冒険者として当然の仕事だ
昨夜の野営の準備は見事な手際だった。
なぜか気をよくしたエルフ親子が手伝ってくれたんだけど、火の起こし方から寝床の準備までが本当に早い。
オレの半分以下の時間で完了させるだけじゃない。
モンスターに見つかりにくい位置や風向きを考慮した上で場所を選んでくれたおかげで快眠できた。
更にその辺の草を刈って寝床の保温性を高めたのは新発見だ。
だけどどんな草でもいいわけじゃなくて、種類なんかを見極める必要があるらしい。
保温性も大切だけど、肌がかぶれたり害虫がつきやすいものはダメだとのこと。
料理にはその辺で採取した野草でひと手間を加えてくれた。
植物の知識があるエルフならではの手法だ。
なるほど。そういうことがわかれば、現地で素材を調達しやすくなる。
オレも山暮らしが長いけど、知識や応用力はエルフにはまったく及ばない。
これはエルフの里に着くのが楽しみになってきたな。
ただの堅物と変態の両親じゃないってことか。
まぁその娘はろくに手伝わずに爆睡したんだけどな。
「ルオン君、昨夜はすまない。我が娘ながら本当に情けない……(これは帰ったら徹底して鍛え直さないとな)」
「大丈夫ですよ。こっちにも似たようなのが一人いますからね」
起きてから時間が経つというのにエフィが大あくびをかいて、まだ少しふらふらしている。
お前、それでモンスター討伐を生業にしていたってマジ?
と、何度聞いたかわからない。
あんなのでも生き残れるんだから、冒険者なんてちょろいなと思われたとしてもしょうがないな。
「ノエーテ! いつまであくびをしている! いい加減にシャキっとしろ!」
「ふぁいっ!?」
「昨夜は全部ルオン君に任せきりにしていたな! 礼の一つでも言ったらどうだ!」
「ふぁいふぁい、りゅおん君、どうもねぇ……」
これほど感謝が感じられない礼がかつてあっただろうか?
別にいいんだけどさ。
普段、外に出なさそうな奴がいきなりこんな旅をしてついてこられるわけがない。
だからオレとしては割り切っている。
「りゅおん君……今からでもパパとママだけ帰らせてぇ……(頭がぐわんぐわんするぅ)」
「そういうのはギルドを通して正式に依頼してくれ」
「なにそれぇ……」
「お前、色々ともったいないよな」
「ふぇ?」
ノエーテが目をこすりながら、話半分で聞いている。
こいつもエルフなら、里で生きた両親を見ているはずだ。
どんな暮らしや仕事をしてきたかわからないけど、オレの環境とは違った学びがあるだろう。
そう思うとオレとしてはひたすらもったいないと思う。
「お前の人生だから好きにすればいいけどさ。もっと頭を使って自分の人生について考えたほうがいいんじゃないか?」
「どーいうことさぁ……(やーだー、またお説教されちゃいそう)」
「お前の才能があれば、オレなんかよりよっぽど楽な人生が送れると思うぞ」
「私の才能……(話し合いの時、ひとまず自立するように言われたけど……)」
ノエーテを褒めてもなんにもならないけど、オレは思ったことを言っただけだ。
ここから先は自分で考えてもらうしかないな。
自立すれば、うるさい両親に口出しされずに自由にできるんだぞ。
そんなことになるくらいなら、オレだったら絶対に自立――
ん? 待て、この音は。
「ねぇ、ルオン君。私の才能って」
「ちょっと静かに。ん……これはまずいかもな」
「へ?」
「予定しているルートにちょうどネームドが居座っている。迂回したらとんでもなく時間がかかるぞ」
「ぎゃーーーーーー! 迂回! 迂回! うっかっいっ!」
うるせぇ黙れ。
耳を澄ますとこの音はたぶん間違いない。
足音や息遣い、一挙一動の音がそこらのモンスターとは違う。
でもこの音を聞いてオレは安心した。
こいつ、今のオレ達なら勝てる。
ネームドって聞いてびびってたけど、あのトカゲの大将より格下だ。
だったら話は別だ。
いつやるのかとなったら、今しかない。
オレは勝てる戦いなら喜んでやる主義だ。
「皆さん、すみませんけどネームドを倒します」
「大丈夫か? もちろん私達も手伝うが……(あれはかなり手強いぞ。総動員してどうにかなるといったところか)」
「いえ、ここはオレ達に任せてもらえませんか? 二人にお願いしている立場ですし、あくまで同行者ですからね」
「い、いいのか? いや、さすがに……(なんだこの少年の漲る自信は?)」
「お二人に怪我をさせるわけにはいきません。冒険者として守り通してみせますよ」
ノエーテの父親がまた震えて何かを堪えている。
今度こそ、己を知れとか怒鳴られるか?
それならそれで手伝ってもらってもいいけどね。
勝てる戦いがあるから、好感度アップできるならやっておこうと思っただけだ。
「感動したッ! そこまで配慮ができる冒険者などなかなかいないぞ!(ますます気に入った! 里に帰ったら胸を張って皆に紹介しよう!)」
「いえいえ、こんな当たり前のことができない冒険者なんて引退してしまえばいいんですよ」
「その通りだ! 近頃は――」
なんか長い語りが始まったから無視して進むか。
この先にいる悪食なる殺戮者は鰐の化け物だ。
大口を開けて馬を丸のみにするほど食欲旺盛なネームドで、遭遇した場合はわざとそうしている人もいるみたいだ。
命と引き換えとはいえ、馬一頭を餌としてくれてやるのは不本意だろう。
そんな迷惑な化け物はオレが討伐してやる。
さぁ見えてきたぞ。
あれが鰐の化け物、悪食なる殺戮者だ。
紫色の鱗と肌の巨大鰐がのっそりと歩いている。
でかすぎて草むらに隠れきれず、ぎょろりと動く目が見えていた。
以前のオレなら迷わず逃げの一手だっただろう。
「エフィ、いくぞ」
「ルオン君にしては珍しいね。いつもは『ああいうのは凄腕に任せればいい』とか言い訳して逃げるよね」
「夢でも見たんじゃないか? いくぞ」
まだ寝ぼけているなら今すぐに起きてくれ。
オレは冒険者としての仕事を果たすんだ。
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