このエルフの親子、おかしくない?
「話はついた。ルオン君、どうやら君は娘からアブリナの花を採取する依頼を受けているそうだな(さきほどは冷静さを欠いていた。少し様子を見よう)」
「そうですね」
カフェからノエーテ親子が出てくる。
親子水入らずの話し合いということで、部屋を出てから場所を移していた。
あんな悲惨な汚部屋じゃ心が荒んで再戦が勃発してもおかしくないからな。
その際にオレ達は少し席を外していた。
で、様子見か。
敵認定されなかっただけでも上々だ。
ノエーテはというと、申し訳なさそうに俯いたままだった。
じゃあここからは予定通り、好感度を上げよう。
うまくいくかわからないけど、ひとまず態度を軟化させるか。
「ならば不躾な提案ではあるが、私達も同行させてもらえないか? 実はこのバカ娘と一緒に里に帰ることにしたのだ(なぜ敬語になる?)」
「はい、いいですよ。そのかわり、と言っては何ですけどオレ達をエルフの里に連れていってくれませんか?」
「む、なぜだ?」
「エルフの暮らしとか、色々と勉強させてほしいんです。今後の人生に役立てられると思います」
突然、ノエーテの父親が押し黙った。
あれ、悪手だったか?
なんかぷるぷると震えてるし、また激怒するならもう付き合えんぞ。
「……偉いッ! 今時、なんという気骨ある少年だ!(感動した!)」
「どうもです」
「いいぞ! 存分に学ぶがよい! いやぁ、人間にも君のような者がいたとはな! ハッハッハッ!(よし! 帰ったら二千年ものの酒をあけよう!)」
「恐縮です」
なんというか、えらい単純だな。
人間がエルフの暮らしに興味を示しただけだぞ?
桁違いの年月が経っている酒をあけるほどか?
「ひとまずこの部屋は引き払うってことですよね?」
「そうなるな。申し訳ないが時間をいただきたい(冷静になればなるほどひどい部屋だ……情けない)」
「じゃあ、オレも手伝いますよ」
「なにィッ!」
いちいちリアクションがでかいな!
耳がツーンってなったぞ!
「君は……本当によくできた若者だッ!」
「じゃあ始めましょうか」
肩をガッシリと掴まれて痛いのなんの。
目元を潤ませるほど感動するか?
というわけでノエーテの部屋に戻って部屋の片づけを始めた。
一瞬だけ迷ったけどオレは手伝うことにする。
ここで好感度を上げておくに越したことはない。
見れば見るほどひどい部屋で、どう手をつけていいかわからないほどだ。
そういえば冒険者ギルドの依頼に部屋の清掃ってのがあったな。
きっとノエーテみたいな奴が他にもいるんだろう。
「ルオン君、助かるぞ! 冒険者のようだが、意外と器用だな!(本当に積極的な少年だな。こういう若者が婿にきてくれたら……)」
「お安い御用ですよ。モンスター討伐しかできない冒険者なんて、いざという時に仕事がなくなりますからね」
「ほう、それはどういうことだ?(この歳でよく言ったな……)」
「例えばモンスターが激減したり、もっと楽にモンスターを討伐できる手段が出てきたら討伐専門の冒険者なんて廃業します。オレはそういうのが嫌だから、色々やってるんです」
「偉いッ!」
だからいちいち大声を出すなって!
まぁ好かれているならそれに越したことはない。
「聞いたか、母さん。今時、ここまで考えている若者などなかなかいないぞ(辛口の母さんの意見が気になるな!)」
「そうね。気骨ある子で見直したわ(ぬぼっとしたボウヤだと思ってたけど、かわいらしいじゃない。ウフフフ)」
ホント急にオレの評価が上がってない?
ぬぼっとしたって表現は全世界共通なのか?
