞いて深緑の匂いを吸うと今日もやるぞと元気が出る。
「おふぁよ……」
「おはよう。軽く朝食をとって水分を補給したら町への案内をお願いするよ」
「ふぁいふぁい……」
気の抜けた返事が返ってきたけど、冒険者なのに朝が弱いってどうなんだ?
女の子の頭が起きるのを待ってから、オレ達は森を出た。
歩き始めて思ったことがある。この地図、やっぱりおかしくないか?
例えば今、歩いている道はこの地図に記されていない。
ここから先にあるという町も記されていないし、女の子がいなかったらおそらくスルーしていた。
オレが地図を睨んでいると、女の子がひょいっと覗き込んでくる。
「あれー? この地図、ずいぶん古いね?」
「え?」
「だってここ! かすれてるけど地図の作成日が二十年前だよ?」
「あっ……」
確かによーく見ると日付が書かれている。
それは確かに今から約二十年前の日付だった。
この地図は親父が持たせてくれたものだ。
あの親父のものなら、もっと早く疑うべきだった。
「二十年前はフーレの町が記されてなかったんだね! 新発見!」
「これから行くのはフーレの町ってところか?」
「そっ! あと二時間くらいで着くかな?」
女の子の言う通り、二時間ほど歩いたところで町に着く。
実はオレは初めて町というものを見た。
自然と一体化したような村とは違い、ここは人工物で溢れかえっている。
人の数も村とは比べ物にならない。
村じゃ道を走ったら誰かとぶつかりそうになるなんて心配は一切なかった。
「すご……」
「あははー、おのぼりさんだね! じゃあ、冒険者ギルドに行こうか!」
恥ずかしながら、オレは空いた口が塞がらない。
この新鮮な刺激はきっと生涯、忘れないだろう。
こういう一つひとつの思い出を積み重ねて、人生というものが作られていくんだ。
案内された冒険者ギルドはオレの家の何倍も大きい。
建物の壁が木製じゃない上に、ドアなんかオレが修理しなくてもいいような頑丈な作りだ。
建物の中に入ると更に驚きが待っていた。
たくさんのテーブルに冒険者らしき人達が座って喋っている。
テーブルの上に硬貨を並べているあの冒険者達は、報酬の相談かな?
(なんだ? 子どもか?)
(かわいそうに。親に冒険者でもやって稼いでこいって言われたのか?)
(あの歳じゃ討伐依頼は難しそうだな。どこかで日雇いの仕事でもするんだろう)
(妙な兜をかぶっているな)
さっそく冒険者達の心の声が聞こえてきた。
確かにむさ苦しいおっさんばかりの中に、オレみたいなのが飛び込んで来たら嫌でも目立つ。
「冒険者登録はあっちの受付でするんだよ」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
受付にいくと身綺麗な格好をした女性がいた。
立っているオレに気づいて、ニッコリとほほ笑む。
「いらっしゃい。今日はどんな用できたの?(あらぁ、ずいぶんとかわいらしいお客さんね)」
「冒険者登録しにきました」
「では登録料として銅貨三十枚いただくわ(本当は二十枚でいいけど、どうせわからないわ)」
「……三十枚? そんなに必要なんですか?」
クッソ、これが町の洗礼か?
田舎の子どもだと思ってめちゃくちゃ足元を見られてるじゃないか。
これ、オレ以外にも銅貨三十枚を素直に支払った人がいるんだろうな。
「耳兜君、私も銅貨三十枚を払ったよ?」
「払ったのか……」
オレを案内してくれた女の子からもぼったくっていたのか。
こいつは許せないな。
「一応そういう決まりだからね(手持ちの銅貨がないのかしら?)」
「もう少し安くできません?」
「うーん、こればっかりはねぇ。でもボウヤ、かわいいから特別に銅貨二十五枚にしてあげる(取れないよりマシ。今月は博打をやりすぎてカツカツなのよね)」
「二十枚じゃダメですか?」
本当はもっと持っているけど、この人の博打代を出す気はない。
オレが食い下がったせいか、女性は途端に不機嫌そうになる。
「ダメね。こっちは遊びでやってるわけじゃないからね。そもそもなんで冒険者になりたいの? 親は?(説教しましょ。嫌になって帰るだろうからね)」
「あなたに話すつもりはありません。本当に銅貨が三十枚も必要なんですか?」
「だからそう言ってるでしょ。他の人達も皆、払ってるのよ(カモにできそうな奴にだけ、よ)」
「あー、それはいけませんね」
オレの言葉に受付嬢が怪訝な顔をした。
確かにギルド内を見渡しても、登録料のことがどこにも書かれていない。
これじゃオレみたいな田舎から出てきた世間知らずはカモにされるわけだ。
しょうがない。女の子には案内してもらった礼がある。
彼女の分も含めて返してもらおう。
「何がいけないのよ(しつこいわね。とっとと銅貨を置きなさいよ)」
「だってあなたの知り合いが言ってましたよ。冒険者登録を希望する奴からたまに多くもらってるってね」
「……は? なに?(あ、あれ? 私、誰かに喋ったっけ?)」
「おかげで博打ができるんですよね」
「ちょ、な、なに言ってるの!(ウソウソウソウソ! なんで! なんでバレてるの!?)」
オレと受付嬢のやり取りが目立ったんだろう。
冒険者達がざわつき注目し始めた。
「ボ、ボウヤ! ちょっとこっちへ!(まずいまずい! ひとまず黙らせないと!)」
「こっちってどっちですか? 着服したお金がある場所ですか?」
「わかったわ! 銅貨二十枚ね! 次は冒険者登録の手続きに進むわ!(もう勘弁してぇ!)」
「わかりました」
受付嬢の冷や汗がすごい。
誤魔化したつもりだろうけど、これたぶん広まると思うぞ。
その証拠に何人かの冒険者達がやってきたじゃん。あーあ。
「おい、お前よ。今の話は本当か? 昔、俺が登録した時は確かに銅貨三十枚とられたぞ(マジだったらぶっ殺すぞ)」
「あ、あらぁ! 私ったら、おっちょこちょいね! お返ししますわ! オホホホ!(返すから! 返すからぁ!)」
「これはちょっと上に掛け合う必要があるな(こりゃ大問題だな)」
「いやぁぁーーーーー!(終わった! 終わったわーーーー!)」
なんだか騒がしいけど、こっちの手続きを早くやってくれないかな。
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