オレのどこがぬぼっとしてるのか説明してみろ。
「ルオン君! ウルフがガラクタの中から銅貨を発見したよ!」
「エフィ、ここはそういう発掘作業をする現場じゃないんだ」
お宝探しやってんじゃねえよ。
お宝ならいいけど、もしかしたら未知の生物が誕生しているかもしれないぞ。
遊んでいる奴は放っておいて、オレは手早く片付けることにした。
必要ないものはゴミとして仕分けして、管理人が納得するように部屋の清掃を行う。
こうして作業に没頭すること丸一日、なんとか部屋を引き払うことができた。
ガラクタを片づけた際に壁に人型の染みがあることがわかったけど、もう知らんよ。
管理人に言及されたけど答えようがない。
住んでいた本人が震えあがって戦慄しているほどだからな。
知らぬがなんとかってね。
****
アブリナの花は王都から遥か東に進んだところにあるフォルシナ平原に咲いている。
訳のわからない森と違って見通しがいいし、足場も安定していた。
ただし一つだけ問題があって、アブリナの花が咲いている場所の近くに川が流れている。
その川には割と有名なネームドモンスターが生息しているみたいだ。
まぁ川から群生地まで離れているから、戦う必要があるかといえばどうかな。
つい最近も冒険者が何人か川に引きずり込まれたと聞くから怖いね。
「ノエーテ! さっさと歩け! さっきから何回休憩していると思ってる!(これが我が娘なのか?)」
「は、はひ……わ、脇腹が痛いよぉ……(これだから運動とかクソだわぁ)」
「ルオン君達を見ろ! あのキビキビした歩き方! 美しいにも程があるッ!(あれはどういう動きなのだ?)」
「そりゃそうでしょー……(体ばっかり動かしてる人達と一緒にしないでぇ)」
歩いてるだけでここまで褒められる日がくるとは思わなかったな。
これもレイトルさんとドキムネさんのおかげだ。
普段の動作から無駄を排除すれば、戦いの時のために体力を温存できる。
だけどオレをそこまで褒めても一銅貨にもならんぞ。
「ところでルオン君。アブリナの花が咲いている場所の近くに川があってな。そこに悪食なる殺戮者という恐ろしいモンスターが生息しているのを知っているか?(さすがに知らんか?)」
「知ってますよ。そいつはできればスルーします」
「偉いッ! 危機管理能力が備わっているようだな!(己の実力を過信するかとばかり思っていたが、なるほど!)」
「そんなストレートな名前の化け物なんて避けるに決まってるじゃないですか」
さすがエルフ、冒険者でもないのによく知ってる。
ところでさっきから何を言っても褒められるんだけど、どうなっているんだ?
もうオレがあくびをしただけでも褒めてきそうだな。
「……さっきからモンスターとさっぱり遭遇しないな?(まさかこの少年が何かしたのか?)」
「そうですか? 運がいいんですよ」
「私達が来るときはそこそこ襲われたものだがな(スキルの類でもない。となると、あの兜が怪しいな)」
お察しの通り、ヘッドホンでモンスターの音を聞いて避けている。
それでも大きく迂回するわけにはいかないけどな。
経験のためには戦ったほうがいいという考え方もあるけど、今はお荷物が約一名いる。
杖をついて歩いている姿とか悲惨すぎて見ていられない。
「きゅ、きゅーけい、おねがひぃ……(あっあっあっあっ)」
「しょうがないな。今日は少し早めに切り上げるか」
「み、みず……(かゆ、うま……)」
「ノエーテは座って休んでいろ。ゾビランテ君を使ってもいいぞ」
予定より早く野営をすることにした。
少し判断が早かったか?
あの父親、また娘を叱るかもしれない。
確かにあと少し進めば予定通り平原を抜けられる。
だけど急ぎの旅じゃないから、ここは安全策をとらせてもらった。
ノエーテが食われて死ぬだけじゃなく、オレ達の命もかかっているからな。
「偉いッ! なかなか判断が早いな! うちのバカ娘のせいで申し訳ない!(今時、珍しいほど慎重な少年だ!)」
「じゃあ、野営の準備とか手伝ってくれます?」
知ってた。
もうオレが屁をこいても褒めるんじゃないか?
こんなにすぐ褒めるなら、なんでもっと早く娘と向き合ってやれなかったんだ。
「野営の準備は任せろ! 母さんも頼む!(実に頼もしい! 久しぶりに気分がいい!)」
「えぇ、ルオン君達は休んでいてね(あぁ、いいわぁ。ゾクゾクするわぁ)」
オレもゾクゾクしてきたよ。背筋がな。
倒木に腰を下ろして休ませてもらうことにした。
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